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潜り抜けて

その合図が出たのは、颯斗はやとから貰ったアメを舐めつくして数秒後の事だった。おおいに安心すると同時に、心臓が早鐘のように高鳴る。

先程は結局着なかったジャンプスーツを装着し、同時にパラシュートを準備する。

「よし、じゃあ3,2,1で飛ぶぞ!」

そう言いつつ颯斗が席をたつ。柊もそれにならって立ち上がった。このヘリは工場上空に到達すると、操縦している颯斗も降りられるよう、自動的にもと来た道に戻る仕組みになっているため、ここからは操縦の必要が無いということだ。

全員ゴーグルを装着し、柊がヘリの入り口の扉を開けると、機内にブワッっと風が入り込む。――――――ああ、これが外の空気なのか。なんて新鮮で、爽やかな……――――

その空気の心地よさを感じた束の間に、カウントがかかった。


「3,2,1――――――――」







――――――――――SDP組織内???室――――――――――


松青しょうせい、例の件はどうなったんだ。』



『まさか、失敗したとか言わないでしょうね。』



『――――ああ、もちろん成功したよ。彼女――――来夢の性格から『ああいう形』での任務指令となったが…まあ、他の班の連中に『この』計画を晒すというのは、何かと支障をきたす恐れがあるからな。慎重論に遺憾はないだろう、お前も。』



『――――そうだな。』



『当たり前でしょ。今までしたたかに積み上げてきた計画が水の泡になるなんて、考えられないわ。』



『そうだ。我々は地道に、しかし確実にこの計画を進めてきたのだ。そして遂行の時は徐々に近づいてきている。――――――このSDPを我々が変えていかなければならない。今までとは違う――――――…』



『この組織、今のままじゃイロイロ危ないものね。私もまだまだついていくわよ。』




――――――――――――






ストンっ。

思っていたほど風は強いものではなかった為、3人全員が無事工場屋上地点に着陸することが出来た。パラシュートを捨て、ゴーグルを頭上に戻し、改めて「外」というこの空間を感じる。

ふと顔を上げると、頭上には果てしなく広がる真っ青な空が広がっていた。ああ、初めてだ。こんなにも広く、美しい光景をあおぎ見たのは。

来夢らいむ、そろそろ行くぞ。時間も限られてる」

しゅうがぼくに呼びかける。確かに、ここへはピクニックに来たのではない。任務で来たのだ。こんな覚悟では、任務は遂行出来ない。

「…うん。行こう!」


ぼくら3人は、屋上から工場内に侵入を開始した。


まずこの屋上の隅にある、透明の「ゲート」の前まで移動する。その「ゲート」は非常時の為のものなのか、ハタから見れば、こんなところに入る隙があるとは何とも無防備だ。無論、こちらには有難い話なのだが。


とはいえ、暗証番号のロックと、昔染みた旧式の「鍵」での二重ロックが掛かっている。

「ま、暗証番号はおれが調べたからな。SDPへの対策は無いみたいだし。で、この旧式鍵開けは…」

言いつつ颯斗がちらっとぼくの方に視線を移す。

「お前、器用だし、いけんじゃね?」

まあ、D班でも鍵開けの実習はあったし、その時の成績はまあまあ良かったし…。

「ぼくがやるよ」

柊に任せても突破できる話なのに、颯斗がわざわざぼくに任せてくれたことに対し、少なからず嬉しく思った。


そして案の定、暗証番号の情報は確かなものだったようで、あとは鍵開けだけクリアすれば侵入出来る状況になった。

颯斗が一歩後ろに後退し、ぼくが前に進み出る形になった。2人の視線を背中で感じつつ、自らの作業着の内ポケットに入っている、細い針金を取り出す。


――――――実習で学んだことを思い出せ。集中しろ。鍵開けなんて造作もないことだ、自分にとって。


確か、この手のタイプの鍵穴は…。2回捻って…。そうだ、ここで針金を少し曲げて…。そして鍵穴の奥の方まで入れると…。


――――――ガチャッ。

「おおっ!鍵開いたぞ、お前やるじゃねーか!」

颯斗に肩をポンと叩かれてはっとする。――――――やった、スムーズに開いた。成功だ。

「は~っ、初めて訓練でやったこと実践したよー。」

「お前、この任務が初だもんな。手早く出来ていてよかったぞ」

これは柊だ。教官の物言いにどことなく似た口調だったので、思わず吹き出しそうになる。


「……よし、入るぞ」

そんなぼくを制止させるかのようなタイミングで柊が切り出した。

ここから、いよいよ本番だ。気を抜けば、命取りになる。でも、ぼくらならば突破できる壁だ。


「侵入開始だ」

颯斗がいたずらっぽくそう一言発したきり、しばらくぼくらの会話が交わされることはなかった。


侵入してからぼくらは身を縮めながら目的である工場最奥部・製造作業室へと足を進めた。柊が先頭となり、その後に颯斗、ぼくと1列に続く。この道に設置された防犯カメラの数は、例によって颯斗が調べたところによると、37台。カメラの死角は事前にチェックし、(大変苦戦しつつ)暗記しておいたので、ぼくらが気付かないうちに工場の人間に勘づかれる恐れは、まずない(防犯カメラといっても、犯罪を犯しているのはこの工場自身なのだが)。問題は、どこまで集中力を欠かさずに突破出来るかという点だった。上り下りが出来、唯一防犯カメラの設置されていない裏階段までは、曲がりくねった薄暗い道が続いており、一歩間違えるとカメラに写ってしまう危険と、常に隣合わせなのだ。

ここでもし敵に勘づかれると、かなり厄介なことになるし、まず任務遂行どころでは無くなってしまう。――――――――絶対に、ヘマは許されない。


ある程度の緊張感を保ちながら、前へ前へと進んでいく。額から、汗が流れ落ちていくのが、この薄暗い空間でもよくわかるが、汗を拭いたりすると腕がカメラに写る危険性もある。このような場面では、動きは最小限にとどめろと、柊が事前にアドバイスしてくれていた。


そして、唐突に柊が足をとめた。――――――つまりこれで、31台目のカメラの死角を潜り抜けたことになる。残りはあと6台。階段まで、あと2メートルもない距離だ。

しかし、ここから先はカメラが同じ場所に集中し、潜り抜けるのが非常に困難になっている。――――柊にとっては別の話だが。

柊がパラシュートで飛び降りてきた際に使っていたゴーグルを再び装着し、「構え」の姿勢になる。

ここの突破の計画は、こうだ。――――柊1人が集中して張り巡らされたカメラの死角を潜り抜ける。そして、残り6台全てのカメラの後ろに回り込んで機能停止スイッチを押したうえで、颯斗とぼくも突破し裏階段に辿り着く。


そして、柊が音もたてず、しかし非常に俊敏に動き出した。


シュンッ、グルグルッ、ストッ。

音にするのならばそんな動きだっただろうか。

バック回転、ロンダート、またバック回転、2回連続。これだけの動きをしているにも関わらず、音一つたてないところが、他人には真似出来ない彼の技術テクニックである。普段はいがみ合っている颯斗ですら、そのすばやく華麗な動きに魅了されているようだった。


そしてカメラのスイッチがすぐさま切られ、ぼくらも突破することが出来た。


裏階段まで辿り着き、ほっと溜息をつくと、力が抜けしゃがみ込んだ。

「ふう…これでまあ、第一難関は突破出来たんだよね」

「全員、防犯カメラに写らず行けたっぽいしな。次の難関はすぐソコだけど」

颯斗の物言いがいささかぶっきらぼうだったのは、不覚にも柊の動作に魅了されたということに対しての悔しさから来てるのか。――――まあ、どうでもいいけど。

「ここの裏階段はどの階も、カメラ諸々の対策はないそうだ。ここから一気に内部……製造作業室に攻め込むぞ」

言いつつ柊が、ぼくの方に視線を移した。――――少し、険しい目つきだった。

「立て、来夢。こんなとこでへばっているようじゃ、この先は耐えられないぞ」

そうだ。2人とも、休んでなんかいない。あんな動作を行った柊でも、息一つ乱していないというのに。

すくっと立ち上がり、2人の目を見る。


真っ青で綺麗な目と、赤く鋭く光る目。どちらの目も、真っ直ぐに前を見据えていた。

「そうだね。ここから1秒たりとも、気を抜かないようにするよ」


この3人で、絶対に果たしてみせる。


柊も颯斗もわずかに口元に笑みを浮かべつつ、同時に声を発した。


「「行くぞ!」」

ちょっと今回は短めだったかもしれませんね。

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