第15話・休日
5月3日、僕は隣町芝宮の駅で秋ちゃん達が来るのを待っていた。
集合時間は1時なんだけど今はその20分前の12時40分。ちなみに僕が来たのがその10分前だ。
……正直、自分でもこれは早すぎだと思う。
昔から僕は待ち合わせの時間より大幅に早くに来てしまう傾向にあるようなんだけど、それは余裕を持って行きたいと思っての行動なんだ。
でも、学校ならまだしも友達との約束の何十分も前にいるのはどうなんだろ?
気が早すぎるんじゃないのかな?
ともかく、この辺は改良の余地があるな、
……ってなに一人でこんなこと考えてるんだろう?
と、まあそんなこと思ってると、秋ちゃんが視会に見えてきたので、秋ちゃんの方に手を降った。
すると秋ちゃんも僕に気付いたようで、手を降り返して僕の方にやって来た。
「おはよ、優ちゃん今日も早いね」
「うん、でも早くに来すぎちゃった」
「さて、後はマイちゃんね」
マイちゃんと言うのはよく秋ちゃんと一緒に昼食を食べてる栄倉麻衣花さんのこと。
秋ちゃんと今日は来ないけどもう一人のメンバーの蜂島礼とは、中学からの友達らしい。
栄倉さんをしばらく待っていると、秋ちゃんの携帯から着信音が流れて来た。
「栄倉さんから?」
「そのようね、……ああっ」
突然秋ちゃんが残念そうな声を上げた。
「なんだったの?」
「マイちゃん、風邪ひいて来られないって」
「そうなんだ……」
そうなると、今日は中止になったりするのかな?
「うーん……しかたないか。
優ちゃん、仕方ないから今日は二人で買い物しましょう」
「へっ?」
「ほらっ、はやく行こっ」
「わぁ! ちょ、ちょっと待って」
秋ちゃんは僕の手をひっぱり、右に見える大きな建物へ向かった。
★
僕らがやって来たのは駅から少し離れたところにあるショッピングセンター「トレジャー」というところだった。
「うわ〜、大きいとこだね〜」
「あれ? 優ちゃんも一度来たことあるでしょ?」
「へっ? そうだっけ?」
僕は男の時からこの辺に来たことは少ないし、イマイチピンと来なかった。
「う〜んわかんない」
「え〜来てたよ、4月の最初辺りに」
「? ……ああ! そうだ!」
思い出した! 母さんと一緒に来た洋服店があるところだ。
あの日はただただ誘導されて来たから店の方は全く覚えてなかったんだ。
「思い出したみたいね。
じゃあまずは洋服店に行こ」
「えっ? 服ならこの前買ったのが……」
「駄目駄目、それだけで満足してちゃ。
女の子ならもっといっぱい服を買わなきゃ」
「そ、そうなの?」
「そうよ! さ、行こっ!」
「わ、わかった……」
な、なんかさっきと同じような……。
ワンパターンにならなきゃいいけど……。
★
店の中は祝日なだけあって結構人がいた。この前来た時と同じように、服を見ては戻したり、見ては買ったりと慌ただしい感じだった。
「優ちゃん何してるのー、こっちこっちっ」
「あっ、うん」
秋ちゃんが止まったのは半袖の服や生地の薄い服がいっぱいあるところだった。
それだけでなく、近くの札には「夏を着よう!」と書いてあった。
「秋ちゃん、ここの服全部夏服?」
「そうよ? どうして?」
「いや……だってまだ夏には早いし……」
「だからよ」
「へっ?」
僕は思わず目をキョトンとした。
「夏には早いからこそ今買うのよ。見て、周りを」
「?」
言われた通り周りを見ると、買い物をしてる人はこの夏服売り場の方に集中していた。
一応今は春なのにみんなこっちの服を見ている。
「なんでみんなこっちを買うの?」
あまりに気になったので秋ちゃんに聞いてみることにした。
「それはね、夏に買うより今買った方が安いからよ」
「安い!?」
僕は思わず声を上げた。
すると周りの人が白い目で僕の方を見たので、僕は慌てて謝った。
……うう、恥ずかしい。
「で、それってどうゆうこと? なんで夏より今の方が安いの?」
「それはまぁ、夏の服なんて今はそう着ないからよ。
わざわざ着ない服をそのままの値段で売りはしないでしょ?」
「……確かに」
「それに、私達のような輝ける高校生ライフを送る者なら、夏なんてあっという間にやってきちゃうわよ。今買ったって全然早いってわけじゃないわ」
そういい終えると、秋ちゃんは買い物を初めましょう、と言って服の方に目をやった。
……でも考えてみるとこうゆうことを見越した店の方が、逆に高い値段で提供するんじゃないか? と考えたけど、それでは空気を読めないみたいなので口には出さなかった。
「い、いっぱい買ったねぇ」
「そお?普通だと思うけど」
秋ちゃんが今手に持ってる紙袋は、僕が持ってるそれより倍ぐらい膨らんでいた。
「私から見たら優ちゃんは買わなさ過ぎだと思うけど」
「家はあまり裕福じゃ無いし、必要な分しか買わないんだ」
「……一応自分の物なのに?」
「自分の分ならなおさら厳しくしないと!」
「は、はぁ……」
秋ちゃんはたじろんだ表情で僕の紙袋を見た。
……そんなに変な事言ったかなぁ? でもこんなにたじろんでいるんだから、やっぱり僕が変なのかも。
「ねぇ優ちゃん、ちょっと寄り道するけどいい?」
洋服店を出たところで秋ちゃんがそう聞いてきた。
「いいけど、どこ行くの?」
「本屋。ちょうどここの3階にあるの」
――本屋かぁ、僕は本を読む時はお金が掛からないと言う理由でいつも近くにある図書館に言ってるから本屋自体はあまりいかない。
せっかくだし行ってみよう。
「うん、わかった。行こう」
「よかった。じゃあこっちよ」
〈3F・書店コーナー〉
「どんな本探してるの?」
「お気に入りの小説の新作が今日出てるの。多分このあたりに……あった!」
入り口から少し離れたところにある「新刊!」と掛けてあるところで僕達は立ち止まった。
そこで秋ちゃんは表紙に漫画風の女の子の絵が描かれている本を手に取った。
「それどんな本?」
「平たく言えばファンタジー物かな」
「ファンタジーが好きなの?」
「ええとっても」
心なしか秋ちゃんの目が一瞬輝いたような気がした。
「私昔から、そうゆうお話しが大好きなの!
小説でも絵本でも漫画でもゲームでも、いつもワクワクして!」
熱く語る秋ちゃんは凄くキラキラしていた。
でも、なんかその……意外って感じもしたけど。
「優ちゃんは好きなのある?」
「へっ、僕の好きな本?」
「うん、あっでも何でもいいからね。本以外でも」
「うぅぅん……」
――好きな本、好きなジャンルかな?
う〜ん、どうなんだろう?
僕あんまり本とか読まないし、漫画やゲームだって敬一の家で数回見たりやったりしたくらいだし、興味があったにしてもお金が……。
僕はしばらく考えて結局こう言った。
「ごめん、僕そうゆうのあんまりわからない」
「えぇ! わ、わからないってどうゆうこと!?」
「僕の家、僕が小学生に入ったばかりの時に父さんが死んじゃって、そうゆうの買うお金なんて……全然なかったから。
たから僕、あんまり何が流行ってるのかわかんなかったんだ」
「……そうだったの。
ごめんね、そんなこと聞いて」
「いいよ、そんなに気にしてないし」
「でも……そうだ! 優ちゃん、今度何か本を持ってくるよ」
「えっ?」
「少し古いのになると思うけど、本を読めないなんて可哀想よっ!」
ぼ、僕そんな大袈裟に言ったっけ?
「本読むって凄くいいことだから、とっても……」
秋ちゃんは少し涙目になった。
……そんなに人の事を心配してくれるなんて……優しい子だなぁ……。
僕は少し泣きそうになったけど、そこは我慢した。
「……うん、ありがとう。
楽しみにしてるよ」
そう言った瞬間、秋ちゃんの顔がぱぁって明るくなった。
「本当! よかった……、必ず合いそうなのを持って来るから」
秋ちゃんは満天の笑顔でそう言った。
その後僕と秋ちゃんはトレジャーを出て、また学校で、と言って別れた。
……なんだか、今日は心が暖かくなった気がした。
今回出た町名、店名は全て架空の物です。
もし本当にあったらごめんなさい。