第10話・それぞれの告白
始業式はそれほど長くはなかった。
こうゆう式事ではありがちな校長先生の長い話も、今回は5分足らずで終わり、式そのものも校長先生の話が長いことを前提に考えたものだったのか、全体的に短めだった。
まあそれでも、僕達生徒にとっては早く帰れるという事で、特に不満は無いのだが。
そんなことを考えてる間に教室に着き、本日二度目のホームルームが始まった。
この時間も新しい教科書の配布などで大変だったけど、わりとスムーズにことが進んだのでこれまた早く終わった。
「じゃあまた明日、さようなら」
『さようなら』
「さてと…」
僕は教科書で重くなった鞄を持って教室の時計を見た。
時刻は11時40分。今帰っても母さんはパートでまだ帰って無いだろうし、バイトにもまだ時間がある。
今日はその辺のファーストフードで済まそうかな、と思っていた時だった。
「あの……春崎君」
橘さんだ、橘さんが話しかけてきた。
「今日、一緒にお昼食べない?
今日、一緒に食べる人いなくて。
お金は……私がもつから」
僕は少し戸惑った。
何で彼女は僕を指定したんだ? 彼女にとってはただのクラスメートなのに。
でも独りで食べるのも寂しいし、お金はもつ、って本人が言うなら少し甘えてもらうことにしよう。
「う、うん、いいよ」
「良かった。じゃあ駅前のファミレスでいいよね」
「うん」
こうして僕は、橘さんと一緒に昼食を取ることにした。
★
色島駅は蓮根校から徒歩10分の場所にある。
その駅の近くにあるファミレス「タスコ」に僕達二人は入った。
ここまでの道中僕も橘さんも特に何か話したりしなかった。
正直、同い年の女の子に何を話したらいいのか全く分からないのが現状だ。
橘さんの方も何故か顔を俯かせて、僕の方に目を合わせないようにしてるように見えた。
……そういえばこの前洋服店で会った時も様子が変だったなぁ、この姿(女の子)で会うのは初めてだったのに僕の方に真っ直ぐ来て……。
「何してるの? 早く座ろ?」
「えっ、あぁ…、そう……だね」
橘さんに手を引かれ、僕は席の方に進む。
僕達の席は左側の端っこで、お昼時で客が多い中誰にも目がつかないところだった。
注文を聞かれたので、僕はオムライス、橘さんはカルボナーラを注文した。
「…………」
「…………」
――駄目だ、全然言葉が出てこない。
「…………ねぇ、春崎君」
意外にも橘さんが先に喋った。
「な、なあに?」
「その……この前、服屋で会った時に…私からやってきたよね」
「う、うん」
橘さんが周りに聞こえないくらいの小さい声で喋ったので、僕もそれくらい声を落とす。
「実はね、女の子になった春崎君を見たの……あの日が二度目なの」
「えっ……!」
僕は思わず声を上げた。
「でも、僕この身体になってから君に会ったの、あの日が初めてだよ?」
「うん、確かにあなたが見たのは初めてだったかも知れないけど……、私はもっと前にあなたを見たわ」
「い、いつ見たの?」
「終業式の日……、私青嶋先生と夏木君達と一緒にあなたが入院してた病院に来てたの。
そこで、ドアの前で姿が変わったあなたを見て……私、信じられなくて……逃げるように帰ったわ」
あの日だったのか。でも……。
「何で来ようと思ったの?
僕達、格段仲がいいってわけでもないし」
「春崎君が入院してから、何だか嫌な予感がして……先生から春崎君のことを聞かされた時、信じられなくて……ついてきた。
何でそんな予感がしたのかはわかんないけど……」
「……そうなんだ」
「それで……さっきいったように恐くなって……、でも、ちゃんと向き合うようにしようって思ったけど、服屋で偶然会った時は決心が揺らいだからかな、結局何も言えなくて……」
ここまで聞くと僕は何だか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「…………ごめんね、知らず知らずに君を傷つけてしまって」
「ううん。私だって逃げたし、ごめんね」
「そんな、僕全く怒ってないよ。
逃げ出すような原因作ったのはこっちだし」
「いやそんな……」
「失礼します、こちらオムライスとカルボナーラになります」
そうこう言ってる間に店員さんが料理を持ってきた。
でも橘さんはフォークを手に取ろうとしない。
「……とりあえず食べよう。誘ってくれたのは橘さんじゃないか」
「う、うん」
僕達はいただきますを言ってお昼御飯を食べ始めた。
さすが全国チェーンで出しているだけあって、味は保証できる物だった。
「僕さぁ、実は男だった頃から橘さんと仲良くなりたいって思ってたんだ」
僕はふと思ったことを喋った。
「最初は一人のクラスメートとしてしか見なかったけど、文化祭の準備で班が同じになってから少ないけど話すようになって、それからだんだん、もっと君のこと知りたくなったけど、僕女の子と話したこと少なかったから、何を言えばいいのかわかんなくってずっと相槌打つだけだった。
でも、この身体になって、まだほんの少しだけど、女の子の気持ちがわかるようになった気がするんだ」
「春崎君……」
「まあでもホントに少しだけで、まだ分かんないことばっかりだけど、こうして橘さんにちゃんと思いを伝えられたから、この身体もすてたものじゃないなって思うよ」
「そ、そう……ふふっ」
橘さんが突然笑い始めた。
「えっその、……やっぱり変だった?」
「ううん、なんだか馬鹿馬鹿しく思って」
へ?
「何で私、こんなに思いつめてたんだろうって。
何でこんなに話すのを恐れてたんだろうって今考えると、スッゴク馬鹿みたいに思うの。
だって春崎君、こんなにいい子なのに」
「い、いい子って……、僕子供じゃないよ?」
「春崎君!」
橘さんが突然声を上げた。店に響くくらいの声だったので他の人が白い目を向いていた。
それを見た橘さんは、一瞬恥ずかしそうな顔になり、その後目を細め、笑顔になった。
「……これからもよろしくね」
「……うん!」
4月6日12時12分
僕と橘さんは友達になれた。
今回でてきたファミレスは、某人気ファミレスチェーンからもじりました。