智嬉の助け
転送先…まるで、別世界の氷の世界
「……っさむ!!」
純が真っ先に声を上げる
俺は息を吐き、白い霧が視界に広がるのを見た
「ここが……氷結区画……」
視界一面が青白く染まり、地形はすべて氷
建物も、地面も、木々さえも――
智嬉の能力によって凍りついている
これは異常だ、と滝は睨む
「この冷たさ……やっぱり智嬉の力だ。でも……」
氷の表面には、蜘蛛の巣のような細かい模様が脈打つように光っていた
ただの氷ではない
まるで“感情”そのものが凍りついて広がっているようだった
俺は歩きながら、足元の氷をそっと蹴る
「こんな規模の氷結……智嬉一人じゃ無理だろ。どんだけ暴走したんだよ」
純が腕をさすりながら話す
「いや、あいつの能力の本気、俺は見たことねぇけどさ……こんだけ世界ごと凍らせるなんざ、普通じゃねぇ」
「確かにな、普通はこうはならない 誰かが、智嬉の能力を最大限に働かせたのかも」
と滝は純に答える
純は目を見開いた
「誰かって……敵がってことか?」
「智嬉の氷は“防御”の力だ。でも、ここまでの規模になると……本人の意思だけじゃなく、“外からの干渉”が必要だ」
滝はそう話した
俺は周囲を警戒しながら言った
「じゃあ、智嬉は“無理やり能力を引き出された”のか?」
滝は首を振る
「……これは“助けを求めてる氷”じゃない。
“閉じこもるための氷”だ。
本来の智嬉なら、こんな展開にはならない」
純は腕を組み、ハチマキに付いた氷塵を払う
「誰かが強制的に能力を引き出した……ってことは、智嬉はそいつに狙われてる?」
滝は顔を上げた
「いや……“智嬉を守るために暴走した”可能性もある」
「守る?」
純は首を傾げる
「智嬉は普段、自分の気持ちをほとんど外に出さない。 まあおちゃらけてはいるけどさ 戦闘じゃ、冷徹だろ?」
と滝は冷静に話す
純は「あー……」と腕を組んだ
「確かに。あいつ、戦闘になると妙に冷静で、容赦ねぇしな」
俺は思い返す
智嬉は普段、ふざける時は明るいのに
戦場だと、まるで別人のように冷徹になる
滝は氷に触れながら言った
「その差が大きい分、心が揺らぐと……抑えてたものが全部、一気に溢れるんだ」
純が目を丸くする
「じゃあ……この氷って……」
滝は頷いた
「智嬉の“本音の暴走”だよ。
誰にも弱いところを見せないせいで、
守る力が逆に“自分を閉じ込める檻”として働いたんだ」
「おい、そんなこと言ってないで、なんか聞こえないか!?」
と俺は滝たちに訴える
雪のような白い霧が、ひゅう、と耳元をかすめた
それに混じって――確かに“何か”が聞こえた
滝と純も動きを止める
「……今の……」
純はすぐさま周囲を見回し
「おいおい、誰かいるぞこれ。氷が鳴る音じゃねぇ」
「俺が超音波で目覚めさせてみせる!」
と俺はみづきさんから借りたアイテム、能力音波計を出した
俺は額に汗をかきながら、能力音波計のスイッチを入れる
小さな装置が淡く光り、空気がわずかに震えた
氷の世界がざわつき始める
「この音波計、能力者の“特定の周波数”だけを揺らせるんだ」
俺早口で説明を続けた
「智嬉の氷の波形は、さっきみづきが教えてくれた なら、その周波数を狙えば――」
滝と純は、後ろで分かりやすく耳をうるさそうに塞ぐ
「うるさくねぇ!? なんかもう耳がキーンってしてきたぞ!」
純が文句を叫び、肩がブルブル震えている
滝も耳を押さえ
「陽仁……説明の“音量”か“周波数”のどっちか間違ってねぇか?」
「説明は物理じゃなくて音で攻撃してるんじゃねぇよ!?」
俺はツッコミながら、音波計の出力を微調整するが…
「うーん、おっかしいな、みづきさん合ってんのか??」
すると、氷の分厚い壁からギィィ…と音がした…――――




