表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世知識は最強!異世界改革!  作者: Nami


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/10

第5話 荒地開拓と、空飛ぶ石灰


 翌朝、午前6時。

 東の空が白み始めた頃、レストバレイクの北外れにある荒地には、既に30人の男たちが集まっていた。

 彼らの視線は、期待と不安が半々といったところだ。

 手には使い古したくわすきが握られている。

「おはよう、諸君! 集まりがいいな!」

 俺が声を張り上げると、農民たちは少し戸惑いながらも野太い声で返事をした。

 村長のガンツも腕組みをして立っている。

「……で、坊ちゃん。やる気はあっても道具が足りねえぞ。それに肥料はどうするんだ? 家畜の糞なんて、この村にはもう余ってねえぞ」

 ガンツの指摘はもっともだ。

 だが、俺はニヤリと笑って空を指差した。

「心配無用だ。――ほら、来たぞ」

 ヒュオオオオオッ!

 風を切る音と共に、上空に巨大な影が現れた。

 朝陽を背にして降下してきたのは、2頭のワイバーンだ。

 その脚には、大きな木箱が吊り下げられている。

「なっ、ワ、ワイバーン!?」

「なんでこんな所に空の便が!?」

 農民たちが腰を抜かしそうになる中、ワイバーンは土煙を上げて荒地の平坦な部分に着陸した。

 同時に、街道の方からは、重そうな荷車を引いた3台の馬車も到着する。

「筆頭執事たるもの、手配は迅速に行いませんと」

 馬車から降りてきたセバスが、涼しい顔でワイバーンの荷解きを指揮し始めた。

 俺は唖然とするガンツの肩を叩く。

「馬車には、隣町から買い集めた『腐葉土』と新品の農具。そしてワイバーンが運んできたのは、領都エルガレアの鉱山から取り寄せた特級品の『石灰』だ」

「せ、石灰……? ただの白い石の粉じゃねえか。そんなもんを運ぶために、わざわざワイバーンを使ったのか!?」

 ガンツが叫ぶのも無理はない。

 ワイバーン便は高額だ。石ころを運ぶコストじゃない。

 だが、俺には計算があった。

「時は金なり(タイム・イズ・マネー)だ、村長。馬車なら石灰を運ぶのに片道4時間はかかる。往復で1日仕事だ。だがワイバーンなら数十分で届く。今日から作業を始めるには、これしかなかった」

 それに、これはデモンストレーションでもある。

 工業都市エルガレア(石灰)と、農業都市レストバレイク(土壌)。

 この2つが繋がれば、最強のシナジーが生まれるという証明だ。

「よし、作業開始だ! まずはこの白い粉――石灰を、荒地全体に均等に撒くんだ!」

 俺の号令で、男たちが動き出す。

 木箱からシャベルで石灰をすくい、乾いた大地に撒いていく。

 舞い上がる白い粉。

 この土地は長年の雨で酸性に傾いている。アルカリ性の石灰を混ぜることで中和し、作物が育つ土壌(pHバランス)へと整えるのだ。

「うおおお! 銀貨3枚分、働いてやるぜ!」

「撒け撒けぇ!」

 最初は半信半疑だった農民たちも、目の前に積まれた物資と、高額な日当という「現実」を前にして、目の色を変えて働き始めた。

 俺も上着を脱ぎ捨て、袖をまくった。

 子供用の小さなシャベルを手に取る。

「若様!? 若様は木陰で見学を……」

「馬鹿言うなセバス。社長が現場を知らなくてどうする」

 俺は大人たちに混じって土に足を突っ込んだ。

 硬い。石ころだらけだ。

 だが、この感触が悪くない。

 前世ではキーボードを叩く指先の感触だけが現実だった。

 今は、土の重みと、額を流れる汗が生きている実感を与えてくれる。

 午前中で石灰に撒き終わり、午後は馬車で届いた腐葉土を混ぜ込みながらの耕うん作業だ。

 30人の男たちが一斉に鍬を振るう光景は壮観だった。

 死んでいた白い土地が、徐々に黒々とした豊かな色へと変わっていく。

「……へえ。坊ちゃん、意外とやるじゃねえか」

 休憩中、水筒の水を飲んでいると、ガンツが近づいてきた。

 その視線は、昨日までの侮蔑的なものではなく、一人の男を見る目に変わっていた。

「口だけじゃねえんだな。貴族様が泥だらけになって働くなんて、初めて見たぜ」

「俺はこの土地に賭けてるからね。それに、みんなと一緒に汗を流した方が、飯も美味いだろう?」

 俺が笑って答えると、ガンツはフンと鼻を鳴らし、しかし口元には微かな笑みを浮かべた。

「……違いねえ」

 夕方、作業が終わる頃には、荒地は見違えるように整備されていた。

 石は取り除かれ、石灰と腐葉土が馴染んだふかふかの土。

 これなら、カブの種も根を張れるだろう。

 セバスが用意した机の前で、俺は約束通り一人一人に銀貨3枚を手渡した。

「お疲れ様! いい仕事だった!」

「ありがとうございます!」

「明日も頼むぜ、若旦那!」

 農民たちの顔には、疲労よりも充実感が漂っていた。

 受け取った銀貨の重みと、自分たちの手で土地を変えたという達成感。

 これこそが、労働の本来あるべき対価だ。

「さて、明日はうね作りと種まきだ。……世界を変える第一歩、まずは上々だな」

 泥だらけの手を見つめながら、俺は確かな手応えを感じていた。

 この小さな畑から、王国の農業革命が始まるのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ