4月 第6話・買い物
四月編突入!
シーズン・フレンズはここから本格的に始まります。
4月1日午前7時。
今日も春崎家の台所で優は朝食の準備を終え、テーブルに作った朝食を置いた。
「ユウちゃんの料理も久しぶりね〜」
「病院の中じゃ料理なんてできないしね。…味が落ちてなければいいけど」
「いや、大丈夫だ。全然変わってない」
久しぶりの優の作った朝食に美子と洋は舌鼓を打つ。
「あっそうだユウちゃん、今日の予定なんだけど」
「なに?」
「今日はユウちゃんの新しい服を買いに行くわよ」
「新しい服?」
優は首を傾げる。
「服なんて買ってどうするの?」
「あのね〜、ユウちゃんはもう女の子なのよ?だからもう少し服の事に興味を持った方が良いわよ?」
「は、はぁ…」
「そ・れ・に、今持ってる服はみんなぶかぶかになって着れないでしょ?それに制服も買いに行かなきゃだし」
「あ、あのぉ母さん」
「なに?」
「制服はまだしも他の服も買うお金がウチにあるの?」
優が少し苦し紛れに言う。
「ふっふっふ…その質問は予測してたわ」
そう言うと美子は近くの引き出しを開けた。
「まさかこの中に…」
「ふふっ、甘いわねぇ」
今度は開けた引き出しの箱を下から叩いた。
すると箱に隙間ができた。
「そしてこの中には…」
美子はそこから封筒を出し、優に見せた。
その封筒の中にはおよそ30万程の現金が入っていた。
「こ、こんなお金あったの!?」
「まさかこんな形で使うと思わなかったけどね」
美子がフフンと笑う。
「さ、今日は忙しいわよ!」
★
母さんに連れられて、僕は隣街の洋服店にやって来た。
母さんが最初に連れて行かされた所は「下着コーナー」と書かれていた。
「母さん、下着なら病院で貰ったのが…」
「ダメダメあんなの!
下着はもっと可愛いのを着けないと」
母さんが有無を言わせぬ口調で言った。
……たかが下着で何でこんな暑くなるんだ母さんは?
「いらっしゃいませ〜」
そんなことを考えていると若い女性の店員がやって来た。
「あっすいません。娘の胸のサイズを計りたいんですが」
「かしこまりました。ではこちらの着衣室で計りますので、少々お待ちください」
「さ、行った行った」
「………わかったよぉ」
僕は渋々着衣室に入った。
(計測中……)
「ふぅ…」
「どうだった?」
「…Cカップだって」
「C……うん、いい。凄くいい」
何がそんなにいいんだろう?
女性の胸の知識なんてまったくない僕にはそれはわからなかった。
その後母さんは僕の下着を何着も買って行った。
……まだ色々買うものあるはずなのに。
★
「ユウちゃんまだ〜?」
「もうちょっとだから待ってよ〜」
今、僕と母さんは「洋服コーナー」に来ている。
ここに着いてから母さんは僕に服を着せては買い着せては買いを繰り返している。
……服ってこんなに必要なのかなぁ?
女の子ってわからない。
「できたよ〜」
「どれどれ…
きゃ〜!か〜わ〜い〜い〜!!」
二重の意味で恥ずかしい……。
ちなみにいま着てる服はピンクのフリフリがいっぱいついた服だ。
「よし、じゃあこれも…」
「ちょ、母さん!さすがにこれはやだよ!」
「え〜なんで〜?似合ってるのに〜」
「似合ってるとかじゃなくて、こんな恥ずかしいの着たくないよ!
ズボンとかの方がいい!」
「も〜ワガママだな〜」
「ワガママとかじゃなくて!」
その後も母さんは僕に服を着せては買い、着せては買いを一時間繰り返しした。
★
「はぁ…疲れる……」
母さんが服の着せ替えに飽きたところで、僕はようやく自由になった。
さすがにやり過ぎたと思ったのか、制服はもう少したってからにして、それまで少し休んでろ。と、言ってくれた。
僕はその辺の自販機で買ったオレンジジュースを飲みながら、さっきまでのことを振り返った。
――女の子って大変なんだなぁ。
服なんて着れれば何だって構わないのに(あのフリフリはやだけど)、母さんは色とか柄とかを色々選んで買ってた。
……今はどうでもいいと思ってるけど、その内僕もそんなことを気にするようになるのかなぁ?
何だか想像しにくい。
そんなことを考えながら僕は辺りを見回した。
やっぱり他の人もいろんな服を見ては戻し、見てはレジに持っていきを繰り返していた。
そんな風に見ていると、何だか知ってる人が見えた気がした。
――あれは?
そう思ってもう一度見るとやっぱりいた。
肩まで届く位の茶のかかった黒髪の女の子、間違いない。あれは橘さんだ
なぜここに?と考えたけど、橘さんも女の子なんだから服を買いに行くのも当たり前か。と考え、そこまで考えなかった。
!、そうこう考えてる内に橘さんがこっちに向かってくる。
…いや、そんなことないか。だって橘さんは僕のこの姿をまだ見たことないはずだし。
ってそう思ってる間に橘さんが僕の目の前に来ていた!
「…………」
「…………」
目を互いに見合い、そのまま動かさない。
「……………あ、……あの……」
「!」
は、話し掛けてきた!
「な、何でしょう?」
「あなた……ひょっとして、ひょっとしたら……」
『ユウちゃーん、そろそろいきましょー』
「「!」」
絶妙なタイミングで母さんが僕を呼びに来た。
「じ、じゃあこれで…」
橘さんも僕に背を向けた。
「どうしたのユウちゃん、あの子は?」
「あっ、ク、クラスメートだよ」
「ふーん」
もしかすると、橘さんは僕が春崎 優だってわかってたのか?
……いや、そんなわけないか。
学校関連で女の僕を見てるのは、青嶋先生と敬一、あと冬路だけのはずだし。
それ以降僕はその事はかんがえず、新しい制服を買って貰って帰った。
★
「今日も……駄目だった……」
悲しい表情を浮かべながら、秋奈は優が戻った道をみた。
「……お話するの、今度の学校にしよう」
そう呟くと、秋奈は店を後にした。
★
「今日も……駄目だった……」
悲しい表情を浮かべながら、秋奈は優が戻った道を見た。
「……お話するの、今度の学校にしよう」
そう呟くと、秋奈は店を後にした。
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