第19話・チャンス
5月14日、珍しいことに今日はまだ冬路が来てない。
風邪でもひいたのかなぁ? 昨日は元気そうだったけど……。
このまま待つのも暇だし、いつもは冬路がやっている教室の窓拭きを、今日は僕がやってみることにした。
「……これは結構大変な仕事だなぁ。よく続けられるな冬路は」
そんなことを言いながら僕はせっせと窓を拭く。
半分くらい拭いたところで扉が開く音がした。
誰だと思いながら後ろを向くと、そこには敬一がいた。
「お、おはよう……」
「…………」
敬一は無言で席に座った。
――怒ってるなぁ、どうしよう……。
……こうゆう時はちゃんと謝った方がいいよね、元々僕が悪いんだし。
「「あ、あの(ね)(な)!」」
僕が喋ると同時に敬一も喋り始めた。
「あ、……先、言ってよ」
「お前こそ、先、……言えよ」
どうしよう……、先に言おうかな……。
「じ、じゃあね……その……」
「……待て」
「え?」
「やっぱり一緒に言おうぜ。なんか、言いにくそうだし……」
「んー、じゃあ……1、2、3で言おう」
「ああ」
「「1…2…3……」」
「「ごめん……」」
★
無事に敬一に謝ることができた後、僕らは互いの意見をそれぞれ言った。今度は、お互いに冷静に考えて言葉を選び、慎重に、でも正直に話した。
「……そうか、どうしても日比谷達と和解したいのか」
「うん、このままだと気分悪いから……」
「……わかった、もう俺は何も指図しねぇ。だが、俺がどうしても駄目だと判断したら、もう近づくな?」
「わかった、約束する」
「さて、問題はどうやって日比谷と話すか、だな」
「他の二人に話しかけるにも日比谷を通さないと無理だろうしね」
そんな風に思案していると、また扉が開く音がした。
今度は冬路が疲れた顔で出てきた。
「よう冬路、いつもよりずいぶん遅かったじゃねぇか?」
「いやな、本当はもっと早くに来てたんだが……職員室で青嶋先生と会議をしていてな……」
「会議、何の会議をしてたの?」
「今月末にクラスマッチがあるだろ? でもうちのクラスはまだ大縄跳びの組が決まってなくて、結局今日のホームルームで決めよう、ということで今まで来なかったんだ」
……クラスマッチか。そういえばそうだったな……。
我が蓮根高は、毎年5月の末日にクラスマッチを行うんだ。
大抵男子はバスケと野球、女子はテニスとリレー、そして全体として最後に大縄跳びをするのが通例らしい。
「そういえば、何で大縄だけ決まってないんだっけ?」
「忘れたのか? 日比谷達が並び決めの話し合いに参加しなくて、それから全然決まらないままなんだよ。
全くあいつら……」
冬路は忌々しそうにブツブツとぼやき始めた。
……日比谷達はここまで迷惑を懸けてたのか……、思えば大縄の並び決めをしようとって、僕に真相を話した次の日だったっけ。
これは間接的にも僕のせいでもある。何とかできないか……。
……んっ? 待てよ?
「そうだ!」
突然大声を出した僕にビックリしたのか冬路と敬一は少し後ろに引いた。
「な、なんだ春崎、急に……」
「そうだそれだよ! ありがとう冬路!」
「お、おいユウ、突然どうした!?」
「敬一、チャンスが一つあったよ。日比谷達を大縄の話し合いと練習に参加させるんだ!」
「そ、そうか! なるほど!」
やったあ、と手を合わせる僕らを、冬路はキョトンとした顔で見た。