最悪の日
この国は災害が多い。地震、台風、水害など1年中何処かの土地で何かしら被害が起こっている。
世界中何処かで何らかの災害は起きているが、特にこの国では頻繁に起こる。そして、この時は数十年に1回、あるかないかの災害が起こった。
その日は朝からどんよりとした雲が空を覆っていた。別段、何か起こりそうな日でもなく、ただ、午後からは雨が降りそうな天気だった。 子ども達は目前に迫った夏休みにうきうきしていて天気など気にもせず、学校では、夏休みに何をするのか、家族で何処へ行くのか、もっぱら話題はそればかりだ。 後ろの席で憂うつそうに窓の外を眺めている男子に気付く者もおらず、教室内はガヤガヤと楽しそうな話題で喧しいくらいだった。その騒がしささえ聞こえていないような子は外を見ているが見えてないくらい頭の中では他の子たちとは全然違う事を考えているように見えた。
担任か入って来て、余りの騒がしさに苦笑いしながら、「はーい!ホームルームを始めます」と、少し大きな声で言ったが、誰も気にもとめず話題に花が咲いて止まらなくなっていた。近くの女子達は、一緒に海に行く計画を立て、その後の花火大会について盛り上がっていた。
「今年は去年より、凄いらしいわよ!何十年目からしいみたい!記念の年だから、沢山、珍しい花火があるみたいよ。」 「もちろん、行くわよね?みんなで浴衣着ようよー!「今年は私も新しく浴衣を作るの!みんなの浴衣はどんな色?」
「はーい!静かに!!楽しみの前に、まだ学校はありますよー!では、ホームルームを…」 ガヤガヤ、ワイワイ。教師の後の言葉は雑音で聞こえなくなった。
「はいはい!静かに!!楽しみの前にやる事は沢山あるわよ!ちゃんと聞いて!2度は言わないわよ!」語尾は少し強い口調になった。ガヤガヤが収まりそれぞれか席に着こうとした時だった。
ゴォーと低い音がした。みんなが、えっ?と思った瞬間、教室が揺れ始めた。カタカタと小刻みに揺れたかと思った瞬間、みんなが机の下へ入ろうとした。が、いきなり大きな揺れがしだした。ガガガガ、ドドドッグワッグワッグワッ。机の脚を摑んだ生徒たちは揺れにあわせて机と一緒にあちこちに飛んで行っている。机の脚すら掴みそこねた生徒は教室中を右へ左へ斜めへと吹っ飛んでいる。 「頭にカバンを!!壁がわに!動かない物をつかんで!!」叫んでいる教師の声も激しい揺れでほとんど聞こえない。わぁー、キャー、と叫んでいる生徒たちの声で教師の声も届かず、揺れに任せるように生徒たちはあっちに飛んだかと思いきや、壁に激突して立つ事さえできず、留まることもできなかった。 数分か?いや、数十秒かもしれない。揺れは徐々に大きくなり、みんな身動きも出来ず揺れに合わせズルズル滑っていた。 みんなの顔がさっきとは逆に青ざめ引きつっている。
先ほどまで、他人に無関心だった男子生徒は、妙に落ち着いていて、壁際に移動し、机の脚を持ち下へ滑り込んでいた。窓際から離れ教室の後ろの壁際に身体を丸め、揺れが落ち着くのを待った。手は汗ばみ持っている机の脚が滑りそうなのを必死で掴んでいた。
しばらくすると、揺れは小さくなり、カタカタと軽い振動になった。全員ホッとした表情になったが、担任の叫ぶような声を聞いて、みんなの顔が引きつった。
「すぐに教室から出なさい!校庭まで!走って!」
聞いたみんなが、われにかえり、机の下から出て、教室を飛び出した。誰も話はせず、真っ青な顔、冷や汗をかいている者もいた。全校生徒が、無口で、廊下を走り、校庭へ出ていった。
何分くらい経ったのか、全員が校庭に集まり、いきをきらして、ハァハァと言う声が大きく聞こえる。
相次いで放送が流れた。校長か?
「全員、避難!高台へ避難して下さい!担任、副担任、それ以外の教師は生徒を引率。急いで高台へ向かいなさい!」
途端に教師全員が、各クラスの人数を確認すると、各々大声で叫んだ。「2-A!離れず着いて来なさい!」「1-B!みんないますか?急いで!着いて来なさい!」それぞれ別れて担任の指示に従い右手や左手へ分かれて走りだした。
この地は海岸から近く、浅瀬の海の近くに校舎があった。高台へ向かいながら、後ろを振り向く生徒が大勢いた。「来るぞ・・・」誰か男子生徒が叫んだ。
振り返ると、浅瀬の海があった所が砂だけになっていた。サァーと海水が引いていた。 マズイ・・
津波だ。来るぞ!
瞬間、全校生徒だけではなく、教師の顔にも焦りと緊張が走った。
例の男子生徒だけ、妙に冷静に考え事をしながら高台へ走っていた。
「チャンスかも知れない・・この時しかないかも知れない・・」頭の中はその事でいっぱいになりながらも、体はみんなと同じく高台を目指し走っていた。
「何処かではぐれなきゃ。今しかない。」少年も違う意味で焦っていた。ついに、高台が見えた瞬間、少年は木々の間を横切りみんなと自然にはぐれた。みんな、必死で高台へ向かって走っていて、周りを見る余裕なんてなかった。少年は木々の間を抜け、西へ向かって走って行った。かなり拓けた所まで行くと、眼下には街が見えた。住宅街があり、その先は砂地が見えた。少年は住宅街へ向かいながら、少しずつ降っていった。赤い屋根がみえる家を目指して。




