5月 第14話・疑い
「なんでだよ! 何で今ここに傷が付いてるんだよ!」
僕の机を忌々し気に見て、敬一は苛立った口調で言う。
少し前に教室に入って僕の机を見た時からずっとこの調子だ。
敬一が丸ノ内君を捕まえた事件から8日たった今日、5月1日。
この8日間で僕の持ち物が無くなる、ということは無くなったけど、まさか今日、8日前に起こるはずだったことが起こってるなんて……。
「チクショウ、丸ノ内のやつおとなしくなったと思いきや……」
「ちょっとまって、また丸ノ内君がやったと思ってるの?」
「だって他に誰がいるんだよ?
アイツには前科があるんだぜ」
「いや、“丸ノ内だけ"だと言える保証はない」
窓の方に背もたれた冬路が腕を組んで言った。
「どうゆう事だ?」
「確かお前らの話では、丸ノ内は誰かにやれと言われて春崎の持ち物を隠したりしたんだよな?」
「ああ、でも出任せで言ったかもしれないじゃんか」
「そうかもしれないが、奴を操っていた人間が本当にいて、そいつが痺れを切らして今の犯行に及んだってこともあるだろ?」
「確かに。
だがそうだと言って丸ノ内が犯人じゃないってことも証明出来ないぜ!?」
「ねぇ、何でそんなに丸ノ内君を疑うの!?
前科があるってだけで」
「だからなぁ、何でお前は丸ノ内を庇う言い方するんだよ」
「そうゆうわけじゃ……、
でも無闇に疑うなんていけないよ……」
「……あのなぁ!」
「まてまて、お前らが喧嘩しても意味が無いだろう」
冬路が僕と敬一の間に入って来た。
「とにかく、これをやった犯人は丸ノ内かもしれないし、別の人間がやったのかもしれない。
だが、今の状況では誰がこんなことをしたのかは見当できない。
今はこんな議論をしても意味はない、机の事を先生に言って、別のに取り替えてもらえるか聞こう、いいな?」
「う、うん」「……わかった」
こうして、誰が犯人か、という話は保留となり、まずは職員室に言って青嶋先生に一連の事を話す事にした。
★
「それにしても、春崎の奴は何であんなに丸ノ内を信じるんだ?」
昼休みの時間、冬路はふと朝の優の事で疑問を感じた。
この疑問を聞き、敬一は肩をすくめて答えた。
「あのなぁ……、ユウはそうゆうの一度言われたらすぐ信じて疑わなくなるんだよ。
たとえ何度裏切られても」
「それまた何故に?」
冬路が首を傾げる。
「さあな、とにかくアイツは筋金入りのお人好しなんだよ
ま、それが良いところでもあるんだがな」
「……なるほどな、確かにアイツ騙され易いし、だがそこまで人を信じられるのは逆に凄いな」
「ああ、アイツ名前通り優しいからな。それにいつまでもへこみっぱなしにはならないし、ある程度は大丈夫だろ。
それに明日から5連休だし」
「そうだな」
冬路と敬一は少しホッとした顔になり、止めていた箸を再び動かし始めた。
★
「「ごちそうさまー」」
昼休みの中頃、僕は秋ちゃんと秋ちゃんの友達二人と一緒に昼食を食べ終えていた。
「ねぇみんな、明日からの連休、暇な時間ある?」
秋ちゃんがふと、そんなことを言い出した。
「なんかあるのー?」
「空いてる日があったらみんなで買い物にでも行こうってことなんだけど……大丈夫かな?」
「あたしはいつでもいいよー」
「あー、私ダメだ。部活で忙しい」
「優ちゃんは?」
秋ちゃんが聞いて来たので僕は携帯のスケジュール表を見て確認する。
「えぇっと……3日なら大丈夫かな?」
「わかった、じゃあ3日の午後1時に集合ね」
「オッケー」「う、うん」
ここで僕のゴールデンウィークの予定が一つ増えた。