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前世知識は最強!異世界改革!  作者: Nami


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12/16

第12話 驚愕の決算と、エルガレア商会の設立



 夜市から一夜明けた、領主館の執務室。

 父ロイドは、デスクの上に積み上げられた金貨と銀貨の山を、呆然と見つめていた。

 その横には、俺とセバスが集計した「第一回・光の夜市」の収支報告書(PL:損益計算書)がある。

「……リック。計算間違いではないのか?」

「三回検算しました。間違いありません」

 ロイドは震える手で報告書を手に取った。

「たった一晩……。わずか数時間の開催で、過去の『収穫祭』3日分の税収を超えているだと……?」

「はい。これが『夜の経済ナイトエコノミー』の威力です」

 俺は淡々と解説を加えた。

 要因は大きく二つ。

 一つは、圧倒的な集客数による出店者からの売上税。

 そしてもう一つは、我が家が直営した「焼きそば屋台」の異常な利益率だ。

「特に焼きそばの利益が凄まじいです。小麦粉、キャベツ、豚の端肉。原価は安いのに、付加価値(味と匂い)をつけることで飛ぶように売れました。利益率は約70%です」

「ななじゅ……っ!?」

 ロイドが絶句する。

 通常の食品販売では考えられない数字だ。

 だが、これは単なる金儲けではない。

「父上。重要なのは、このお金が『回った』ことです。儲かった商人は次の仕入れを行い、美味しいものを食べた労働者は明日も働こうと思う。この好循環こそが、領地を豊かにします」

 俺は一歩前に出た。

 ここからが本題だ。

「ですが、夜市はあくまでイベントです。毎日お祭り騒ぎをするわけにはいきません。しかし、夜の需要があることは証明されました」

「……うむ。この火を消すのは惜しいな」

「そこで、提案があります」

 俺は新しい企画書をテーブルに広げた。

「領主としての『公務』とは別に、我々で『商会』を作りましょう。名付けて――『エルガレア商会』です」

 ***

 俺の構想はこうだ。

 エルガレア子爵家の私財を投じて商会を設立し、夜市で好評だった「飲食事業」を恒久的な店舗として運営する。

 具体的には、メインストリートに「大衆食堂」「居酒屋」、そして旅人向けの「高級カフェ」をオープンさせる。

「領主が直接商売をすることに抵抗があるなら、商会というクッションを挟めばいいんです。それに、商会なら利益を柔軟に再投資できます」

 ロイドは腕組みをして考え込み、やがて力強く頷いた。

「分かった。お前の言う通りだ。既存の商人たちに任せていては、このスピード感で改革はできん。我々が先頭に立って『夜の商売』のモデルケースを作るべきだな」

「ありがとうございます! では、人事は以下の通りで」

 俺はさらさらと組織図を書き込んだ。

* 商会長:ロイド・フォン・エルガレア(最高責任者・対外的な信用担当)

* 副商会長:リック・フォン・エルガレア(実質的な経営・戦略担当)

* 事務総長:セバス(実務・現場指揮担当)

「私が商会長か。……ふっ、商務次官が商会のトップとは、忙しくなりそうだな」

「名前だけで大丈夫ですよ。実務は僕とセバスで回しますから」

「……お前、本当に10歳か?」

 こうして、後に大陸全土に名を轟かせることになる巨大コングロマリット、『エルガレア商会』が産声を上げた。

 ***

 その日の午後。

 俺とセバスは、別室にこもって具体的な「経営計画ビジネスプラン」の策定に入った。

 机の上には、領都の地図と、近隣の農村の生産データが広げられている。

「さて、セバス事務総長。まずは店舗展開だ。夜市の焼きそば屋台をベースに、常設店『鉄板亭』を一号店として出す」

「場所はメインストリートの一等地、元倉庫の物件を押さえてあります。改装工事は土魔法を使えば3日で終わるでしょう」

 さすが元宮廷魔法師、仕事が早い。

 だが、俺の視点は「店」だけではない。

「問題は食材の供給ライン(サプライチェーン)だ。店が増えれば、キャベツや小麦が大量に必要になる。……レストバレイクのカブとマメは順調か?」

「はい。先日、魔法で発芽を促進させましたので、あと2週間ほどで初期ロットが収穫可能です。あの痩せた土地から、丸々と太ったカブが取れそうですぞ」

「よし。それを全量買い取る。農民たちに現金を渡して、次の生産意欲を刺激するんだ」

 俺は地図上の「レストバレイク(生産地)」と「エルガレア(消費地)」を赤い線で結んだ。

「レストバレイクで作った作物を、整備した道路を使って高速輸送し、エルガレアの商会店舗で調理して売る。……この『生産・物流・販売』の一貫体制こそが、エルガレア商会の強みになる」

 セバスが感嘆のため息をつきながら、羽ペンを走らせる。

「……恐れ入りました。単に店を出すだけでなく、領地全体の産業をリンクさせるとは。これでは、他の商人は太刀打ちできませんな」

「独占するつもりはないよ。俺たちが流行れば、真似する店も出てくる。それでいいんだ。市場全体が大きくなればね」

 俺はニヤリと笑った。

 前世では競合他社を叩き潰すことに必死だったが、今は「領主」の視点がある。

 民が真似をして、民が豊かになるなら、それが一番の利益だ。

「さて、次は『人材採用』だ。店を回すスタッフが必要だ。給料は相場の2割増し。賄い付き。これで募集をかけよう」

「承知いたしました。……リック様、この商会は、どこまで大きくなるおつもりで?」

 セバスの問いに、俺は窓の外、遠く東に見える国境の空を見据えて答えた。

「まずは領内。次は王都。そしていずれは――帝国にも支店を出してやるさ」

 机上の空論ではない。

 確かな勝算と数字に裏打ちされた野望。

 元IT社長と最強執事のタッグによる、快進撃が始まろうとしていた。


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