第14話 二つの城と、硝子のショーウィンドウ
父ロイドの猛抗議により、俺が建てた「国会議事堂風」の商会本部は、急ピッチで改修された。
威圧的な尖塔を削り、外壁を落ち着いた色に変えることで、なんとか「巨大な商館」というレベルに落ち着いた。
完成した本部の前で、俺は父とセバスに今後の「二極化戦略」を説明した。
「いいですか。エルガレア商会は二つの顔を持ちます」
俺はまず、メインストリートの方角を指差した。
「一つは、大衆向けの『鉄板亭』。これは計画通り、メインストリートの元倉庫を改装して営業します。ターゲットは労働者や庶民。安くて美味い、回転率重視の店です」
そして、目の前にそびえる巨大な本部ビルを見上げる。
「そしてもう一つが、この『商会本部』です。ここはオフィス機能だけでなく、1階と2階を店舗として開放します。ターゲットは貴族、富裕層、そして外国人観光客。名付けて――『エルガレア百貨店』です」
「百貨店……?」
聞き慣れない言葉に、ロイドが首を傾げる。
「読んで字のごとく、百の貨物を扱う店です。ここには、領内の特産品の中でも最高級のものを集めます。そして2階には、優雅にお茶を楽しめる『カフェ・ラウンジ』を作ります」
鉄板亭で胃袋を掴み、百貨店で財布の紐を緩める。完璧な布陣だ。
***
まずは「鉄板亭」の視察だ。
メインストリートにある元倉庫は、土魔法による改装工事を終えていた。
無骨な石造りの外観はそのままに、内装は清潔に整えられ、中央にはあの巨大な鉄板が鎮座している。
入り口の扉は大きく開け放たれ、換気も抜群だ。
「うん、いい出来だ。これなら労働者たちが泥ついた靴で入ってきても気にならない」
「排気用の煙突も設置しました。ソースの匂いが通りに流れる仕組みです」
セバスの報告に俺は頷く。ここは「質実剛健」がテーマだ。
***
そして再び、商会本部へ。
こちらのテーマは「革新と高級感」だ。
俺は建物の正面、通りに面した壁の前に立った。
石造りの建物は堅牢だが、中が見えないのが欠点だ。高級店に入る心理的ハードルを下げるには、中の華やかさを見せる必要がある。
「セバス、用意させた『砂』はあるね?」
「はい。洗浄済みの川砂を」
俺は積み上げられた砂に手を触れ、魔力を流し込む。
「……変成せよ。『クリエイト・グラス(ガラス生成)』」
熱と共に砂が溶け、透明な一枚板へと変わっていく。
俺が作り出したのは、縦2メートル、横3メートルの巨大な「一枚板ガラス」だ。
この世界では小さな瓶くらいしか存在しないガラスを、建材として使用する。
俺は魔法で本部の外壁を大きくくり抜き、そこに巨大ガラスをはめ込んだ。
3枚、4枚……。
1階の正面部分が、すべて透明な壁に変わる。
「なっ……なんだそれは!? 壁が消えた!?」
「いいえ父上、透明な壁です」
ロイドとセバスが、おそるおそるガラスに触れる。
「中が丸見えだ……。飾ってある商品も、歩いている店員も……」
「これが『ショーウィンドウ』です。雨風を防ぎながら、道行く人に中の煌びやかな世界を見せつける。夜になれば、建物全体が光の箱のように輝きますよ」
ロイドはガラスに映る自分の顔を見つめ、戦慄したように呟いた。
「……恐ろしい子だ。これ一枚で城が建つほどの価値があるぞ。それを惜しげもなく店の壁にするとは……」
***
こうして、箱は整った。
* 『鉄板亭』(元倉庫):
* 商品: エルガレア焼きそば(並・大盛)、エール。
* 制服: 動きやすい揃いのエプロンと三角巾。
* 客層: 庶民、労働者、冒険者。
* 『商会本部・百貨店』(新築ビル):
* 商品: 高級茶葉、陶器、そして「カブのポタージュ」やサンドイッチなどの軽食。
* 設備: 巨大ショーウィンドウ、水魔法石の手洗い場。
* 制服: 執事服とメイド服(セバス監修)。
* 客層: 貴族、豪商。
「よし! 準備万端だ!」
泥臭い熱狂と、洗練された憧れ。
二つのエンジンを搭載し、エルガレア商会がいよいよ本格始動する。




