第3話・変化
「……んっ……」
目を覚ますと、そこはいつもの病室だった。
――あれは…夢だったのかなぁ?
僕はさっきの死者の世界(?)のことを思い出しながらそう思った。
――夢にしては妙な感じだと思うけど…あの光とか。
“コンコン"
そんなことを考えていると、ドアからノックの音が聞こえた。
「はーい。
……って、あれ?」
僕はここで一つ疑問が浮上した。
――僕の声って、こんなに高かったっけ?
確かにあんまり低くはなかったけど、こんなに高くはなかった筈なのに…。
そんなことを考えている内に、ドアが開き、中から母さんと兄さんが入って来た。
「ユウ君、起きてたのね」
「うん」
母さんはかなり心配した顔で僕を見た。
なんだか様子が変だ。
「優、ちょっと質問させてくれ」
兄さんが気味が悪いくらい神妙な顔で言ってきた。
「何?」
「その…、何か自分の身体のどこかが変わったなぁって所あるか?」
僕はその質問に頭の上に疑問符が出るようなものを感じた。
何言ってるんだ兄さんはって。
「う〜ん、ちょっと身体に力が入らないかな?」
ここに来てから殆ど身体を動かしてないし、それくらいしか思い付かない。
「…成る程、ほぼ無自覚か」
兄さんが何かをボソボソと呟いた。
「じゃあ、声はどうだ?」
「声!?」
そんなこと聞いてどうなるんだ。と、思ったけど確かにさっきから声がおかしいと思ったので、答えた。
「確かに…、何かいつもより高い気がするけど…」
「そうか、じゃあ…」
兄さんがズボンのポケットから何かを出した。
「これで自分の顔を見ろ」
「はぁ?」
僕は更に疑問に思った。兄さんが取り出したのは小さな鏡だった。
――僕に自分の顔を鏡で見る趣味は無いぞ。
そう思いながら僕は渋々鏡を受け取り、自分の顔を見た。
しかし、見た瞬間僕は氷りついた。
「なに……これ……。」
僕の顔はよく中性的だと言われるけど今の僕の顔はそのようには見えなかった。
どう見ても女の子にしか見えない。
可憐で、少し目の大きい女の子にしか。
「こ、これ…どうゆうこと?
僕、どうなってるの?」
「知りたきゃ自分で身体を触って調べろ」
僕はまず一番目の前にある手を見た。
前に見た時より細くなっていて、指も少し長くなっている。
次にその手で自分の胸を触った。
本来男性には無いはずの膨らみがそこにあった。
そこでもしやと思い手を股の方に当てた。
そこに、男性ならば誰にでもあるはずの物が無かった。
「そんな…そんな……」
僕はずっと黙っていた母さんに目を合わせてた。すると母さんは悲しく、悔しそうな声を出した。
「ごめんね優…。お母さん、今は何も言えない……」
「あっ……ああ…」
僕もこれ以上何も言えなかった。
2009年3月18日午後4時23分。
僕は、自分が女の子になってしまったのを理解した。
★
「少しは落ち着きました?」
「……はい」
僕は担当医の先生の問いに答えた。
「それじゃあ……、君の身体に何があったのかをはなしましょう」
先生はあの時のことをゆっくりと話した。
それは、とてもすぐには信じられない内容だった。
あの時、僕の心臓は一度止まってしまったらしい。
それで、先生達は僕の心臓を再び蘇生させようと手を尽くしたけど、結局うごかず、もう駄目だ、というときに再び心臓が動き始めたらしい。
でも、心臓が動き始めたと同時に僕の身体は大きな変化が起こった。
動き始めると同時に、元々あった「男性としての機能」がまるで溶けるようになくなって、
代わりに、「女性としての機能」が突然出現した。
そうなると、今度は身体の骨格、顔、肌等もそれに合わせるように女性の物に変化したという。
「そうして、心臓の動きが正常に戻った時には、君の身体は完全に女の子になっていた。
……これが昨夜君に起こった全てです。
何か他に質問ありますか?」
――正直、あまりに非現実的すぎて全く信じられない。
それが本当の感想だ。
でも僕は実際こんな姿になっちゃって、これ以上こんなことを考えても無駄だと感じ、言うのをやめた。
「じゃあ、元に戻ったりしませんか?」
「それは絶対ないでしょう。一度大幅に変化した身体が二度も変化するとは到底考えられません」
「……ですよねぇ」
まあ…、こんなことだろうと思ったけど。
「あの…病気の方はどうなったんでしょうか……?」
今度は母さんが質問した。
「まだ解りません。
ただ、性転換した時に同時に熱が下がりましたから……。
検査の結果待ちですね」
「そう…ですか」
母さんが少し落ち込んで見えた。
「では、他に質問はありませんか?」
「優、もうない?」
「うん、僕からは…」
「では、あとはご家族で話し合ってください」
そう言って先生は席を立った。
「優……大変なことになっちゃったね……」
「うん………」
母さんは凄く悲しい目をしていた。
当たり前か、自分の息子が突然女の子になったら普通は悲しむ
「……」
「……」
沈黙が続く…。
「…」
……ああ!もう我慢できない。
「…………ひっく」
「?」
「うっ…うう」
もう駄目……涙が止まんない。
「ユウ……君?」
「ひっく……母さん…ごめんね……。
ごめんなさい……。
せっかく…痛い思いして産んでくれた身体を……こ、こんなにしちゃった……」
「…………」
「僕……これからどうなっちゃうんだろう?……不安で…ふあんで……こわいよぉ……」
そこまで言うと僕はもう母さんに目を向けられなくなった。
――はは、16歳にもなってこんなに泣きじゃくるなんて夢にも思わなかったよ……。
「…ユウ君」
そう呟くと母さんは僕を抱きしめた。
「!、母さん!」
「ユウ君は何も悪くないよ……。だって死んじゃったほうが哀しいもの。
だったらお母さんは、あなたが女の子になってまで、生き返ってくれたほうが嬉しいわ」
母さんはそう言って僕を励ました。
まるで小さな子供をあやすように。
「母さん……」
……だったら僕も、今日だけは小さい子のように泣いても良いよね………。
「うう……うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
僕が泣きじゃくると母さんも僕のことをより強く抱きしめた。
その後も僕は、1時間以上も母さんの胸の中で泣き続けた。