第13話・北風と太陽
「春崎、夏木からメールだ」
現在午後5時になったところ、バイト中の僕に冬路がそう言ってきた。
バイト中なので当然携帯の電源は切っているはずなのになんでメールが来るのか疑問に思ったけど、メールが来たのは冬路の携帯からだったらしい。
そうなると、なんで冬路の携帯から僕宛てのメールがくるのかと思ったけど、そこまで言うと話しが終わらなくなるので言わなかった。
メールにはこう書いてあった。
to.夏木 敬一
題名.ユウへ
本文
ユウ、すぐに蓮根の相談室
に来い。
「相談室? なんでこんなところに呼ぶんだ?」
「さあ? 俺にはわからん」
「どうしよう、今バイト中なのに……」
「俺から親父に言っとくから行って来な」
僕は少し考えて、別に長くないだろうと考え、制服に着替え直して学校へ向かった。
★
相談室に来てみるとそこには敬一と青嶋先生、それと何故か同じクラスの丸ノ内君(だっけ?)がいた。
「来たかユウ。丁度よかった、今こいつが白状したところだ!」
そう言うと敬一は丸ノ内君の肩をバン、と叩いて、先生にたしなめられた。
「白状って……どうゆうことですか?」
「春崎さん、夏木君から聞いたけど最近身の回りの物がなくなって、必要なくなったところで出てきたってことが数回あったらしいわね?」
……ああそういえば!
「はい、最初に英語のプリントで次にその日提出するはずだった古典のノート、それに昨日は体育だったのにジャージの入った袋が消えていました。
でも全部すぐに見つかって、古典のノートは提出期限が延びてジャージは友達に借りたから、困ったのは最初のプリントだけだったし、最近よく物をなくすなあって思うくらいでしたけど……」
「それはなくしたんじゃなくてコイツが隠してたんだよっ!」
敬一がなっ! って言って再び丸ノ内君の肩を叩くと丸ノ内君がひぃっと声を上げたあと頷いた。
「……なんでそんなことしたんですか?」
僕は椅子に座って、丸ノ内君に目線を合わせた。
すると丸ノ内君はオドオドした口調で喋り始めた。
「あっ、ああの……こ、これは、おっおっ俺の、いいい意識では、なななくてて、そそそ、その……」
「誰かにやらされた、ってこと?」
僕が聞くと丸ノ内君は頷いた。
「それは誰だ! 言え!」
「ヒィイ!」
「止めて、敬一」
敬一が手を出す前に僕は止めた。
「なんでだよ! お前こいつを許すってのか?
こいつ今日は彫刻刀でお前の机に傷をつけようとしたんだぜ! それでも許すってのか?」
「それが本当でも敬一はやり過ぎだよ! 丸ノ内君もう反省してるみたいだしもういいじゃない!」
「……本当に反省してる?
もうしない?」
青嶋先生が聞くと丸ノ内君はコクリと頷いた。
「じゃあ信じることにしましょう。
もう帰っていいわよ」
そう言われると丸ノ内君は重い足取りで相談室を出ていった。
「じゃ、あなた達も行っていいわよ。
夏木君は早く部活に戻りなさい」
相談室から出た僕は敬一に呼び出された。
「お前相変わらず人に甘いな。
丸ノ内のやつがホントに反省したかはわかんねぇぞ?」
「そうかも知れないけど必要以上あたる必要はないよ。
それこそ後で返って来るだろうし」
「……まったく」
敬一が呆れたように溜め息をついた。
★
あの事件から一週間以上たち、今日で5月となる。
今日も僕はいつもと同じ時間に教室にやって来た。
「おはよー冬路」
「お、おう……」
冬路が浮かない顔をして挨拶し返した。
何故か僕の机を隠しながら。
「ん? なんで僕の机隠してんの?」
「い、いや、これは……おぉ」
僕は冬路を机から離して机を見た。すると……。
「え……。」
「…………すまない」
「なんで謝るのさ……」
僕の机には刃物で切りつけたような傷が何個もあった。
物語は5月に続く――。