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前世知識は最強!異世界改革!  作者: Nami


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第11話 熱狂の夜市、そしてエルガレアは輝く



 その夜、エルガレアのメインストリートは「光の河」と化していた。

 等間隔に並んだ魔石灯が、白い輝きを放っている。

 アスファルトのように滑らかに舗装された道には、所狭しと屋台が並び、普段なら寝静まっているはずの時間帯にもかかわらず、昼間以上の人波が押し寄せていた。

 そして、その喧騒の中心に――「魔性の香り」を放つ発生源があった。

「いらっしゃい! エルガレア子爵家特製、新作麺料理だ!」

「熱いうちに食ってくれ! 並んで並んで!」

 俺の声に合わせて、屈強な料理人たちが巨大な鉄板の上でヘラを躍らせる。

 ジュゴオオオオオオッ!!

 ソースが焦げる香ばしい煙が、夜風に乗って通り全体へと拡散していく。

 それはもはや、空腹という名の獣を呼び寄せる狼煙のろしだった。

「なんだこの匂いは!?」

「腹が……勝手に腹が鳴る!」

「くれ! 俺にもその茶色い麺をくれ!」

 領民たちが、小銭を握りしめて殺到する。

 木の皿に盛られた「エルガレア焼きそば」。

 具材は豚肉とキャベツだけ。だが、そのシンプルさと濃厚なソースの味が、労働者たちの疲れた体に突き刺さるのだ。

「う、うめええええ!」

「甘い? 辛い? いや、美味い!」

「エールだ! 隣の屋台でエールを持ってこい!」

 焼きそばがエールを呼び、エールが焼き鳥を呼ぶ。

 相乗効果で、周りの屋台も飛ぶように売れていく。

 俺は鉄板の熱気に焼かれながら、その光景を見てニヤリと笑った。

 経済が回っている音がする。

 ***

「……これは、凄いな」

 人混みを縫うようにして現れたのは、変装用の帽子を目深に被った父ロイドと、母ミリナだった。

 二人の護衛として、セバスが影のように寄り添っている。

「父上、母上! 来てくれたんですね!」

「ああ。屋敷にいても、この熱気と香りが届いてきてな。居ても立ってもいられなくなった」

 ロイドは呆然と通りを見渡した。

 そこには、彼が知る静かな辺境の夜はなかった。

 子供たちが光の下を走り回り、大人たちが酒を酌み交わして笑っている。

 誰もが明日への活力をチャージしている、生きた街の姿。

「明るい夜が、これほどまでに人を元気にさせるとは……。リック、お前の言った通りだ。これは単なるお祭りじゃない。巨大な市場だ」

「あらあなた、難しい話はそのくらいになさって。リック、わたくしにもその『焼きそば』をいただけるかしら?」

 ミリナが興味津々で鉄板を覗き込む。

 俺は慌てて、一番出来の良い部分を取り分けた。

「どうぞ、母上。服にソースが跳ねないように気をつけて」

「いただきますわ。……んっ!」

 一口食べたミリナが、上品に、しかし目を見開いて感嘆の声を漏らした。

「なんて濃厚なお味……! それに、このモチモチとした食感。宮廷料理にもない新しい体験ですわ。……あなた、これ美味しいですわよ!」

「ほう、ミリナがそこまで言うなら……むぐっ。……!!」

 一口食べたロイドもまた、フォークを止めた。

 次の瞬間には、商務次官の顔ではなく、ただの食いしん坊な父親の顔になってガツガツと食べ進めていた。

「美味い! これは美味いぞリック! 王都でも流行る!」

 家族三人(と後ろで微笑むセバス)が、屋台の明かりの下で笑い合う。

 かつて過労死した前世では得られなかった、温かい家族の団欒。

 俺は胸がいっぱいになりながら、再びヘラを握った。

 ***

 その夜、驚いていたのは領民だけではない。

 宿場町でもあるエルガレアには、国境を行き来する行商人や旅人たちも滞在していた。

 彼らは宿の窓から、あるいは通りに出て、信じられないものを見る目でこの光景を見つめていた。

「おい……ここは本当に辺境のエルガレアか?」

「王都リンデンバルドだって、夜になればもっと暗いぞ」

「なんだあの滑らかな道は! それに、この活気はどうだ!」

 帝国から来た大柄な商人が、興奮気味に焼きそばを頬張りながら仲間に叫んでいる。

「この街は化けるぞ! 今のうちに商売のコネを作っておけ!」

「ああ、明日の朝一番で子爵家に挨拶に行くぞ!」

「この『ソース』とかいう調味料、仕入れられないか!?」

 旅人たちの驚愕は、やがて噂となって国中に広まるだろう。

 東の果てに、夜でも輝く「眠らない街」があると。

 そこには美味い飯があり、安全な道があり、チャンスが転がっていると。

 ***

 夜が更けても、熱気は冷めやらない。

 俺は屋台の裏にある木箱の上に座り、セバスから渡された果実水を飲んで一息ついた。

 目の前には、笑顔、笑顔、笑顔。

 農民も、商人も、貴族も、旅人も。

 身分も出身も関係なく、同じ光の下で、同じ美味しいものを食べて笑っている。

「……街が、一つになったな」

 ポツリと漏らした言葉を、セバスが拾った。

「はい。皆様、エルガレアの住人であることに誇りを感じているお顔です。……リック様が、火を灯されたのです」

「俺はきっかけを作っただけだよ。燃え上がらせたのは、みんなのエネルギーさ」

 俺は夜空を見上げた。

 星空よりも眩しい地上の星々。

 だが、これはまだ始まりに過ぎない。

 農業、インフラ、商業。

 次は何をしようか。教育か、医療か、それとも――。

「さあ、明日からも忙しくなるぞ、セバス」

「ふふ。望むところでございます、若様」

 エルガレアの夜明けは近い。

 だがその前に、今夜はこの最高の夜を、もう少しだけ楽しむことにしよう。


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