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五,心霊少女の疑惑 その1

 「検証 心霊現象の是非」は撮影から一週間経っても二週間経っても放送日時の決まらぬまま、実質お蔵入りの状態にあった。

 人の口に戸は立てられない。あの収録を観覧した観客の中でネットの掲示板等に「廃寺の竹林で死体を発見したのは姫倉美紅の霊視によってである」と暴露する者があった。そんなまさかと取り合わないコメントが大半だったが、「それは本当のことである」と反論する別の観覧者の書き込みがあったりして、ネット上の論争も白熱の度合いを高めていった。姫倉美紅に関しては、「いや、そんなことどーでもいいから」と、その可憐なルックスにテレビへの再登場を熱望する意見が、中央テレビのホームページにも殺到していた。

 この不真面目な状態に業を煮やした朝日奈博士は自身のブログで廃マンションの中庭上空に現れたいわゆるオーブがシャボン玉であったこと、自称霊能力者姫倉美紅の霊視した「墓地の跡地」というのがまったくの事実錯誤であることを暴露した。

 中央テレビは博士に記事の削除を求めたが、博士は突っぱねた。

 世間一般の認知度で言えば姫倉より博士の方が圧倒的で、反響は大きく、記事には反オカルトの賛同者による「やっぱりな」といったような多くの呆れたコメントが書き込まれた。

 しかしそれでも博士は満足しなかった。あのこまっちゃくれた女子高生の馬鹿にした笑いが頭から離れず、ぎゃふんと言わせてやらねば腹の虫が治まらない思いだった。

 しかしそれには、「偽の心霊写真で死体発見」のトリックを見破らなければならない………。



 見つかった死体の身元は判明している。

 S県の中堅土木建築請負業「マツバラ」の松原龍男社長六十四歳。

 九月十七日月曜…敬老の日で休日、に、午前十時過ぎ、何者かから電話が掛かってきて(相手は女で、同市内の公衆電話からだった)家族(奥さんと二人暮らし)に「会社に行って来る」と伝え自家用車で出かけた。そのまま夜になっても帰宅せず、連絡も付かず、心配になった奥さんは会社幹部らに連絡するが、会社も休みで誰も社長の行方を知らず、念のため副社長が会社に行ってみると、社長の車も社長の姿もなく、ついでに金庫が開いて中に入っていたはずの会社の運用資金およそ五百万円が無くなっていた。副社長は真っ青になり、直ちに警察に通報した。

 その金は会社の経営上、無くては絶対に拙い金で、この数年赤字経営の続いている会社にとって最後の命綱とも言うべき金で、実質それが無ければ倒産に直結する物だった。

 それが消えて、会社幹部は社長の持ち逃げを疑った。

 社長にはマンションの一室を与えて囲っている愛人がいた。その部屋へ急行してみると、留守だった。社員を張り付かせて見張ったが、三日経っても帰ってこなかった。

 やはり二人で逃げたのだと疑われた。

 警察の捜査では刑事事件につながる現場検証の状況や付近の聞き込みの証言も得られず、会社の苦しい事情もあって、やはり金の持ち逃げを疑い、社長の行方の捜索に絞って以後捜査が行われていた。

 見つからないまま十日が過ぎ、

 九月二十八日金曜午後、S県内の会社より三十キロほど離れた田舎の廃寺の竹林から発見された死体が松原社長であることが判明。捜索の結果現場より五キロほど離れた林の中で社長の自家用車が見つかった。会社金庫の金は発見されなかった。

 社長の遺体が発見された夜、社長といっしょに逃げたと思われていた愛人はのんきに海外旅行から帰ってきたところを警察に事情聴取され、ここで初めてパトロンの行方不明と死を知り、愕然とした。飛行機の搭乗記録、行く先のホテルのチェックイン時刻、防犯カメラの映像などから彼女が事件と無関係であるのは確かなようだ。呆れたことに彼女はかの地で男性と落ち合い、ご主人様には内緒の秘密のアバンチュールを楽しんでいたのだった。

 社長の死因は絞殺。太いロープで絞め殺されたようだ。相手が非力だったのか長い時間掛かって苦しみながら死んだようだ。発見された遺体は自分の爪で首をかきむしった跡がいっぱいにつき、物凄い顔をしていた。

 死亡推定時刻は行方不明になった十七日の午後六時から八時までの間。


 この時刻が、遺体を発見してしまったテレビ番組制作者たちには問題だった。


 それはさておき。

 殺された松原社長は姫倉美紅と関係があると言えば、あった。

 そもそも彼女が問題とされた「お化けビル」のロケ、そのビルの建築工事を不動産会社から請け負った建築会社の一つに「マツバラ」が入っていた。

 しかしそれも請負のまた請負で、それほど大きな額の仕事でもなかった。

 姫倉との関係は極めて薄いと見られる。

 社長が殺害されたのは金庫を開けさせた上での口封じで、犯人(たち?)の目的は五百万円の金であったのが濃厚だ。

 金を奪われた会社には気の毒だが、元々赤字続きで後がない状況であったわけで、このまま倒産するのは免れないようだ。

 金を持ち逃げしたのは社長ではなかったわけだが、金庫に多額の現金が入っていたのを知っていた内部の関係者の犯行である疑いが強く、警察は初動捜査ミスの汚名をそそぐためにも厳しく調べ直しをしている……事件発覚後すぐに110番した副社長以下幹部たちにとっては何を今さらで腹立たしい限りだが。

 ところが。

 捜査を進める中、もう一人強い動機を持つ有力容疑者が浮上した。

 松原社長は社員に対して非常に厳しい人で、今から四年前の二〇〇八年、営業成績の振るわないのを厳しく責められた若い社員が自殺している。いわゆるパワハラである。桝岡良二、当時二十九歳。彼が自殺したのが九月十五日。月曜、敬老の日だった。

 更に、桝岡良二を調べていて驚くべき事実が分かった。

 彼は当時母一人子一人の二人暮らしをしていたが、兄が一人いた。その兄が、「お化けビル」=「DKBマンション」の所有会社「タマイシ不動産開発株式会社」の元社長で、元住人が自殺した二〇〇七年三月、その後を追うように同二〇〇七年八月に自殺していた。桝岡良一、当時三十四歳。弟良二とは五歳違いの二人兄弟だった。

 わずか三十四歳で大会社の社長とは若い。彼が社長に就任したのは住人(自殺した岡田健人)から手抜き工事を疑う指摘をされた直後で、会社側はこの人事を「新しい才気溢れる人材で会社をリフレッシュするため」と説明していて、確かに桝岡良一は開発部のエースではあったが、いかにも不祥事の矢面に立たせるために仕組まれた人事で、当時のニュース映像で記者会見場でいっぱいにフラッシュを浴びながら青白い顔で頭を下げ、記者たちの厳しい追及にしどろもどろに答える姿は哀れだ。彼は債権者と記者に追いかけ回された挙げ句、結局、マンション元住人の自殺が決定打となり、状況に耐えきれず人里離れた山中にてひっそりマイカーでの排ガス自殺に果てたのだった。

 早くに夫に先立たれ、長男良一、次男良二を相次いで自殺で失い、一人取り残された母の、無念と、会社に対する恨み、世間に対する恨みの念は、どれほどのものだったろうと思われる。

 桝岡良一の死んだのがS県B山の山中。その麓の林の中で松原社長の自家用車が見つかっている。

 桝岡良二は首吊り自殺だったが、その現場は町中の以前「マツバラ」が造園に参加した市民公園の立木だった。

 偶然であるのかも知れないが、S県B山の兄良一の死んだ場所と、市民公園の弟良二の死んだ場所と、直線で結んだそのちょうど中間地点が、竹琳寺だった。ちなみに竹琳寺は二十年来廃寺で、周辺も十年前よりほぼ無人の状態だった。散らばる古い民家にも住む者はいない。寺から離れた国道寄りの田畑の一部が市民農園として利用されているに留まっている。

 良一良二兄弟の母親は現在六十三歳。S県K市のアパートで一人住まい。兄弟とも独身で、母親には身近な近親者は一人もいなくなってしまっている。

 この母親が次男を自殺に追いやった松原社長に対して最も強い殺害動機を持っているだろう。しかし犯行当時のアリバイは近隣住人によってしっかりしており、直接の犯行は不可能。誰か人を雇ってということも考えられるが、経済状況は日々の生活でいっぱいいっぱいのようで、殺人を請け負う人を雇う貯蓄もなさそうだ。会社の金庫から大金が消えているからそれを報酬に、と考えれば、やはりそれを知っていた者が犯行に絡んでいると考えられ、警察では会社関係者に桝岡良二が自殺した当時のことを聞くと共に、誰かその事で特に同情的であったり、社長に対して批判的であった者がいないか、詳しく調べている。ちなみに、社長の自宅に掛かってきた電話は、最初奥さんが出たが、「ヒメノ」と社長の愛人のホステス時代の源氏名を名乗った声は若い女で、六十過ぎの桝岡母の声ではあり得なかった。その時間電話が掛けられた公衆電話にいることもアリバイ的に不可能。

 犯行は表立っては金目的の強盗殺人事件と見られているが、目端の利く週刊誌記者なんかが裏の怨念物語を嗅ぎつけて騒ぎ出すのも時間の問題と思われる。

 以上は警察の事情。

 テレビ局の事情はまた違っていた。



 藤森プロデューサー始め「検証 心霊現象の是非」を制作したチームは頭を抱えていた。

 自分たちが作ったインチキの心霊写真に教えられて死体を掘り出したなどと、警察に説明できるわけない。彼らは警察に対して報道同様煮え切らない言い訳をするしかなかった。下手なことを言えば自分たちが犯人と疑われかねない。警察もテレビ局がまさか視聴率を狙って本物の殺人事件を演じるとは思っておらず今のところ厳しい追及はされていないが。

 いや、ひょっとして……、と、偽のCG心霊写真を作った映像技術者が疑われて藤森に尋問されたが、彼は哀れなほど怯えて、知らない、と繰り返すのみだった。

 疑うとすれば、姫倉美紅だった。

 極端な話、最も合理的な説明は、犯人は姫倉美紅で、ああした偽の心霊写真が作られたのを知って、それを本物にするために人を殺し、その写真の場所に死体を埋め、あたかも霊視したように言い当てた。

 そこで問題になるのがCG写真が作られた日時と、社長の誘拐殺人の犯行日時だ。

 事件の最初は自宅に電話の掛かってきた九月十七日午後十時過ぎ。社長の死亡推定時刻が同日午後六時から八時の間。

 この時間関係が微妙だった。

 映像技術スタッフが偽の心霊写真を作るよう依頼されたのが前の週の金曜日、十四日。彼は土日月曜祝日の三日間の休日の宿題として四枚の偽心霊写真を作るよう、藤森プロデューサーに依頼された。ちなみにこれは「恐怖心霊事件ファイル」の収録が行われた二日後のことであり、最初から検証番組とセットでこの企画が通っていたことを窺わせる。彼はその日の内に制作部の画像データライブラリーから使えそうな写真を百数十枚USBフラッシュメモリにダウンロードし、自宅に持ち帰った。

 日曜が子どもの誕生日で、土日と親子三人泊まりがけで某リゾートランドに遊びに行った。彼は子どもの誕生日前にそんな不吉な仕事をするのを嫌い、帰ってきてから、月曜日、まとめて四枚の偽心霊写真を作った。この手の作業は慣れたもので時間は掛からないが、手間の掛かるのは素材の選定だった。それに時間が掛かり、途中うたた寝したりして、制作作業に入ったのは夕方から、夕食を挟んで、完成したのはちょうど九時だった。

 作成した偽心霊写真の作業ファイルには最初にファイルを作成した時刻と完成した際の最終更新時刻が情報として記されている。

 問題の竹琳寺の写真は四枚の内一番最後に作られ、作成が8:50、最終更新が9:00だった。わずか十分の作業時間で、ベテランの腕を考えてもかなりいい加減に作ったのが窺える。本人も「疲れていた」と答えている。

 松原社長の死亡推定時刻が午後六時から午後八時の間、つまり偽心霊写真が作られた時間既に死亡していたはずだが、これがその場所に埋められていたかと言うと、これは分からない。姫倉の「霊視」を信じるならば既にその場所に埋められていた社長が、怨念を放って映像技術者氏にその写真を作らせたということになると思われるが。しかしその写真を素材として選択したのは夕刻までで、その頃は社長はまだ生きていたはずだ。ましてライブラリーからまとめて選び出したときには社長はぴんぴんしていたはずだ。どう考えたらよいのだろう?

 姫倉が偽物の霊能力者で、霊視がでたらめで、たまたま偶然が重なったなんてことはあり得ないから、姫倉が偽の霊能力者でその上霊視を的中させてしまったのなら、そこに必然がなくてはならない。

 事件の真相は、

 姫倉美紅こそ犯人である。

 彼女は自分が偽の心霊写真で試されることを知り、それを逆手に自分の霊能力を証明するため、お化け事件に引っかかった松原社長を生け贄に選び、これを電話でおびき寄せ、金を奪った上で殺害した。どういう手段でか偽心霊写真の内容を知り、ちょうどいい竹琳寺の竹林に写真の偽亡霊の顔を目印に死体を埋めた。そしてスタジオでさも本物の霊能力者であるがごとく振る舞って、霊視を的中させてみせた。……………。

 合理的に考えればそういうことになるが、そんなことがあり得るだろうか?

 たかが十七歳、高校二年生の女子である。いかに人を食った態度を見せようと、自分が本物の霊能力者だという嘘をつき通すために殺人を犯すなんてことがあるだろうか?

 最近の女子高生ならあるいはあり得そうにも思うが……。

 しかし実際にそれが可能か?

 いったい、

 姫倉美紅とはどういう少女なのだろう?

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