第13話 爆誕、国会議事堂(?)と緊急家族会議
エルガレア商会の設立が決まり、まずは「本社屋」が必要となった。
場所は領都の中央広場に面した、一等地の更地。
かつて商家が火事で焼け落ちて以来、放置されていた広大な土地だ。
「ここなら立地は最高だ。人通りも多いし、物流の拠点にもなる」
俺は更地の真ん中に立ち、腕組みをして頷いた。
後ろには、心配そうな顔をしたセバスが控えている。
「若様。この広さですと、大工を総動員しても完成には三ヶ月はかかりますぞ。まずは仮店舗で営業を始めては?」
「三ヶ月? そんな悠長なことは言ってられないよ。商機は生ものだ」
俺はニヤリと笑った。
前世では、立派な自社ビルを持つことは企業の「信用」そのものだった。
これからこの商会は世界を相手にするんだ。
中途半端な木造建築じゃ舐められる。
目指すは――圧倒的な権威と堅牢さを誇る、石造りの要塞だ。
「セバス、下がっていて。……僕が『建てる』から」
俺は両手を地面につけた。
イメージするのは、前世の日本で見た「権力の象徴」。
中央にそびえるピラミッド型の屋根。左右に広がる重厚な回廊。白い花崗岩の輝き。
そう、永田町にあった**「国会議事堂」**だ。
あれくらいのハッタリがなきゃ、大商会とは言えないだろう。
(構造計算、完了。鉄筋コンクリート並みの強度を、魔法で再現する。……出力最大!)
「いでよ、商売の殿堂! 『クリエイト・フォートレス(城塞創造)』!!」
ズズズズズズズ……ッ!!
地鳴りと共に、更地全体が隆起した。
セバスが悲鳴を上げて後ずさる中、地面から白い石の柱が次々と生え、壁が形成され、巨大な建造物が組み上がっていく。
1階、2階、3階……いや、中央塔は5階建て相当の高さまで伸びる。
木造の建物が並ぶエルガレアの街並みにおいて、それはあまりにも異質で、あまりにも巨大だった。
ドォォォォン!!
数分後。
そこには、白亜の巨大建造物が鎮座していた。
左右対称の威風堂々たる姿。
入り口には巨大な石柱が並び、威圧感満点だ。
「……うん。ちょっとサイズ感を間違えたかな? でもまあ、立派でいいだろう」
俺が埃を払って立ち上がると、背後でセバスが腰を抜かして震えていた。
「わ、若様……これは……もはや王城では……」
***
「バカモンッ!!!」
その日の夕方。
完成したばかりの「商会本部(国会議事堂風)」の広間で、父ロイドの雷が落ちた。
俺は正座させられている。
「お前はアホか! いや、アホだ! なんだこの建物は! 街のどこからでも見えるじゃないか!」
「えっと……ランドマークになるかなと思って……」
「目立ちすぎだ! 領主の館よりデカい商会があるか! 王都の王宮だってこんなに威圧感はないぞ! 謀反でも企んでいると思われるだろうが!」
ロイドは顔を真っ赤にして叫んだ。
確かに言われてみれば、一介の子爵家が持つ建物としてはやりすぎたかもしれない。
完全に「国家機関」の見た目だ。
「す、すぐに外壁を削って、もう少し地味な色に塗り替えろ! あと、その無駄に高い中央の塔も低くしろ! ……まったく、お前の常識のなさは心臓に悪い……」
ロイドはぜえぜえと息を切らし、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
***
その夜。
俺が部屋で反省(という名の次の事業計画作成)をしている頃。
父の執務室では、ロイドとセバスによる「緊急秘密会議」が開かれていた。
部屋には重苦しい空気が漂っている。
「……セバス。見たか? あれを」
「はい、旦那様。……見間違いようがありません」
ロイドはウィスキーのグラスを強く握りしめた。
怒りではない。恐怖に近い感情が、その瞳には宿っていた。
「石造りの建物を、基礎から屋根まで一瞬で創造する……。そんな魔法、宮廷魔法師団が束になっても不可能だ。伝説の『賢者』クラスの御業だぞ」
「おっしゃる通りです。私が現役の頃でも、小さな砦を作るのに一週間とかかりました。それを若様は、呼吸をするように単独で成し遂げられた」
セバスは静かに告げた。
「若様の魔力量は、測定不能です。おそらく、この国で……いえ、大陸でも五指に入るでしょう」
ロイドは深いため息をついた。
息子が優秀なのは嬉しい。
商才があり、知識がある。それだけでも十分すぎるほどだ。
だが、「武力(魔力)」まで規格外となれば話は変わってくる。
「……もし、この力が王家や軍部の耳に入れば、リックは『商売』どころではなくなる。兵器として徴用されるか、あるいは危険因子として……」
「消される、可能性もございます」
セバスの言葉に、ロイドの顔が歪む。
平和な商売と領地改革。それを望んでいるはずなのに、リックの持つ力が大きすぎて、政治の渦に巻き込まれかねない。
「隠し通せるか?」
「あの建物を見られてしまっては、もう手遅れかと。噂はすぐに広まります」
「……ならば、逆に利用するか」
ロイドは覚悟を決めたように顔を上げた。
「リックを『神童』としてではなく、『商会の顔』として前面に出す。経済の中心に据えてしまえば、軍部も手出ししにくくなる。カーラ侯爵(義父上)にも根回しをして、強力な後ろ盾になってもらうしかない」
「承知いたしました。私も、死力を尽くして若様をお守りします」
最強の魔法使いである息子と、彼を守ろうとする父と執事。
エルガレア商会の船出は、希望と同時に、巨大な火種を抱えてのスタートとなった。
当の本人は、「次はエレベーターを作りたいな」などと呑気に考えているとも知らずに。




