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四,荒れる中学校 その2

 翌日火曜日。生徒は担任からの連絡を待って二時間遅れの十時三十分に登校し、三時間目からの授業になった。ショートホームルームで、昨日保健所から学校を検査してもらって、念のため二年生の教室と廊下を全部アルコール消毒してもらい、今朝も先生方で学校中調べてみたが異常はなかった。昨日異常行動を取った二人は病院で専門の検査を受けたが、体の方に特に異常はなく、二人とも一種のノイローゼ状態だろうとのことで念のため入院している、と報告された。

 先生たちにも生徒にも不安があったが、特に問題はないだろうと保健所からお墨付きもいただいて、学校は再開された。


 二年四組 塩田圭祐。

 彼は昼休み担任に呼ばれて職員室で話を聞かれた。

 不安を感じる生徒から、三人がおかしくなったのは呪われた黒ビルに肝試しに入ったせいではないか?と密告があったためだ。学校でおかしくなった二人と、もう一人、五組の向井も昨日に引き続き欠席していた。

 塩田の奴もおかしくなるんじゃないか?

 そういう疑いで塩田はクラスメートたちから避けられ、恐れられていた。

 職員室で担任の前に立った塩田は普通にしっかりした様子だった。背は中位だが、痩せて首が細く、色が女の子みたいに白い。普段からどこかおどおどしたところのある、おとなしい生徒だった。

 ごく普通に見える塩田に担任は訊いた。

「おまえたち…おまえと大橋と、五組の廣田、向井で廃マンションに入ったというのは本当か?」

「はい」

「駄目じゃないか? あそこは立入禁止だろう?」

「はい。すみません」

「うん。それでだな……、建物の中にも入ったのか?」

「入りました。中庭と、上の方まで上ってみました」

「駄目だぞお? ……それで、何かあったのか?」

「何かって?」

「いやあー………、何か、だ」

「何もありませんよ」

 塩田は無表情に、呆れたように先生に言った。

「先生は、幽霊なんかを信じているんですか?」

「いやあ…、先生はそんな物、信じているわけじゃないんだがな」

 何となく言い訳臭く言う先生に、塩田は言った。

「そうですよ。幽霊なんか、この世にいるわけないじゃないですか。馬鹿馬鹿しい」

 担任は、はて、この生徒はこんな風にはっきり物を言う子だったかな?、と意外に思った。

「そうだな。でも、何か気になるようなことはなかったか? 何か変な臭いがしたとか、めまいがしたとか?」

「何もありませんでした」

 塩田ははっきりと言いきった。


 午後の授業中も問題は起こらず、念のため今日は放課後の部活動もすべて休みで、全校生徒が一斉に帰宅した。

 その日は一日何事もなく、先生方もほっと胸をなで下ろした。


 何も起きなかった火曜日だが、水曜日にまた騒ぎが起きた。

 二年四組。

 給食の時間、男子生徒が些細なことで喧嘩を始めた。いっしょに給食を食べていた担任が注意したがつかみ合いをやめず、周りの生徒にぶつかって椅子や机がずれ、給食の牛乳や汁物がこぼれる騒ぎになり、担任は怒って二人を止めに入った。

 やめなさい、と掴もうとした一人の手が勢いで担任の顔を殴った。あっと目を閉じ顔をしかめた担任は、目を開けると物凄い顔で殴った生徒を睨み付けた。

「この馬鹿野郎! 何しやがる!」

 男性の担任は三十代の保健体育の教師で、大学時代柔道で鍛えた背の高く体の大きな人だった。その彼が、げんこつで思い切り生徒の顔を殴り下ろした。更に、

「おまえもだ、馬鹿もん!」

 もう一人の喧嘩相手も思いきり張り倒した。

 吹っ飛んだ生徒が給食の机の上に倒れ込み、女子生徒たちの悲鳴が上がると、担任教師ははっとした。右手の甲に血が付いていた。教室はしんと静まり返り、椅子から立ち上がった生徒たちが怯えきった目で担任を見ていて、机に覆い被さった生徒はひっくひっくと肩を震わせて静かに嗚咽し、床に倒れた生徒は鼻血を吹き出して白目を剥いていた。

 自分のしたことに呆然とした教師は、力無く、

「すまん、誰か、保健室に行って先生を呼んできてくれ。それと、職員室に行って校長か教頭を……」

 と頼んだ。

 生徒たちが相談し、恐る恐る三人廊下に出ていき、うなだれた教師は、自分を見る生徒たちの目に泣き出したい気分になって、ふと、一人の生徒と目が合った。

 塩田だった。

 後ろの方の席に着いた塩田は他の生徒と違って怯えていなかった。いつも通りの顔で平然と担任を見ていた。それどころか、一人座ったまま給食を食べ続けていた。

 その目は担任にこう言っているようだった。

 どうしました? 何かおかしなことでもありますか?

 と。

 教師は自分もおかしいと思ったが、こいつはもっとおかしいと思った。

 やがて保健室の先生が駆けつけ、驚いた校長と教頭が駆けつけ、保健室の先生が白目を剥いている生徒を「脳しんとうを起こしているようですが、軽いものだと思います。ですが念のため救急車を呼びましょう」と診断し、騒ぎに驚いて様子を見に来た別の教師にこの場を任せ、保健室の先生はもう一人の平手で叩かれた生徒を診て、担任教師は校長、教頭に廊下へ連れ出され、校長室へ連れて行かれた。

 この騒ぎは、結果、過度の不安状態下のノイローゼによる突発的な精神発作、と結論づけられた。喧嘩を始めた二人は、汁が飛んだ、謝れ、たいしたことねえだろ?、という実に子どもっぽい原因で取っ組み合いを始めたもので、担任の男子教師もわめき声を上げた生徒の件でかなりナーヴァスな精神状態に陥っていたと精神科の診断を受けた。担任教師は駆けつけた被害児童の保護者に謝罪の上、一月間の謹慎となった。クラスは教頭が代理担任を受け持つことになった。担任に殴られた二人は、けがは大したことはなかったが、精神的ショックが大きく、しばらく学校を休むと言うことだ。



 喧嘩騒ぎの翌日から全学年で欠席する生徒が続出し、授業中も不調を訴えて保健室に行ったり早退する者が後を絶たなかった。保護者からの説明を求めるヒステリックな要求に職員たちはきりきり舞いした。彼らだって大いに不安を感じ、許されるものならば自分だって登校拒否したい思いだった。

 何故こんなことになってしまったのだろう?

 教師たちはまるで訳が分からずただただあらぬ想像におののくばかりだったが、生徒たちの間では原因はほぼ特定されていた。

 呪われた黒ビルに入った四人だ。三人は一週間経っても学校を休んだままだった。

 残る一人は。

 喧嘩をした二人と、二人を殴った担任教師。

 全学年で続出する欠席者、早退者たち。

 直接ビルに入らなくても、黒ビルの呪いは伝染するのだ!

 今や礎中学校は極度の不安に覆われていた。


 火曜日。前日月曜は体育の日で休日だった。

 三年三組に加藤大将という生徒がいた。礎中学校の番長である。

 彼は学校で一番強かった。背が一八〇あり、アメフトの選手みたいに分厚いがっしりした体格をしていた。顔面もあごが張ってハリウッドのボディビル俳優みたいだった。彼は最強であり、はっきり言って敵になりうる相手はいなかった。

 彼は今はもう引退しているが七月までバスケットボール部の副部長だった。再来週に一二年生の秋の大会が迫っているが、金曜日にこの騒ぎを心配して放課後の体育館を覗きに行くと部員の数が少なく、他のスポーツ部共々まるで練習に身が入っていないようで、ふがいないことこの上ない。彼はひどく怒った。

 加藤は二年生部員を使いに出して問題の四人の内の生き残り、塩田圭祐を放課後、体育館裏に呼びだした。

 加藤は別に自分から番長を名乗っているわけではない。今どきそんなダサイことをする奴もいないが、なにしろ最強なので、それに体育会系の男気溢れる奴だったので、こういう問題が起こると自然とそういう役割を、半分くらい自分から買って、乗り出さざるを得ないのだ。

 加藤は塩田を見下ろした。身長差が二〇センチある。面と向かって加藤にビビらない奴はまずいない。まして塩田はモヤシみたいにひ弱な二年生だった。二人の会見にはバスケ部の引退した三年生一人と現役の二年生二人が立ち会っていた。塩田に対する威圧と、加藤の暴走を止める役だ。

「おまえが二年四組の塩田だな?」

 加藤はいかにも不機嫌そうに言った。実際この事態に不機嫌なのは確かだが、ことさらこのモヤシ下級生をいじめるつもりもなく、自分の役割としてポーズを取っている意味が強い。

「はい」

 塩田は素直に返事した。

「五十嵐先生は俺もよく知ってるが、いい先生だよなあ?」

 塩田の担任教師で現在謹慎中だ。

「そうですね。いい先生です」

 加藤は塩田の淡々とした口調にイラッとしたが、ビビって緊張しているんだろうと思った。

「今起こっている騒動はおまえと他の三人が黒ビルに行ったのが始まりだそうじゃないか? どうなんだ?」

「どう?」

 塩田は思いっきり顔をしかめて迷惑そうにした。

「どうってなんです? みんな何を騒いでいるのか僕にはさっぱり分かりません」

「舐めんな、二年!」

 加藤は拳固で塩田の頬を殴った。本気で殴ったわけではなく軽く撫でただけだ。細い塩田が顔だけ向こうに逸らしたが体がぐらつくほどではなかった。

「別におまえを怒ったりしねえから、ちゃんと話せよ? 何かおかしなことはねえのか? 気づいたことなんでもいいから話してみろ?」

 加藤は自分が事件解決のためにやっているのだという態度を示した。これでこのふてくされた態度が改まるかと思ったが。

 殴られた塩田は顔を戻してからじっとうつむいていた。

「おい、話すときは人の顔を見やがれ」

 加藤が塩田のあごに手を掛けて上を向かせると、塩田はじいっと怒りに満ちた目で睨んできた。加藤はチッと舌打ちした。モヤシ野郎だと思っていたら、とんだひねくれた強情野郎だ。

「おい、てめえいい加減にしやがれよ?」

 パシンと軽く平手打ちした。塩田の女の子みたいに真っ白な頬が赤くなった。塩田はじいっと睨むのをやめず、その細い目の中に、凶暴な獣じみた光が揺らめいた。加藤は内心ギョッとし、こいつは本当におかしいと思った。

「なんで叩くんです?」

「…おめえがふざけた態度取るからだ」

「僕がいつふざけた態度を取りました?」

「ふざけてんじゃねえかよ?」

「僕がどういう風にふざけました?」

「口答えすんじゃねえ! それがふざけてるっつってんだ!」

「僕は何もふざけてなんかいない。あなたは理不尽に僕を殴った」

「舐めんじゃねえぞ、こらっ!」

「なんでそうやって怒鳴るんです? あなたの態度はおかしい」

「ふざけんなっ!」

 加藤はぐっとこぶしを握り、さすがに拙いと自嘲し、反対の手でドンと胸を突き飛ばした。塩田は大きく後退し、それでもまっすぐ立って加藤を睨み続けた。

「なんで僕がこんな目に合わなくちゃならないんです?」

「なんだとおー……。おまえ、本当におかしいぞ?」

「僕はおかしくなんかない。おかしいのはあんたの方だ」

「てめえまだ…」

「何もおかしいことなんかないのに僕に言いがかりを付けて、殴って、ひどいじゃないか」

 大人しそうだった塩田が顔を真っ赤にして猛然と抗議を続けた。

「あなたたちは幽霊のせいでみんながおかしくなったり、病気になったりしているって本気で思っているんですか? なに子どもみたいなこと言ってるんです? そんな物がこの世にあるなんて、本気で思ってるんですか?」

 加藤は塩田の気迫に圧され、周りで見守っている者たちは塩田を気味悪く思った。

「謝ってくださいよ。僕は何も悪くない。そうでしょう? さあ、謝ってくださいよ?」

 塩田はずいずい加藤に迫っていき、忌々しそうに頬を引きつらせた加藤は、

「うるせえっ!」

 まともに塩田を殴った。ひ弱な塩田は今度こそ大きくひっくり返った。加藤は殴ってしまったことに舌打ちしつつ、怒りが治まらず、塩田の学生服の胸元を掴むと足が立たないくらい引っ張り上げた。

「調子こいてんじゃねえぞ、こらあっ!!」

 闘犬みたいな顔で怒鳴りつけた。塩田は頬が真っ青になり、唇が切れて血が出ていた。ものすごく怖く睨み付ける加藤を、塩田も負けじと睨み返した。

「また殴った。先生に言って処罰してもらいます」

「てめえにその度胸があんのかよお?」

「悪いのはあなただ。僕は何も悪くない。間違いは正され、責任を取らされなければおかしい」

「おかしいのはおめえだろう?」

「言いがかりを付けて下級生を殴るのが正しいことなんですか?」

「てめえ…………」

 また殴りそうに怒る加藤を仲間の三年生が止めた。

「おい、そのくらいにしとけよ。こいつ、おかしいぞ?」

「ああ…。そうだな……」

 加藤は忌々しそうに塩田を突き飛ばした。尻餅をついた塩田は立ち上がると、ものすごく加藤を睨み、立ち去った。

「なんなんだあいつ………」

 加藤も、他の者も、不気味に塩田の背中を見送った。


 むしゃくしゃした気分で帰宅した加藤は、すぐにたまたま家にいた父親と共に中学校にとんぼ返りする羽目になった。塩田が先生にチクって、保護者といっしょに呼び出しを食らったのだ。

 校長室に呼ばれた加藤父子は校長、教頭の前で塩田圭祐に頭を下げさせられた。校長は

「塩田君。こうして謝っているわけだから許してやってください」

 と塩田に求めた。塩田は不遜な目で加藤を眺め、

「謝るんなら許してあげます」

 と言った。これにはみっともなく頭を下げさせられた番長が納まらない。

「校長先生。教頭先生。殴ったのは僕が悪かったです。すみませんでした。でも、こいつはおかしい。絶対に変です。このままだと、この学校はますます悪くなっていきますよ?」

 加藤の不満たらたらの言いぐさにガテン系の父親は

「この野郎!」

 と背伸びして息子の頭をポカリと叩いた。校長先生はまあまあと抑えて、塩田に訊いた。

「生徒たちの間では君たちがあの元マンションに行ったせいで悪いことが起こっているんだと噂になっているようです。どうでしょうか? 君も一度病院でお医者さんに診てきてもらっては? それで何もなければ皆安心できますし。どうでしょう?」

 塩田は加藤を睨んだのと同じ怒りをたたえた冷たい目で校長を見た。

「お断りします。僕は医者に診てもらわなければならないような理由はありません」

 校長は懐柔するように十分分かってますと頷きながら言った。

「頬の傷を診てきてもらうといい。治療費は学校の方で持ちますから。これは学校の責任ですから、どうぞ病院に行って来てください。保健室の丸山先生にいっしょに行ってもらいましょう」

 塩田は納得して承知した。

「学校が悪いと認めるんですね? それでは治療してもらいます」

 校長先生は安心して、教頭先生に塩田を保健室へ連れていくよう頼んだ。生徒たち二人に向かって、

「仲良く学園生活を送ってくださいね?」

 と微笑んだ。

 帰り道、加藤は年季の入ったワンボックスワゴンの助手席で父親に尋ねた。

「なあ父ちゃん。父ちゃんはあの黒ビル、どう思う?」

 加藤は中大畑小学校の卒業生で、この父親からあそこには近づくなと言われていた。

「あれか……」

 ドライブしながらその黒ビルがビルの並びの向こうに近づいてきた。

「あれはよくねえ。学校で起こってる事は父ちゃん分かんねえが、じっと大人しくしてやり過ごすよりしょうがねえと思うぞ?」

 加藤は口をへの字にして黒ビルを眺めた。

「じゃあさー、さっきの二年生、どう思った?」

「あれもよくねえ面してやがったな。目が気にくわねえ。あいつにも手え出すな」

「うへえーい。……やっぱ、何かに取り憑かれてるんだよなあ?」

 間近で面と向かって睨み返す塩田の目を思い出してブルッと肩を震わせた。

「分かんね。けどなあ、父ちゃん、天井裏で真っ黒な女のお化け見たことあるぞ?」

「うちのか?」

「お客さんの家だよ。金持ちの、お屋敷みてえにでっけえ」

 加藤の父は電気店の下請けで配線工事の仕事をしている。

「ああいう家も裏でドロドロあるんだろうからな、人の恨みってのは恐ろしいもんさね」

「へえー。そんなことがあったんかい? ……ビビッた?」

「小便漏らしてショートさせちまったぜ」

 親子は笑った。笑いが納まると父親は真面目な顔で言った。

「ほんとによお、人の恨みってのはなかなか晴れねえもんだぜ? おめえも、調子こいて番長なんか気取ってっとお、人の恨み買って思わぬしっぺ返しくらうぞ? 気い付けろ?」

「分かったよ。あいつにはもう関わらねえよ」

「触らぬ神に祟りなしってな。あの坊主も、時間が経てば元通りなるだろうよ」

「うん……」

 車は黒ビルの前の信号に捕まって止まった。ビルのある左手から何かもやもやした嫌な気配が忍び込んでくるような気がした。

「気にするな。気にしなけりゃあ悪いことも起きねえ」

「ああ……」

 青信号になって車が発進した。その途端、

「うわっ!」

 父親は慌てて急ブレーキを踏み、後続の車にガン!と追突された。

「ゲッ」

 ガックンと体を揺すられ、加藤は首を傷めてしまった。

「大丈夫か? くそう、やっちまってい」

 ドアを開けた父親は後ろに「すんません」と謝り、車の前を調べた。

 黒猫が仰向けに手足を広げていた。首がねじれ、アスファルトにどろーっと赤い染みが広がってきた。

「なむさん」

 父親は手を合わせ、後ろの車に事情を報せに行った。

 発進した車の前に、狙ったように黒猫が飛び出してきたのだ。左手、黒ビルの方からだった。

「いてててててて……」

 動かすと首の筋がビイーン…と痛んで後頭部が真っ赤に熱くなるのを感じた。加藤はシートベルトを外してフロントガラスに顔をくっつけ、道路に横たわる黒猫の死体を眺めた。

「縁起でねえもの轢いちまったな」

 いてててて、と思いながら左の黒ビルを見上げた。黒猫はこのビルから染み出てきた呪いその物のように思えた。



 翌日、学校では塩田が番長の加藤と喧嘩してけがさせたという噂が立った。首にコルセットを装着した加藤はむっつり黙り込み、噂を否定しようともしなかった。

 塩田には近づくな! マジでやばいぞ!

 そんな噂も立ったが、塩田は元々一人ぽつねんとして、別にそれを苦にしている様子もなかった。

 保健室の先生といっしょに病院に行って治療してもらった塩田は、頬にべったりガーゼを張り付けていたが、おまけの診察でもどこも悪いところはなく、元気だった。

 二年四組では今日も昼前に女子生徒が一人早退し、クラスの人数は半分になってしまった。原因は特定されていないがこれでは休んでいる生徒の授業の遅れが懸念されると、二年四組の学級閉鎖が決定した。これで生徒も教師たちも、内心ほっとした。クラス全部が休みでは塩田も学校に来ない。

 これで礎中学校も正常な状態に戻っていくかと期待されたが。


 生徒たちから水道の水から変な臭いがすると訴えられた。

 それが原因だったか!?と、学校は再び保健所に調査を依頼した。保健所はサンプルを持ち帰り調べたが、何か毒になるような物が混入していたり、成分の異常な数値は出なかった。

 まだ不安が除去しきれない中、新たな事故が起こった。

 一年生の体育の授業で跳び箱で失敗した女子生徒がもろに頭から落下してしまったのだ。彼女は泡を吹いて意識を失い、またも救急車を呼ぶ騒ぎになってしまった。彼女も首のむち打ち程度で幸い大事には至らなかったものの、生徒たちの間にやっぱり祟りはまだ残っているんだと思わせるには十分のインパクトがあった。

 生徒も教師も戦々恐々としながら学校生活を送っている。大丈夫だ大丈夫だと自分たちに言い聞かせながら、相変わらず授業中に女子生徒が突然泣き出したりして、学校を覆う緊張と不安は一向に晴れる気配がなかった。

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