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短篇集  作者: 国高ユウチ
2/3

戦隊もののピンクならまだ納得できたがイエローだった上にレッドが邪魔

「いやぁー!助けて、メグちゃん!」

「ええい、『メグちゃん』なんて馴れ馴れしく呼ぶな!この軟弱者が!」



ある日宇宙から地球を支配しに来たらしい生物を相手に、特殊開発されたマル秘技術満載の薙刀を振り回して、『メグちゃん』こと如月恵きさらぎけいは自分の生涯には関わりないだろうと考えていた黄色のスーツで全身を飾ったまま叫ぶ。

何故『メグちゃん』かと言えば恵の名前を訓読みしたものを勝手にあだ名にされただけである。

なんの因果か知らないけれど、ある朝日本でも指折りの大学に通学途中、ケセランパセランのショッキングピンクバージョンの目に痛い地球外生物にいきなりご指名された。



『今日から君は地球を破滅から救う正義のヒーローだワン。頑張るワン!』



突っ込みどころは満載だった。見た目は毛が長いブタ。口も目も耳もどこにあるかわからないのに、どうしてブタと断言するかと言えば、あの特徴的な鼻と尻尾だけが毛の中から唯一見えているからだろうか。

あからさまに不自然に付けられた『ワン』。『ワン』ってなんだ、まだ『フゴッ』ならわかる。全然可愛くないけれど。

『ワン』って一体どこから来たのだ。ていうか、目の前の生物は生物なのだろうか。

まったく展開についていけずにいた恵の前でくるりと異世界生物が回転した瞬間、世にも奇妙な出来事が起こった。

あれは恵の人生の中でも一、二を争う最悪な記憶だ。いや、未だに幾度も継続している劣悪な悪夢だ。


輝かしい黄色のライダースーツに酷似した、昔アニメでよく見た形のいかにもヒーローモノの衣装は、身体にフィットして恵のそこそこメリハリのあるボディラインを露にしていた。

そこも恵が嫌がる一因だ。正直、どこまで破廉恥な格好をさせるのかと苛立ちで胸が湧き上がるが、目の前のブタ・オブ・ザ・ケセランパセランの呪い(本人は加護と言っていた)により、地球侵略生物を認識すると自動でこの服に着替えてしまう。

脱ぐには敵を殲滅するしかなくて、結局気付けば『正義の味方』なんて割に合わない、一銭の得にもならない作業に手を染める羽目になるのだ。

幸い、殲滅と言っても相手を殺す必要はない。彼らの胸元に輝く黒いエナジーを、ブタ・オブ・ザ・ケセランパセランから手渡された宝石に吸い込ませればいいだけだ。

しかしその力を吸わせるためには本体がある程度弱体化している必要があり、結局こうして毎度毎度肉体労働を強いられているのである。

ちなみにこんなに変身を繰り返しているのに、未だに地球防衛隊の一人が恵であるのはばれていない。

ブタ・オブ───もう面倒なのでただのブタにする。つまり異世界生物のブタの特殊の一つにあやかってるらしいが、これだけはどうにか感謝できそうだった。

もしこんなこっぱずかしい格好でポーズまで決めて戦ってるのが恵だとばれた日には、恥ずかしすぎて太陽の下を歩けなくなる。



「いやーん」

「やめてぇーん」

「きゃー!」



黄色い声に涙が出そうだ。

黒い全身タイツをはいた明らかに怪しい敵の下っ端は、殴られるたびに野太い声で内容だけは可愛らしい悲鳴を吐き出す。

しかも語彙が少なくこの三つだけ。無駄にバリエーションが多いのはご愛嬌・・・というより単純に不気味できもい。

幼い頃から薙刀と合気道の道場に通っていた恵にとって、軟弱な男子ほど鳥肌が立つ存在はいない。獲物としている薙刀もどきの武器を手首で返して軽く息を吐き出した。

体型が自分よりよい男のあげる情けない悲鳴は生理的嫌悪感を煽ってくれる。

だが敵対する相手なら、まだ我慢できた。何故なら恵自身が相手を叩きのめしている証拠であり、普通に戻るための行為だと思えばこなさなくてはいけない試練だから。

しかしもう一方のものは駄目だ。本気で腹が立つし、軟弱者と叫びたくない。

何故なら、雑魚に囲まれた中心部で露出の激しい───確か、幹部のサキュなんとかという名の女───に取り押さえられている、今はヒーローマスクで隠れている男は。



「貴様一応戦隊もののリーダーなのだろう!?仮にもレッドが黄色い悲鳴を上げて、脇役キャラのイエローに毎度毎度助けを求めるのはいかなる所業か説明しろ!」

「だってぇ、いっつもこいつら僕を狙うんだよ?僕は何もしてないのに」

「男の癖に語尾を延ばすな!女人にょにんに片手で押さえ込まれるなど嘆かわしい!」



レッドこと浅井龍馬あさいりょうまは名前からして強そうで、恵よりも頭一つ分は身長が高くガタイもいい。

なのに性格ときたら絶対的平和主義というか、顔立ちは端正な隙のない二枚目ふうなのに、道端に花が咲いていると顔を綻ばせてずっと眺め続けるような青年で、敵でも女性相手だと暴力を振るうなんて考えられないらしい。

嫌々、渋々ながらも彼と仲間を組まされてから早数ヶ月。彼が敵に捕まること早二桁。多すぎだろう。

もういっそヒーローのリーダーを辞めてほしいが、それもケセランパセラン風のブタの変なこだわりの所為で無理らしい。

同じ大学の先輩のブラックなんかブラックらしからぬ熱血、情熱、体育系を兼ね備えているから丁度いいと思うのだが、やはりヒーローカラーがあるのだそうだ。

色なんてどうでもいいと思ってしまうのは、恵が全然、欠片も戦隊ものに興味を抱いていないからだろう。



「っ」

「メグちゃん!?」



よそ事を考えていたら、雑魚の攻撃をもろに喰らってしまった。

鳩尾に走る衝撃は結構強く、雑魚とはいえさすが地球外生物と、見た目は悪いが性能だけは突出したヒーロースーツの存在に心から感謝した。

もうこうなれば恵の出番はない。背中から壁に叩きつけられたところで、衝撃に息を詰めてむせ返る。

眇めた瞳をようやくのところで正面に戻したら、丁度いいタイミングで野太い叫びが耳に届いた。



「ごるあぁ、テメェら!俺のメグちゃんに何してくれてんだ!?メグちゃんは女の子なんだぞ!?か弱いんだぞ!世界で一番可憐な少女なんだぞ!」



つい先刻までのよく言えば穏やか、悪く言えばなよっちい男はそこにいない。

柔剣道有段者の猛者は、自分を抑えていた女性幹部を振り払うと、並み居る雑魚たちをばっさばっさと踏み倒し、けり倒し暴れまわっていた。

しかも最中に恵に対する偏りすぎる評価と、か弱いと思ってるならもっと早く助けろという一抹の苦情を内心で噛み締めていたら、目にも鮮やかな桃色が視界に映りこんでくる。



「大丈夫ですか?」

「───なんとか、な。まったくどうせあの状態になるなら、もっと早く変わって欲しい」

「仕方ありませんよ。レッドはイエローがピンチじゃないと心のリミッターを外して実力を発揮できないんですから。本当に困った人です」



恵よりも身長が低く華奢なピンクは、甘い響きのアルトの声を響かせた。

そう。彼は恵よりも運が悪いことに、見た目が女の子みたいに可愛らしいからと勝手にピンク色のスーツを着せられることになってしまった悲劇の美少年だ。

しかし中身は男前でフェミニストな上、レッドに付き合って始めた柔剣道にあわせて空手と古武道も嗜む猛者である。

常日頃から痴漢行為にあっているので卑劣な行為にとても厳しく、悪を退け弱きを助ける格好いい少年だ。そう、見た目は物凄い美少女でも。



「普通はピンクがピンチのときにリミッターが外れるものだがな」

「止めてください。俺はこれでも男で自分の身は時分で守れますし、あなたは俺たちの中で紅一点です。強いのは知ってますけど、無茶しないでください。俺がいれば守ってあげれるけど普段のレッドだと役に立たないんですから」



『まったく、イエローに守ってもらうのもいいなんて喜んでるようじゃ日本男児失格です』

どこか可愛らしい仕草で腰に手を当てた年下の少年に、スーツの下ではんなりと苦笑を浮かべる。

実は龍馬と中学時代からの付き合いで、ついでに彼の年下の幼馴染とも同時期から顔見知りであった恵は、変わらぬ関係性に本当に役どころを間違えていると首を振った。



「基地で博士とブルーとグリーンも心配していましたよ。博士は鋭気を養う薬を作ると言ってディナーのフルコースの準備を始めましたし、ブルーは包帯やメスを用意して、グリーンはふかふかのベッドと枕を準備していました」

「・・・どれもこれも微妙にずれている気がするのは私だけだろうか」

「多分俺も間違った方向だと思いましたが放っておきました。もう関わるだけ面倒だったので一人で出動しました。もうすぐブラックも到着するらしいですし、後はレッドに任せて帰りましょう?」

「そうだな。もう今日は疲れた」

「俺、駅前のコーヒースタンドの割引クーポン持ってるんですけど、帰りに寄りませんか?新作のスイーツも出たみたいですし」

「それはいい。少し甘味も欲しかったところだし、人目が外れている今が帰り時だな」



未だ暴れているレッドと雑魚と幹部の激しい遣り取りに今は人々の視線も集中している。

物凄く業腹で認めたくないが、彼の戦闘力は単純に恵より上で、まもなく到着予定のブラックも然りだ。

ブラックがいるならホワイトも一緒だろうし、変わり者のホワイトに捕まる前にさっさと姿を眩ましておきたかった。

幸いにしてレッドがどんどんと敵を殲滅してくれるため、変身解除のためのパワーは貯まっている。

目の前に立つピンクも、戦闘こそしていないが同じだろう。

このヒーロースーツは一定の敵の力を溜め込んだら解除できる仕組みになってるのだが、誰が倒しても吸収すればエネルギーはエネルギーでしかなかった。

さり気無く人目を避けてさくっと変身を解除する。路地裏に消えて行く薄茶色の髪色の少年と、腰まで届く黒髪を靡かせた燐とした空気の女性を見咎めるものは誰もいなかった。



恵は知らない。

どうして恵が殴られると日頃平和主義の龍馬の理性がぶった切れてしまうのかも、そのタイミングを見計らったようにピンクが助けに来てくれるのかも、基地に帰れば過剰なまでに仲間に手厚く看護されるのかも、ホワイトに思い切り構われてしまう理由すら、何もかもに気付いていない。

ヒーローとて色恋沙汰はあるもので、水面下での遣り取りは敵対勢力との戦いより激しいことも、年齢イコール彼氏いない暦の凛とした立ち振る舞いの女性は興味がないと歯牙にかけることもないまま、非凡で平凡な日常を過ごしていた。

イエロー【如月恵】:すらりとした、女性にしては長身の女性。見た目はクールで、凛とした冬の空気みたいな雰囲気を持っている。しかし付き合ってみれば義理人情に厚く、女性に人気が高い。実は結構美人で、密かに憧れている男も多いが空気が独特すぎて近寄れずにいる。



レッド【浅井龍馬】:柔道では大会で無差別級に参加しているが、実際は中量級。がっしりとした身体つきや太い首など、いかにも格闘技をしていそうな雰囲気を持っている。顔立ちは黙っていれば隙がない美形でも、中身は穏やかで平和主義そのもの。可愛いもの、綺麗なものが大好きで、実は中学時代から同じ学校(努力した)のしっかりもので見た目と中身のギャップも気にせず付き合ってくれる恵にずっと恋してる。ので、彼女が傷つくと普段の温厚な態度も途切れて暴れる。



ピンク【桜間将】:見た目は美少女のような美少年。声変わりしても未だにあまり低くない声も含めて、女の子っぽい自分にコンプレックスを持っている。それ故幼い頃から強くあろうと柔剣道プラスアルファで自らを鍛え続け、女性への卑劣な行為にもとても厳しい。見た目は美少女でも女の子に人気があるのは男気のある性格のお陰。しかし本人は中学時代からずっと恵一筋。裏表ない真っ直ぐな彼女の内面に惹かれ、幼馴染でも龍馬には渡さないと心に決めている。最近変な異星物に変な役割を与えられて嫌だと思ってるが、新しい繋がりには喜んでる。もっとも、より濃いキャラクターが彼女に絡むのを見るのは複雑で、なるべく自分がストッパーになれるよう努力している。

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