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第9話・学校

 今日は4月6日。ついに春休みは終わり、今日から学校が始まる日だ。


 僕にとってはもう約二ヶ月程ぶりだ。ここまで、長かったなぁ…。


「さて、着替えなきゃ」


 僕は部屋のクローゼットを開けて、蓮根の制服を取り出し、着替えた。

……もうこの前のように嫌がりはしない。絶対に。



「それじゃ、行ってきます」


「行ってらっしゃい。

気をつけてね」


「うん」


 こうして僕は、いつものような日に戻るように、学校へと歩みを向けた。




「ふぅ…」


 学校に着いた僕は、下駄箱で靴を履き替えて、まずは職員室へ向かった。

事前に青嶋先生から呼び出されたからだ。


 そんなわけで、職員室に着くと僕は深呼吸を一つして、室内に入った。


「し、失礼します。青嶋先生はいらっしゃいますか?」


 各先生が誰だ、とゆう顔をする中、青嶋先生が僕の方にやってきた。


「おはよう春崎君。

……いや、今はもう春崎“さん"になるわね」


「先生、この度はご迷惑おかけしました」


「まあまあ、とにかくここで話すのは難だから入って入って」


 青嶋先生に促されるまま、僕は職員室に入った。



「さて」


 青嶋先生は僕を隣の椅子に座らせて、少しかしこまった表情を浮かべて、話を始めた。


「改めて春崎さん、大変な事になったわね」


「いえ、もう大丈夫です。

泣いたり苦しんだりしても僕の身体は元に戻りませんし」


「そうね。

それにしても最初に見た時よりずいぶん落ち着き出たわね。制服も似合ってるわよ」


「そ、そうですか?」


「本当よ、お世辞じゃないわ。

顔赤くして可愛いわ〜」


「せ、先生〜!」


 うう……また恥ずかしくなってきた。


「ふふ、じゃあやっと本題に入って……、まずクラスはそのまま三組ね。席も席替えはしてないからそのまま、窓から二列目の三番目ね」


「はい」


「で、今日はホームルームが始まっても私がいいと言うまで廊下で待機してて」


「? 何でですか?」


「当然、サプライズ志向!」


 なんだそれ、と僕は思った。

……まあ先生のサプライズ志向は前からだけど。


「あれ? でもみんな僕が女の子になったことは知らされてるんじゃ……」


「それでもなおサプライズ!」


「…………はぁ」


 なんか強引なような…。


「じゃ、話は終わり。

ホームルームまでは別室で待機してて」


     ★


 時刻は8時30分となったところで、私(橘 秋奈)は友達のマイちゃんとの会話を終えて自分の席に座りました。


 席に座った私はふと窓から二列目の三番目の席を見て、その席の持ち主がまだ来ていないことを確認します。


 この席の持ち主、春崎君はずっと病気で学校を休んでいて、今日復帰する予定となっています。


 でも今は居ません。その点について私は少し不審に思いました。

春崎君はいつも仕事で早くから来る学級委員の坂下君と同じ位の時間に来ていたからです。


……ずっと休んでいたから何時行くのか分からなくなったのでしょうか?


 そう考えましたがすぐにないと思いました。

あの真面目な春崎君がそんなに時間にルーズになるとは思えません。


 次に考えた説は担任の青嶋先生がサプライズといって春崎君を隠してる、というものです。


 普通そんなこと考えるか? と思うでしょうが、青嶋先生のサプライズ好きはこのクラスの全員が知っています。


……案外あり得るかも、と私は苦笑しました。


「は〜い、みんなおはよ〜」


 噂をすれば、と青嶋先生がやって来ました。


「今日でみんな二年生ね。これからまた1年よろしくね!

で、今日の日程は……」


 その後5分は普通でした。

始業式は9時からで、今日はその後ホームルームをやって11時半には終わり、といった感じです。

朝のホームルーム特に質問もなく順調に進んで行きました。


「さて、では最後に2月から休んでいた春崎君について」


きた。


「春崎君は終業式の時言ったように今日復帰しました。

それも、ずいぶん身体が変わって」


 春崎君の変化のことはもう私達は知ってます。

彼は闘病の過程で、性別が変わってしまったのです。

ちなみに、彼女となってからの彼を見たのは、クラスで私が知るなかでは彼の友達の2人、坂下君と夏木君だけです。


 私も一度彼らと一緒に見ましたが、春崎君に見られる前に帰ってしまいました。

その後も4月になってから一回すれ違いました。


 いずれも私は彼女と話していません。

なんとなく、怖く感じたからです。


 でも、これでは駄目。ちゃんと話をしないと。

……なんとなく、私は春崎君と話さないといけない気がするのです。


「では、そろそろ登場してもらいましょう。

春崎さ〜ん、もういいわよ〜」


 先生が呼び掛けると扉から美少女が現れた。

肩に届くか届かないかくらいの黒髪で、目が少し大きい娘でした。


……この美少女を見て彼女が元男だと初見で見える人は果たしているだろうか?

そう私は思いました。


 他の人の反応を見てみると、やはりみんな驚いていました。

隣の子とひそひそ話をしてたり、ただ彼女を見てたりしています。


「さ、何か言って」


「…………えっと……」


「ほら、しっかり!」


先生の声が少し低くなります。


「えっ、えっと……皆さん、お久しぶりです。

は、春崎……優…………です」


 春崎君は緊張してるのか少しおどおどした口調で喋ります。


「その……こんな姿になっちゃったけど…………、また、これから1年宜しくお願いします!」


 最後まで言った頃には春崎君は顔を真っ赤にしていました。



     ★



 あぁ〜〜〜〜〜!!!!すっっっごく恥ずかしい〜〜〜!!!


 みんなこっちをジト見してるよぉ……。


 事前に挨拶しろって言われてたけれど、こんなに緊張するなんて思わなかった……。


「じゃ、春崎さんは元の自分の席に着いて」


「は、はひぃぃ!」


 教室に少し笑い声が聞こえる中、僕は自分の席に着いた。


「ユウ、お前緊張しすぎだろ」


 右隣で小声でツッコンだ敬一を僕はギロリと見る。

すると敬一は怖い怖いって言ってまた笑った。


「じゃ、ホームルームはここまで。

9時までは休憩はさみながら始業式に行く準備をしててねー」


 そう言って青嶋先生はドアを開いて教室から出ていった。


「ふぅ…」


「だいぶ疲れた溜め息だな」


 僕の左隣の席の冬路が話しかけてきた。


「だって恥ずかしかったんだもん」


「しかしお前制服似合うな」


 今度は敬一が茶化すように喋る。


「……もうそれ聞いたの何度目だろうな……」


 僕は二人の目線から離れて呟いた。


「ん?」


 ふと敬一が後ろの方を見る。


「どうしたの?」


「あ、あれ…」


 言い終わらない内に沢山のクラスメートが僕の方にやって来た。


「な、何?」


「あんたホントに春崎?」


 少し柄の悪い感じの男子生徒が話しかけてきた。


 名前は……日比谷(ひびや) (まさる)だっけ。よく先生と衝突してるところを見る。


「本当は別人だったりしてね」


 日比谷の取り巻きと思わしき女の子も僕に疑惑の目を向ける。


「べ、別人じゃないです!」


「本当か〜」


「本当です! 信じてくださいっ!」


「……あっそ」


 日比谷と取り巻き二人がそれを聞くとつまんなそうに教室から出ていった。


「なんだったんだろう?」


『ね〜春崎く〜ん、日比谷達の事なんてほっとこうよ〜』

『そんな事より始めようぜ?』

『だな、じゃあ始めましょう』

『第1回!

女になった春崎に質問責めにしちゃおうのコーナー!』


 この誰が言ったか分からない言葉と共に、みんな一斉に「おぉ〜!」という叫び声を上げて、教室に響かせた。


 僕は冬路と敬一を見るけど二人も何だか分からないらしくキョトンしている。


『ホントに可愛くなっちゃったわね』

『ねぇ、スリーサイズ教えてくんない?』

『どうやってこんな姿になったの?』

『女の生活には慣れた?』『もう生理きた?』

『限界だ! オレと付き合ってくれ!』


「えっ、ええあ、あえ?」


 マシンガンのように飛び交う質問に、僕はただ混乱するだけだった。

あまりの質問の多さで頭がパンクしそうなったところで、敬一が僕の前に来て守るような姿勢をした。


「お前ら少しいい加減にしろよ! ユウが困ってんじゃねーか!」


『えぇ〜、だって〜』


「同じクラスなんだからそんな事何時でも聞けるだろ。

ただし、スリーサイズとかそういうことは聞くな。倫理的問題だ」


 冬路も僕を庇うように言った。


『ええ〜つまんな〜い』

『何だよ、二人揃ってナイト気取りかよ?』

『この学級委員め、覚えてろっ!』

 クラスのみんなは二人に苦情を言いながら僕から離れていった。


「ご、ごめんね二人共」


 僕は二人に頭を下げた。


「別に、気にするな」


「そうだ、困ってるやつを助けるのは当たり前だろ?」


 二人は顔を赤くしてそう言った。


……何で赤くなってるんだろう?

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