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第4話・友情は変わらない

 3月23日。今日は色島市立蓮根高校(はすのねこうこう)の終業式だった。


 この学校は式事に関して出席率が高いことで有名だ。


 しかし、ここ一年三組には突然の病魔に犯され、出席することができない生徒がいた。


 橘 秋奈はその生徒、春崎 優のことが心配だった。



 秋奈は春崎とは特に接点は無かった。接点と言えば文化祭で同じ当番だった事と、朝に少し挨拶を交える程度だ。


 だが秋奈は何故か春崎のことがが心配でならなかった。


 そのため一度、春崎の友人に春崎の体調の事を聞いてみたが、その友人は春崎からは体調のことは何も聞いて無いという(余談だが、その時春崎のことで茶化された)。


 それにしても。と、秋奈は思った。


――何で私、こんなに春崎君が気になるだろう?


 ただのクラスメートに抱く感情で無いのは確かだ。


 当然、こうゆうことは最初は心配するのが普通だが、その状況が何日も過ぎればその心配は自然と感情が薄れてゆくものだ。


 現に他のクラスメートも、1週間も過ぎれば誰も春崎のことを言わなくなった。


 恋愛、という説も違うと否定した。

秋奈にとって春崎は良い人だとは思うが、恋愛対象として見るほどではないと考えていないし、そもそも秋奈は恋愛には興味は今のところ無かった。


 だけど、どうしても春崎のことが気になって仕方なかった。


 何故だか胸騒ぎがしてならないのだ。


「はーいみんな席着いて〜」


 そんなことを考えている内に担任の青嶋先生が通知表などを持って来てやって来た。


 その後は普通にホームルームが始まり、お決まりの春休みの注意点を話したり、通知表を渡したりと終えていった。


「じゃあ最後に、一月前から病気で入院している春崎君について」


 秋奈はその言葉を聞いて顔を上げ、青嶋を凝視した。


「春崎君は今急激に回復が進んでいて、始業式には間に合うとのことです」


 教室がザワザワと騒ぎだす。そんなことあったな。と、希薄そうに。


 だがその中で、秋奈と春崎の友人の2人は真剣に聞いていた。


「ほら騒がない。

…で春崎君は始業式から復帰すると言いましたが、……実は彼は闘病の過程で………」


 その後に続いた言葉は、ここにいる人全員が信じられないことだった。

特に秋奈は自分の嫌な予感が当たってしまったことに恐怖した。



     ★


「はぁ…退院か…」


 僕は検査の結果を知り一先ず安堵していた。


 検査の結果、僕の病気は僕の性転換に伴い、まるで初めから無かったように消えたらしい。


 よって病気は治った、ということで、1週間軽いリハビリをした後に退院。という流れになった。



 僕はとりあえず、この殺風景で機械的な場所から解放されることを喜んだ。


“コンコン"


 ドアを叩く音がしたので、僕はどうぞ。と、言った。


「春崎君、来たわよ」


 やって来たのは僕の学校の担任の青嶋(あおしま)先生だった。


「先生、ごめんなさい。こんなことになってしまって…」


「いいわよ、あなたも色々あったんだから」


 青嶋先生は微笑みながら言った。


 こうゆう生徒のことをいつも考えてくれてるところが僕は好きだ。


「ところで先生、あの事は…」


「…ええ、言ったわ。始業式には出れることも、あなたが女の子になってしまったことも」


 青嶋先生が真剣な顔になった。


「でもいいの?転校せずに蓮根に残るなんて」


「ええ。みんなと離れるのも寂しいし」


 最初は医者の先生に、転校したほうがいい。と、言われたけれど、僕はそれを断った。


 理由は2つ。1つは転校にはお金がかかるから。

僕の家は決して裕福じゃないし、ここの入院費も馬鹿にならない額のはずだ。


 これ以上金銭面で母さん達を困らせたくない。


 2つ目はただ純粋に、蓮根を離れたくないからだ。


 先生に言った通りみんなと離れるのは寂しいし、まだ通い初めて1年なので、もっとあの学校で思い出を作りたいんだ。


「そう……分かったわ。でも大変よ」


「構いません。それに何を言われても僕は転校する気はありません!」


 僕はさっきより強く言った。


「分かった。もうそのことは言わないわ。

ふぅ……これ聞いたらみんなどんな反応するかしら」


「そういえば、僕の事を言ってみんなどんな感じになりました?」


「みんな凄く驚いていたわ。夏木君なんてどうしてもあなたに会いに行きって飛び出しそうになって、坂下君に止められたもの」


「敬一…」



 僕にはその光景は容易に想像できた。


「そう。…もういいわよ夏木君」


「えっ!?」


「ユウ!」


 ドアが勢いよく開き、そこから敬一と冬路が出てきた。


「せ、先生…」


「ごめん、ちょっとサプライズしようとしてね♪」


 先生が悪戯っぽく笑った。

でも、敬一の顔は笑っていなかった。



     ★


 俺、夏木 敬一がユウと知り合ったのは6歳の時だった。


 あの頃のユウは親父さんを亡くしたばかりだったからか、スゴク泣き虫だったことを覚えている。


 そんな泣き虫な上に、元々中性的な顔だったため、子供の頃はよく女の子に間違えられていたことも覚えている。


 最近はそんなことは無くなったが、今は違う。



 その顔、いや、その身体はどうみても女にしか見えなかった。



「ユウ……なのか?…お前は」


一応わかっているのだが敢えて俺はユウに言った。


「………うん…そうだよ敬一」


 ユウは鈴のように澄みきったソプラノの声で答えた。


「驚くよね。幼なじみが突然こんな姿になったら」


「お前…どうしてそんな身体に?」


「分からないよ。目が覚めたらこうなってたんだから」


 ユウは顔を俯かせてた。


「ねぇ敬一…今の僕を見てどう思う?」


「…正直言って、スゲー可愛い」


「……なんか複雑」


 可愛いと言うのは本当だ。


 目は大きくパッチリ開いていて、顔も女らしくなったがどこか男の時の面影が残っている感じがした。


 髪は前と変わらないが、伸ばしたら多分もっと可愛くなるだろう。


 背は5センチ程縮んだが、代わりに細くなり、手も小さくなったが指は細長くなっている。


 胸は……大きくはないが小さくもないと思う。ただ、まじまじと見るのは恥ずかしくてできない。


 とにかく、それから全てを総称して可愛いと判断した。


「でも…そんなに僕って変わっちゃったんだね…」


ユウはまた顔を俯かせ、言葉を続ける。


「敬一、こんなになっても…まだ友達でいられる?」

 今度は不安そうな顔で言った。俺も少し悩む。


 確かに俺は最初コイツを見て少し気が揺らいだ。


 もしコイツが、俺の知らない春崎 優になってしまってたらどうしよう、と。


 でも、実際話してて分かった。ユウは何も変わってない。中身はいつものユウだ!


――だったらもう大丈夫だ!アイツは少し気が弱いけど、芯は凄く強いやつなんだってことは俺が一番知っている!



「あ、当たり前だろ!」


「!」


「俺ら長い付き合いじゃないか。

そんなことぐらいで俺らの友情が変わると思ってるのか」


「敬一………」


俺がそこまで言うと、ユウは笑った顔で泣き始めた。


「お、おいユウ…何で泣くんだよ」


「だって……けいいちが……ははっ……うっ……うっ」


「わかった泣くなって」


 俺はその後も、泣き虫な幼なじみを泣き止むまで宥めた。


     ★      


「うう…いいわね友情って……青春ねぇ」


「…何で先生が泣くんですか」


 優と敬一のせいですっかり空気になった青嶋と冬路は二人の後ろの椅子に座っていた。


「あれ?いたの坂下君?」


「……そこまで言いますか。

あの二人の会話に入り込む余地がなかったんですよ」


 冬路はため息をつきながらいった。


「そう、それは大変ね。

ところで、私について来たのって、あなた達二人だけだっけ?あの娘はどうしたの?」


「ああ、彼女は帰りましたよ。優を一目見ただけで」

「そう?どうしたのかしら


橘さん」



 一方秋奈は病院から少し離れた公園のブランコに腰掛けていた。


「私……何で逃げちゃったんだろう………」

 秋奈はそう言うと涙を流して、泣いた。


「春崎君が……女の子に……」


 秋奈はそのまま2時間泣いた。




突然性転換してしまった優。

その優を心配する敬一と冬路。

そして、変わり果てた優を見て涙を流した秋奈。

この4人の青春の物語は、まだ始まったばかりである。




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