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任務、開始

それから、任務までの1週間。ぼくは任務に備え、射撃やランニング等自主練に励んだ。また、それに加え、応急処置の技術も身に付けた。ぼくは自分で言うのもアレだが手先には自信があったため、少しでも他の2人の役に立ちたいと思い、辿り着いた結果だった。

柊にはあの後、颯斗とぼくで話し合って決めた侵入・脱出経路、敵の捕らえ方をしっかりと伝えておいた。それにしても、何故あんなに気まずい雰囲気になってしまったのだろうか、あの時。


ぼくは部屋にこもりながら、自分が言った何とも自分勝手な発言を撤回し、柊に意思表示をするべきだと思い立った結果、あのような雰囲気に落ち着いてしまったのだった。柊の顔が赤くなって、見たことのない――――少し照れているような――――彼の表情を目の当たりにし、びっくりして返す言葉もなくなってしまったのだが。ともあれ、あの時はああ言えてよかったのではないかな、と少なからず思っている。


その後、柊は柊で自主練に励んでいるようだ。また、颯斗とも授業で一緒になることがしばしばあったので、その度に彼が情報管理室で調べた現場の情報を教えてもらった。内部構造の詳細、新たに見つかった

脱出ポイント……このときばかりは、さすがに柊もしぶしぶとはいえ、颯斗の話に耳を傾けていた。


3人がそれぞれ思い思いの訓練を短期間ながらにも続け、そして――――



ついに、初任務の時が来た。

一週間後の早朝。ぼくらは今、P班との挨拶を終え、SDP組織施設の屋上に居る。

ぼくの装備はカーキ色の作業着で、標的ターゲットの工場で実際着用されているものだ。そして、腰には短機関銃サブマシンガン、手首には腕時計型の、連絡を取り合えるパネルを、そして…

「ねえ颯斗、このピアス、何の意味があるの?」

「ああ、ソレは発信機みたいなもんだ。GPS機能も搭載された優れもんだぜ」

「じゃあなんで、颯斗だけちょっと違う形なの?」

「なんか、フツーだとダサいから」

「……。」

…耳には、赤い小型ピアス。なんとこの日のために、わざわざ耳にピアス穴をあけたのだ。こんな直径3みりくらいのピアスの中に優れた機能が入っているなんていささか信じがたいことだが、颯斗が言ったことなので一応は信じておく。

ここまでは全員同じ装備で、柊は他にも武器を装備していたり、颯斗はデータマップを持ち合わせていたりする。ぼくは緊急用にと、救急セット一式を作業着の内ポケットに用意している。


「……じゃ、行くか」

今度は柊が静かに切り出した。――――そうだ。


ここから始まるのだ。想像も出来ない外の世界が、ぼく達を待ち受けている。

「いいかお前ら。これから先、どんな目に会おうが、どんな試練が待ち受けていようが――――」

「前を向くことだけを考えろ、でしょ?」

1週間前言われたばかりのことだった。今一度、ここに決心しよう。

緊張感が高まってきつつあったその時、颯斗が吐き捨てるように言った。

「けっ。なんでお前の指示を聞かなきゃいけねえんだチクショー」

――――え、なんでこの状況で喧嘩腰?!

「足手まといになるってんなら、置いてってやってもいいんだぞ、テメーなんて所詮」

「んだとコルアア!!」

――――え、うそ、ケンカモード入っちゃった?ちょっときみたち、

「こ、こんな時に仲間割れなんてやめろよ!つーかよくこんな時に喧嘩なんてできるなオイ!!」

――――ってなんでツッコミいれた自分!

「仲間ねえ…」

「……」

2人ともしぶしぶ折れてくれて、ここは無事決着がついた。……のだろうか。


「じゃ、そろそろ行こうかっ!」

気を取り直し、ぼくらは屋上の隅にひっそりと設けられている、


――――――――ヘリポートへ向かった。


「操縦はおれが担当だよな。まあ、この手のもんならお手の物だぜ、おれは」

颯斗が得意げに言う。以前聞いたところ、彼は任務でよくヘリやセスナ、ジャンボジェットから自動車まで、様々な乗り物の操縦を任されていたという。

そして、3人それぞれヘリコプター内の席に乗り込んだ。颯斗は操縦席、柊は助手席、ぼくは2人のすぐ後ろの席だ。

「来夢、そこの席にアレ、ちゃんと3人分あるか」

「うん。予備用まである」

アレ、というのはパラシュート、それからジャンプスーツ一式のことだ。

目的地である工場には厳重にロックがかかっており、外からの侵入はほぼ不可能に思える。しかし、一つだけ「穴」があり、それが工場の屋上のロックだったのだ。もちろん、直接ヘリを工場に着陸させるというのはロックをかいくぐるにあたって不可能きわまりない話だが、「人物だけ」ならもしかしたら。

颯斗が屋上のセキュリティ詳細を調べたところ、それは本当に可能なことらしい。

それで今回、「ヘリで工場上空まで進み、そこからパラシュートで飛び降りて着陸する」という侵入方法を実行するに至るのだった。


「よし!離陸するぞ!用意はいいか!」

「オッケー!」

「操縦ミスるなよ」

「な、なんだテメ……」

「いいから離陸しちゃって!!」

颯斗の言葉を遮り、颯斗はしぶしぶではあったが従ってくれた。ずううん、と重低音がしたかと思うと、ヘリが振動し始めた。


「行くぞ、舌噛むなよっ!!」





離陸して5分ほど経っただろうか。心なしか何か、体の中のものがこみ上げてくるような感覚に襲われた。気分が悪い……まだ何もしてないのに、なんで……とりあえず、気分を紛らわさなければ。

「ねえ、ジャンプスーツって先に着といちゃだめなの?」

前に座っている柊に問うてみる。颯斗は操縦に神経を集中させていて、「話しかけるなオーラ」が全開だった。

柊は少し不可解そうな顔をした。

「……別にいいんじゃねーか。…でも、着陸直前まで着る必要はねぇよ」

「いやあの、ちょっと寒くって」

「……機内このなか30度はあるぜ」

……なぜこんな痛い言い訳を口にしてしまったんだ、自分!

「お前どうしたんだ、さっきより顔色悪いしよ」

さらに怪訝な顔をされてしまう。ああ、もう……

「ちょっと……ね、気分悪くて……」

口を開けた瞬間、思わず口を両手で押さえる。――――やばい、ホントに吐き気がやばい!!

「おいしっかりしろ!――そっちに袋とか置いてねえのか!」

「う……」

右手でパラシュート一式が置いてある辺りをまさぐると――黒いエチケット袋が、1枚。

藁にも縋る思いで口を袋に押し当て、こみ上げてくるものをその中に吐捨する。柊に見られたくないので、上体を後ろ向きにしながら。

「お前、なんで乗り物酔いのこと黙ってたんだよ」

やれやれ、とでも言うように柊が背中をさすってくれる。ああ、しょっぱなから失態を晒すことになるなんて……。

「だって、乗り物って訓練の中で、短時間の間だけ操縦するくらいしか、乗る機会無かったし……大丈夫かなと思って」

自分の不用意だった、ということだ。こんなことになるなら、組織の売店で買っておけばよかったと後悔極まりない。

「え、来夢吐いたのか?!」

唐突に、颯斗が前方に視線を向けたまま声をかけてきた。

「颯斗……」

「そんなら、コレやるよ。おれ、甘党だから常備してんだ。ほら」

一瞬だけ手をあけ、自分のポケットから包装紙に包まった小さな固形物――――アメだ――――を数個よこし、また操縦に専念し始めた。

「これ……」

「酔いにくくなるんじゃなかったか、それ舐めると。…あと30分くらい、我慢できるか」

柊がいつもの無表情に戻り、ぼくの目をまっすぐに見つめた。

「…できるに決まってる」

「だよな」

今に限ることではないが、出来るか出来ないかではない。我慢「する」んだ。


その後、特に変わったことはなく、ついに、工場上空間近までたどり着いたのは、予定より5分程早い時刻だった。


「着陸準備!ジャンプスーツ着て、飛び降りるぞ!!」

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