焼肉大惨事
短編物語『焼肉大惨事』
2006年9月8日 夜9時前後。国分寺の某焼肉店で3人の男達が勇敢に戦った。
これはその時の記録である。
〔店員〕「ただいまキャンペーン中でして、50%の確率で肉やドリンクが当たります。」
そう言って、カルビ3人前と共に店員が3枚のクジを置いた。
硬貨で削るタイプのクジだ。
〔瑛太〕「いいか、お前ら。俺らは今、非常に困難な状態に直面している…。
俺らは100円しかもっていない。よってこのクジが当たらなければ俺らは無銭飲食で逮捕されてしまう」
店内の片隅で何やら怪しげな会話をしている彼らは、クジを当てて焼肉をタダで食べようとしているのである。
そう、彼らはこのクジに人生を懸けていると言っても過言ではないのだ。
【クジについて】
当選確率50%でカルビ、ドリンクなどが当たる。
1等……カルビ3人前
2等……カマンベールチーズ
3等……ドリンク(ランダム)
〔将太〕「俺らは誰か1人がカルビ3人前を当てなければ終わりだ。」
〔紘太〕「もし…外れたら…」
〔瑛太〕「自害しかないな…」
重い空気が3人を包み込む。
〔紘太〕「俺から行くぜ」
紘太が100円玉を手に取り高々と手を上げた。
3人が見守る中、紘太はゆっくりとクジを硬貨で擦った。
ゴシゴシ……
『……は…ず…れ』
現実……。どうしようもない現実を3人は突き付けられた。
〔紘太〕「っち、チクショーーッ!」
紘太は悔しさを声に出しながらテーブルに拳をたたき付けた。
〔店員〕「お、お客様。お静かにお願いします。」
〔一同〕「ごめんなさい」
店員の声で3人は落ち着きを取り戻した。
しかし、今日の占いで大吉をだしていた紘太の敗北は3人に予想以上のダメージを与えていた。
チャンスはあと2回。
まだ諦めるのは早い。瑛太の声で2人は頷いた
〔瑛太〕「俺に任せろ」
紘太から100円玉を受けとり
瑛太は硬貨でクジを擦った。目を閉じ、精神を落ち着かせる。
ゴシゴシ……
『……は…ずれ』
無言でクジを見つめる3人。現実は厳しい・・・
店員の言葉が脳裏をよぎる「50%の確率で肉やドリンクが当たります」
50%………。2枚に1つは何かが当たるはずだ。それなのに…。
将太は思った。人間は信じられない。
信じられるのは自分のみ。
将太はそう思い、瑛太から100円玉を受けとった。
残るクジは1枚。
将太の手を見つめる2人。
〔将太〕「我、参る」
〔瑛太、紘太〕「・・・敬礼!」
2人は戦地へ向かう将太を見送った。
将太の手は、ゆっくりゆっくりとクジに近付いていった。
ゴシゴシ……
端からゆっくりと擦る。
緊張のためか将太は大量の汗を青色のハンカチで拭いていた。
一文字目が現れた。
『………カ』
「うぉぉぉおおーーーーーー!!!」
壮大なBGM(脳内)をバックに将太は興奮の余り叫んだ。
しかし喜んでばかりはいられない。
2等のカマンベールチーズという可能性もある。
ゴシゴシ……
期待と不安を抱きながら将太は擦った。
紘太と瑛太はお前ならいけると、将太を励ます。
その時、将太の手に異変が起きた。
「ぐわぁぁぁぁぁあああああ!!!」
右手を押さえながら将太が倒れこむ。
重圧に将太の手が耐えられなかったのだろう。無理も無い。
紘太と瑛太の命が自分の右手に懸かっているのだ。
「しょ、将太!!!」瑛太が将太に駆け寄ろうとする。
「く、来るんじゃねぇーーーーーーー!!!!!!」将太は瑛太を止める。
「お、俺なら………だ、大丈夫だ…」口から血を吐きながら将太が立ち上がろうとする。
「や、止めるんだ将太!!!お前の右手はもうだめだ!!」瑛太が将太を止める。
「まだ……まだ…。俺には左手がある……」将太が左手を見つめる。
「ば、バカヤロウ!!お前の左手は…、お前の左手は昨日、指相撲でボロボロのはずだ!!いくらなんでもクジを擦るなんて無理だ!!!」瑛太が将太を必死に止める。
しかし将太の覚悟は固かった。ボロボロの左手で将太は、クジを擦りはじめた。
よほどの激痛なのだろう。将太の顔が歪む。指相撲で痛めた手から血が噴出しクジに血がたれ落ちる。
「しょ、将太!やめてくれ!そんなことしたら、そんなことしたら……。
クジが血で染まって文字が見えなくなってしまうだろ!」
その時、ついに二文字目が現れた・
『……カ…ル』
〔瑛太、紘太〕「しょ、将太ぁ~~~~~~」
〔将太〕「お、お前達~~~~~~~~~~~」
3人は抱き合った。涙で前が見えない。
しかしその時、紘太は別のことを考えていた。
『血で服汚れるから触るなよ』
あぁ…神よ。神の存在を信じて19年。報われた。
将太は興奮しながら最後の一文字を擦った。
『……カ…ル…ヒ…゜』
カル……ピ?
印刷ミス……。3人はそう信じた。
5分後━━
〔店員〕「おめでとうございます。3等のカルピスになります」
廃人と化した3人の前に白い液体が差し出された。
「これはなんだ……?
カルビの脂を溶かしたものか…?」
3人は信じられなかった。
〔一同〕「……死ぬしかない…」
3人はナイフを取り出した。
〔店員〕「お、お客様!!!おやめください!」
〔一同〕「だめだ!!俺らは無銭飲食をしてしまった。
死んで償うしかない!」
3人は追い詰めれていた。
3人はお互いの目を見つめ一言。
「あの世で会おう」
3人のナイフが胸に!!!!!
刺されようとした瞬間。店員が叫んだ。
〔店員〕「お、お代は結構ですから!!」
〔将太〕「あ…そう。それなら死ぬのやめようか」
〔瑛太、紘太〕「そうだね」
〔一同〕「じゃ、ごちそうさま~」
自殺なんかしちゃダメだ☆
彼らは今日もどこかで生きている。
完