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前世知識は最強!異世界改革!  作者: Nami


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第9話 滑る馬車と、眠らない街の夜明け



 翌朝。

 完成したばかりの「舗装道路」の前に、一台の馬車が用意された。

 荷台には、実験用に満載の水樽。

 御者は、長年エルガレア家で馬車を引いているベテランのハンスだ。

「若様、本当によろしいので? こんなツルツルした石の道、馬が滑っちまうんじゃ……」

「大丈夫だよハンス。表面にはちゃんと滑り止めの加工(溝)を入れてあるから。思いっきり走らせてみて」

 俺の合図で、ハンスが手綱を振るう。

 いなないた馬が蹄を鳴らし、メインストリートを駆け出した。

 ――その瞬間。

 ハンスの目が点になった。

「なっ……なんだこりゃあ!?」

 いつもなら「ガタガタガタッ!」と激しい振動と騒音が響くはずが、今日の馬車は「スーッ」と氷の上を滑るように進んでいく。

 車輪が石畳の隙間に取られることもない。

 水樽の水面も、わずかに揺れる程度だ。

「軽い! 荷物が空っぽみたいに軽いぞ! これなら馬も疲れない!」

「若様、成功ですな。これほどの静音性と安定性……まるで王族の高級馬車のようです」

 隣で見ていたセバスも感嘆の声を漏らす。

 見ていた市民や商人たちも、あっという間に通りの向こうへ走り去った馬車を見てどよめいた。

「おい見たか? あの速さ!」

「音が全然しなかったぞ!」

「これなら卵を運んでも割れないんじゃないか!?」

 商人ギルドの顔役たちが、興奮した様子で俺に駆け寄ってくる。

「若様! この道路、いつ街全体に広げるおつもりで!? 我々も出資しますぞ!」

「商品の輸送時間が半分になるなら、安いもんだ!」

 道路の平坦化は、即座に「利益」に直結する。彼らはそれを本能で悟ったのだ。

 俺は笑顔で頷いた。

 物流革命、第一段階クリアだ。

 ***

 そして翌日。

 道路脇には、等間隔に真新しい石柱が立てられた。

 先端には、ガラスのケースに収められた「クズ魔石」が埋め込まれている。

 俺とセバスが徹夜で魔法陣を刻んだ、特製の街灯だ。

 夕暮れ時。

 空が茜色から群青色へと変わり、いつもの「闇」が街を覆おうとした、その時だ。

 パッ、パッ、パッ、パッ……。

 メインストリートの端から順に、柔らかな白い光が灯った。

 まるで光のドミノ倒しだ。

 500メートルにわたる一直線の道が、夜の闇の中に鮮やかに浮かび上がった。

「う、うわああああ!」

「明るい! 夜なのに昼間みたいだ!」

「魔法だ、魔法の光だ!」

 家路を急いでいた人々が足を止め、光る石柱を見上げている。

 明るさは現代のLEDほど強烈ではないが、月明かりだけの世界に慣れた彼らにとっては、劇的な変化だ。

 顔が見える。足元が見える。

 それだけで、夜の恐怖は消え失せる。

 俺はセバスと共に、光の道を歩いてみた。

 窓から顔を出す住民たち。

 恐る恐る家から出てきて、子供とはしゃぐ母親。

 若いカップルが、明かりの下で手をつないで歩いている。

「……素敵ね。夜にこうして外を歩けるなんて」

「ああ。これなら仕事帰りでも、泥棒を気にせずに帰れるな」

 聞こえてくるのは、安堵と喜びの声ばかりだ。

 だが、俺はそこで「あること」に気づいた。

「……もったいないな」

「もったいない、でございますか?」

 セバスが怪訝そうに尋ねる。

 俺は、光の下に集まっている人々を指差した。

「ほら、みんな興奮して外に出てきている。おしゃべりをしたり、散歩をしたりしている。でも――『お金を使う場所』がない」

 店はもう閉まっている。

 彼らはただ、明るい通りをウロウロしているだけだ。

 これは機会損失だ。

 人がいて、時間があって、光があるなら、そこには「市場」が生まれる。

「セバス。父上のところへ戻ろう。新しい企画を思いついた」

「またでございますか? 今度は一体……」

「お祭りだよ。『夜市ナイトマーケット』を開くんだ」

 ***

 屋敷に戻った俺は、父ロイドに詰め寄った。

「夜市、だと?」

「はい。今、メインストリートには人が溢れています。彼らの胃袋と財布を狙うんです」

 俺は熱弁を振るった。

 屋台を出し、軽食や酒を提供する。

 吟遊詩人を呼んで音楽を奏でる。

 治安維持のために衛兵を巡回させれば、女性や子供も安心して楽しめる。

「昼間働いている労働者も、夜なら家族サービスで金を落とします。街灯の設置費用なんて、屋台の出店料と税収ですぐに回収できますよ」

 ロイドは顎に手を当て、真剣な表情でシミュレーションをしている。

 やがて、ニヤリと笑った。

「……面白い。夜の街を『商いの場』に変えるか。商務次官としても、その実証実験には興味がある」

「でしょう?」

「よし。今週末、エルガレア子爵家主催で『第一回・光の夜市』を開催しよう。告知は任せていいな?」

「もちろんです! 最高に賑やかな夜にしてみせます!」

 こうして、辺境の街エルガレアに、新たな文化が生まれようとしていた。

 眠らない街。輝く夜。

 それは、この領地が「都会」へと進化する合図でもあった。

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