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第18話・昔の話

「はぁ……」


 誰もいないリビングで僕は顎を手に乗せて溜め息をついた。


……何であそこで冷静になれなかったんだろう?


 ポラリスでのことを悔やみながら、もう一つ溜め息をつく。


 それからしばらくぼぅっとしていたけど、玄関が開いた音がしたので玄関の方に向かった。

玄関にいたのは仕事から帰って来た兄さんだった。


「お帰り兄さん、今すぐご飯食べる?」


「ああ、頼む」


 兄さんはいつものようにくたくたなりながら、リビングに向かった。




「はい、どうぞ」


「ありがとう、いただきます」


 リビングに兄さんが晩御飯のうどんをすする音が響く。


「……なぁ、優」


 ふと、兄さんがうどんをすするのを止めてこっちを向く。


「何?」


「今日、学校で何かあったのか?」


「へっ? どうして?」


「顔にそう出てるぞ。

お前そうゆうのすぐ出るから」


 うっ……敬一と同じようなこと言ってる。


「やれやれ、大方敬一と喧嘩でもしたんだろ?」


「そんなことまでわかるの?」


「何年、お前の兄貴やってると思うんだ?」


……兄さんには敵わないな……。


「実は……」


 僕はこれまでのことを兄さんに話した。

自分が受けたこと、日比谷達のこと、敬一と秋ちゃんが僕を助けてくれたこと、

全部話した。


「……つまり、いじめはなくなったけど、その解決方法が気に入らなくて喧嘩になったんだな」


「うん、……あんまり言いたくないけど、敬一達が日比谷達にやったことは僕が受けたことと何も変わらないと思うんだ。

敬一が……秋ちゃんが僕を守ってくれたのは嬉しかったけど、あれでは流石に彼らが可哀想過ぎるよ……」


「しかし、お前はホント変わってるよな。

普通自分をいじめた連中を可哀想だなんて、思わんぞ誰も」


「そんなに変?」


「ああ凄く、まぁお前らしいがな。

母さんと、死んだ親父はお前にはお前は誰にでも優しい子になって欲しいと言うのを込めて「優」って名前をつけたって言ってたからな」


「それもう何度も聞いた」

「はは、それほど印象深い話だったってことだ。

それに……」


「何?」


「その性格のおかげでお前と敬一は友達になれたんだろ?」


「……兄さんのおかげでもあるけどね」


「はは、そうか」


 そう言い終えると兄さんは再びうどんをすすり始めた。

僕は敬一と友達になれた『あの日』のことを思い出していた。



     ★



「クソッ、何イラついてんだ俺は……」


 ポラリスから出た後も、俺のイライラは一向におさまらなかった。

風呂入っても、飯食っても、全くイライラは止まらない。


『あの日のことを遊びだと思ってたんだね』


 俺の頭にユウが放った言葉がよぎった。


「遊び……か」


 確かにあの時は遊びと思ってたかもしれない。

でも、あいつにとっては到底遊びには思えないだろう。


 そんなこともわからなかった俺は本当にバカだったと、今更感じた。


“Rrrrr"


 そんなことを考え込んでると、携帯が鳴り始めた。

画面には「非通知」と書いてあった。いたずらかと思ったが一応出てみた。


「もしもし」


 露骨に嫌そうな声を出す。


『あっ、夏木君?

私、橘……』


 橘……あぁ秋奈か。


「……なんだアンタか。

ってまて、なんで俺の携帯の番号わかったんだ?」


『坂下君から聞いたの。

なんか自分だとすぐに切るだろうからって、教えてくれた』


……何考えてんだあいつ。


「で、何のようだ? その言い回しだと、冬路の差し金みてぇだが」


『ううん、私の意志。どうしても聞きたい事があって……』


 聞きたい事? まさか……。


「……あのことか?」


『そう! 夏木君が出てった後からずっとその事考えて……。

ねぇ教えて、あのことって何?』


 やっぱりな……、だが。


「悪いが、それは言いたくない。あんまり思い出したくない話なんだ。

それに、アンタが口を滑らすってこともあり得る」


『だったら大丈夫、私口固いほうだから。

それに、私の事信用できるって言ってたわよね?』


 くっ……そういえば。


「……わかったよ、だけど誰にも言うなよ」

『わかってる、言わないわ。

優ちゃんに本当なのか聞いたりもしない』


「よし、じゃあまずは……」



     ★



――俺がユウを知ったのは小学一年生、6歳の時だった。


 最初は特に何ともない、ただのクラスメートだった。

でも、入学して二ヶ月後に悲劇が起こった。


――ユウの親父が、交通事故で死んだんだ。


 それからはあいつにとって地獄だったろう。

家の方は親父さんの保険金やらでなんとかなったらしいが、学校ではユウはいじめの対象になった。


 今回のように影でではなく、白昼堂々とだ。


 子供ってやつは残酷なもので、少しでも違うやつがいると意味もなく攻撃する。バカだと思うだろう?



……その時俺は、そのバカの中にいた。

みんなやってるからっていって、暴力まで奮った。


 ユウはいつも泣いていた。自分から手を出したりしなかった、独りでは敵わないって事を知っていたから。どんな理由でも、暴力は奮ってはいけないことを、もう知っていたんだろう。


 ユウが受けたいじめは三年生になってビタリと止まった。


 理由はいじめを始めたやつが「飽きた」からだった。


 理不尽だと思うだろ?

でもある意味それは、飽きっぽい子供らしい理由だと俺は思う。


 しかし、ユウのいじめが終わっても、今度は違うやつがいじめの対象となった。


 誰だと思う? フフ……。



……俺だよ。いじめの対象は、俺に移った。


 理由は二年の終わり頃、俺の両親が離婚したからだ。


 この時、俺はようやく自分がやったことが間違いだったことに気づいた。


 仲が良かったやつも掌ひっくり返したようにいじめはじめた。


 ああ、酷いと思うだろ? 誰も味方なんてしなかった、したら今度は自分がこうなるからだ。

だけど一人だけ俺を庇うやつがいた。


 それがユウだった。あいつはボロボロになった俺を家まで送り、その後普通に話しかけてくれた。


 あんまり大したことない話だったけど、それでも嬉しかった。

 その次の日、ユウはいじめの主犯格のやつに言った。「どうして君はいじめをするの?」と、普通そんなのいうはずないのにそれでもあいつは主犯格に聞き続けた。


 主犯格のやつはしつこく聞くユウに呆れようやく口を開いた。

「自分はいじめることしか楽しみがない」とやつは言った。


 そうするとユウは「だったらいじめなんてつまらなくなるようなことを探そう! 僕も手伝うから」と言った。


 そしてしばらく月日がたつと、やつはいじめを止めた。同時に、他のやつらも大人しくなった。


 あまりに突然だったため俺は驚いてユウに聞いた。

「お前一体なんなんだ? 暴力も使わず、なんでやつを止められたんだ」、と。


 するとユウはこう言った。

「彼はただ楽しみになることが他になかっただけだったんだ。

だからいろいろなことをやらせてみると、すぐにいじめなんて下らなかったって言ったよ」、と。


 そしてこう続けた。

「いじめをなくす方法は、暴力だけじゃない、その人にちゃんと間違いを指摘して、その後優しく接すれば自然に無くなる」


 その時俺は思ったよ。

こんな弱そうなやつがこんな甘くて、恥ずかしくて、それでいてこんなに強い言葉を言えるなんて、と。


……それから俺とユウは、互いに一番の友人になれたんだ。




『そんなことがあったんだ。……優ちゃん、あんなに酷い目にあったのになんでそんな優しくなれたんだろう?』


「後で聞いたがあいつの親父さんの言葉だったらしい。

それをあいつの兄貴が教えた事でユウに伝わったらしいが、当の兄貴は不思議がってたな」


『……優ちゃんのお父さんって、本当に優しい人だったのね。

はぁ〜、なんか私日比谷達に酷いことしちゃったな……。

動画撮って、それをユアチューブに流すぞ、だなんて立派な脅迫じゃない。

これじゃあ責められても仕方ないわ』


「本気だったのか?」


『いえ、ただのその場しのぎの脅し。

まぁ優ちゃんに何かあった時のために残してあるけど、本人が嫌だって言ったら消すわ』


「……そうか」


 その後秋奈はスッキリしたと言って電話を切った。



……俺に残ってた心のイライラもいずこかに消えたみたいだ。

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