2話
自我を出さないという自我を出します。
「皆様、少し落ち着いて下され」
錯乱状態にある俺たちにそう言ったのは、全身を紫のローブで包み込んだ還暦を過ぎたくらいのイケおじだった。頭には所々に金の装飾を施したこれまた紫の大きい帽子を被っている。
そんな姿をみて俺は全身紫はさすがにかっこよくないな。せっかくダンディな雰囲気なのにもったいないよね。なんてことを思ったが口に出すことはなかった。これは、俺が思ったことをすぐ口に出すほど子供じゃなければ、傷つくだろうなと思ったからではない。まあ子供ではないけど。たんに転移酔いとでもいうのか軽いめまいと吐き気がまだ収まらなかったからだ。
そんなこんなで少し時間をおけば皆も大分落ち着いてきた。神谷はさすがなものでもう落ち着いて周りの観察を始めている。
俺も周りを見てみるとこれがまたイメージどうりというかベタというか。部屋の作りは石作で窓はなく明かりはろうそくだけだった。結構広さはあって、紫のおじさん含めて八人が俺たちを囲うようにして立っている。おじさん以外は顔が隠れているので表情はうかがえない。ドアは一つでおじさんの後ろにある。あと寒い。
「ここでは冷えますからね場所を変えましょう。ついてきてください。」
そう言っておじさんは後ろのドアを開けるなりこちらを振り返ることなく歩き始めた。
ちょっと言葉が足りないんじゃないかな。落ち着いてきたとはいえ、みんながみんなこの状況を飲み込めたわけではない。急に床が光って気が付いたら知らない部屋、そこにいた人物に対して普通どんな印象を抱くだろう。知らないところだけどなにか知ってそうな人がいて安心と思うだろうか。なんだこいつ怪しすぎ。と思うだろうか。ほぼ全員が後者だろう。そんなときにいきなりついてこいと言われても、さらに怪しむだけである。かといって他に選択肢があるわけでもなく。
「とりあえず、言うことを聞こう。ここにいても何も変わらないよ。」
先陣をきって歩き出したのは神谷だった。
さすがとしか言いようがないな。神谷の一言で硬直していた皆も次々と歩き始めた。表情は暗かったがもう落ち着いたのかそれぞれ何かを話し合っていた。一ノ瀬さんは笑っているように見えたけどきのせいだろう。オタクたちでさえ緊張しているのだこの状況で笑える人などいない。
かなり長い階段を上ってあっちいってこっちいってを繰り返していると無駄に大きな扉の前にやってきた。それまで一切話さなかったおじさんがやっと話したときだった。一生懸命勇気を出して話しかけていたのに無視されていた神谷はすこしかわいそうだった。
「これより先は王の間となります。決して無礼のないようにお願いします。私は先に入っていますので、入れと言われるまで入らないように。」
それだけ言ってさっさと扉の中へと消えていってしまった。
中々合図がないので今のうちに道中の窓から見えたけしきの話をしておこう。案の定ここは城だったようだ。それも中世のお話でよく見るような大きいやつである。少し視線をおくにずらすと町も見えた。これまた中世を思わせるような作りで、人口がそれなりに多いことも見て取れた。城が高い位置にあるのかこの場所が高いのかはわからないが。町を一望できる景色は壮観だった。地形はなだらかで丸く囲うように大きな城壁がたてられていた。そのかなり奥には森林も見える。
「入れ」
おじさんとは違う声が響いた。どことなく威厳を感じさせるその声は扉を隔てているにもかかわらずはっきりと聞こえた。大声で叫んだのだろうか。ジョークです。
入ってみるとそこには大きな扉も少し小さく見えるような巨大な部屋があった。王様は巨人なのかもしれない。
思いのほか短くなってしまった。長い目で見てください。




