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第11話・励まし

 始業式から早いものでもう10日たった4月16日8時20分。僕は普段ならもう通り超してるはずの傾度30度の坂を走っていた。


 何故遅れたかというと、遅刻にありがちな原因、寝坊をしたからだ。

理由は昨日の夜、今日の一時間目にある英語の小テストの予習をしようとテストの範囲であるプリントを出そうとして鞄を開けると、そのプリントがなくなっていたんだ。


 それで必死で部屋中探したんだけど見つからず、結局昨日が今日になる時間まで探したところで限界が来て寝てしまい、起きたのが7時半。それも今日のご飯担当は僕、大慌てで作ったところで制服に着替え、朝御飯もトーストだけで済まして僕は家を出た。


「あぁ〜もう! なんでプリントなくしたんだろっ!」


 僕はなくなったプリントと、なくした自分を恨みながら言った。


 特に英語のプリントってところが最悪だ。

英語は苦手な方だから、ちゃんと昨日の内から予習しなきゃいけないのに……。


「もぉ……朝からついて無いなぁ……」


 学校が視界に入ったところで、僕は溜め息をついた。



     ★



「はぁ……さいっやく……」


 一時間目のチャイムがなったところで僕は机の上に頭を乗せて座ったまま倒れ込んだ。


 授業には間に合ったけど小テストの手応えは全く感じられず、今の僕は疲労感でいっぱいだった。


 でもいつまでもこうしてられない、来たときは慌てたから英語の分しか出してなかったから、残りも机に入れないと……。


「優ちゃん、おはよー」


「ん? あぁ秋ちゃん、おはよう」


 机に教科書を入れる作業をしながら僕は橘さん、もとい秋ちゃんの挨拶に答えた。


 この前一緒にお昼を食べた時から僕達は本格的に親しくなり、お互いの友達を紹介したり、お互いを「優ちゃん」「秋ちゃん」と呼ぶことになったりした。


 正直ちゃん付けするのもされるのもまだ慣れてないのは秘密だ。


「珍しいね、優ちゃんが授業ギリギリまで来ないなんて」


「ああ、ちょっとプリントなくしちゃってね」


「あー、だからテスト中ずっと苦い顔してたんだな」


 話の輪に敬一が入って来た。


「うん、……あれ?」


 教科書を授業順に並べてる作業をしてる途中、ふと机の中に手を入れると、何かの紙があった。

もしやと思い僕はその紙を引っ張り出した。


「うわぁ……あった」


「……酷いタイミングで見つかったね」


 案の定、それは今までずっと探してた英語のプリントだった。


「何で今になって見つかるんだよ……」


 僕はガックリとした気分になり、やるせない溜め息をついた。


     ★



「はぁ……今日も今日が終わった」


 6時間目が終わったところでユウは今日(俺調べで)57回目の溜め息をついた。

 プリントが見つかったところからユウのテンションはがた落ちし、授業中の質問の答えを間違えたり、昼飯残したり(残りは俺が食った)と明らかに元気がなかった。


「はぁ……」


 そんなこと考えてる内にユウは今日58回目の溜め息をついた。


……そろそろなんとかせんとな。


「ユウ、溜め息つくと寿命が減るらしいぜ」


「そんなの迷信じゃん……。それに僕一度死んだようなものだし」


 ちっ、効果無しか……。

ちょっと悔しい思いをしたところで今度は秋奈がしかけてくる。


「ゆ、優ちゃん、元気だそ。明日はいいことあるって」


「…………」


 ユウは黙ったままだ。

てかそんなベタな励ましが今さら通用するはずがないだろ。

それでも秋奈は諦めない。


「そ、そうだ今日お茶にでも行こうよ。

私今日部活無いし、お茶飲んで何か甘い物食べれば少しは気が晴れるって」


 おいおい、子供じゃあるまいしそんなことで……。


「…………(ぱぁぁ)」


 って反応してる!? ユウ、お前半日間の憂鬱をそれでチャラにできるのか!?


「でも僕今お金少ないし……」


 そ、そうだよな。

お前小遣い少ないもんな。

あれ、でもさっき一瞬口が微妙に歪んだような……。


「俺がお前の分奢ろう」


「うん、行く!」


 おぉぉい! 何でここでお前がここで出るんだ冬路!

あとユウ、奢るの一言で目の色変えるな!


「じゃあ決まりね。

放課後4人でどこかの喫茶店に行きましょう!」


「え、もしかすると俺入ってんの?」




 ユウ、冬路、秋奈、そして俺は喫茶店「ポラリス」の中に入った。


 俺は最初渋ってたが、どうせ今日は部活は無くて暇なので、結局付いてくることにした。


「いらっしゃい、おぉ冬路、優さんや夏木さんも一緒で、おや? そちらは初めて見る顔で」


「あ、橘秋奈です、よろしくお願いいたします」


 店長、もとい冬路の親父さんと秋奈が挨拶を交える。


「じゃあ、そっちの席で待ってて下さい」


 席に座って待ってる間、俺達は暫く談笑していた。

その間もユウはまだ元気がなかった。


 店長が注文を聞きに来たので、とりあえずクッキーの盛り合わせを注文し、飲み物は俺と冬路はコーヒー、秋奈はレモンティーを注文した。

ユウの飲み物は冬路が決めた。


 それから数分待つと、注文の品が届いた。


「冬路……これは?」


 ユウが自分のお茶を指して言う。


「ん? ああ、それは昨日仕入れたばかりのハーブティーだ」


 ユウがハーブティーの匂いを軽く嗅ぐ。


「……いい匂い」


「だろ、そのハーブの匂いには心の疲れをほぐす作用があるんだ」


「ほんとだ、なんだか落ち着く……」


 そう言うとユウはハーブティーを一口啜った。


「……おいしい」


「だろ」


 冬路が片目を瞑り言った。


「優ちゃん、今日悪い事があったなら、きっと明日はいい事あるよ。

『悪い事は何度も続かない』って昔お婆ちゃんが言ってた」


「うん、ありがと……」


 ユウの目に若干の涙と笑顔がこぼれた。



 スゲェな……俺なんて何もしてないのに。

俺も、ユウの力になれたら……。

※補足

 秋奈は演劇部、敬一はテニス部です。


 優と冬路は部活に入っていません。

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