滝の迷いと帰還
滝は完全に道に迷っていた
(参った 完全に迷った)
と冷や汗を流す
辺りには見覚えのある街並みが続いている
滝は知らない間に迷路に迷い込んでいた
(ここ……本当にあの街か?)
滝は1度立ち止まって周りを見渡す
歩いても歩いても 同じ道に戻る
曲がり角のコンビニは三度目で また同じレジ袋が風に舞っていた
(おかしい……迷子なのか、それとも敵の仕業?)
次の瞬間 背後から声がする
「兄貴……」
滝は振り向いた
だがそこには誰もいない
ただ 風だけが彼の背中を押した
滝は拳を握る
(これは夢じゃねぇ でも 現実とも違う)
滝は段々焦りだして、
「スマホに仲間に電話だ!」
ととりあえず智嬉に電話する
滝はすぐさまポケットからスマホを取り出した
智嬉の名前を押して呼び出し音が鳴る
(頼むぞ智嬉 出てくれ……)
しかし スピーカーから返ってきたのは ノイズ混じりの音声だった
「……ギィ……ザザ……こちら根口……っけて……聞こえるか……滝……」
「ともき!?聞こえてる!!こっちは……」
その瞬間 通信が切れる
滝は顔をしかめ スマホの画面を睨みつけた
(電波は立ってるのに……何なんだここは……)
ため息をつき スマホを見つめる
ふと画面が 勝手に切り替わった
画面に映ったのは どこかで見たことのある教室だった
黒板の前には――自分の姿があった
(俺……?)
記憶の中の“もう一人の滝”が 教壇の前で 何かを呟いている
「間に合わなかった……守れなかった……」
(学ランを着ているな、これ…昔の俺だ)
映像はそこまでで止まり また真っ暗に戻る
滝は無意識にスマホを握りしめたまま 立ち尽くす
(なんなんだ、これ 誰かの見せた映像か……)
背後から もう一度声がした
「滝……聞こえるか」
「司令官! 来てくださったんですね! 良かったあ!」
滝はやや涙目になり、司令官に抱きつく
今度の声は……司令官の声だった
「歩いても歩いても同じ道ばかりで、しかも高校の時の俺がいて」
「滝…ここは危険だ、早く帰ろう」
司令官は手を引っ張り、滝を本拠地へ連れ出す
すると
学ラン姿の純が司令官と滝に現れた
「青髪の兄ちゃん、だぜ」
純はニヤリと笑った
「荒井純か…今は、ヤンキーで能力者ではないか?」
「そうさ 荒井純だよ ヤンキーで能力者で…お前を、殺す為に!! 蒼山滝!!」
純はニヤリと笑い、滝に雷で襲う
「司令官、これは、何者かの幻覚です! 逃げましょう!」
滝は司令官に手を引っ張ると、
「逃げる?どこへだ?」
と純は滝に容赦なく腕の動きを技で止める
「……能力者本拠地…俺の、帰る場所だ!!」
力強く滝は叫ぶと、純の幻覚はあっという間に消えて、周りの街並みの錯覚も消えた
「……っやっぱり…幻覚か…」
滝は肩で息をすると、
フラフラと今の姿の戦闘服を着た純が帰ってきた
「純…俺、力強く叫んだら、帰って来れたよ」
「ああ、ありがと、助かった…俺も、あの幻覚に囚われていた」
「他の仲間も?」
滝が不安げに聞くと、純は少しだけ苦笑したように頷いた
「……多分な。俺が見たのは“ヤンキー時代の俺”だった それに……智嬉の声も聞こえた気がする」
「智嬉の声…?」
「ああ。けど、あれは本物じゃなかった。俺の弱さ、後悔、そういうもんが形になって襲ってきやがった…」
純は腕を組み考え、
「…幻覚は記憶と混じってる。あれは“誰かの仕業”じゃねぇ、きっと俺たち自身の内側から来てる」
司令官が2人のもとへ歩いてくる
「…やはり、“封鎖領域”に囚われた者は、記憶の中に現れる“己”と対峙するようだな」
「司令官、それってつまり……」
滝は顔をあげる
「自らの未練、後悔、怒り、そういったものが、幻覚という形で目の前に現れる それを乗り越えなければ、この領域からは戻れん」
滝は小さくうなずいた
「なるほど、そうか だから 帰る場所は本拠地だ!って叫んだから戻れたんだ…」
「滝、お前はよく戻った。そして純も」
司令官の声には、少しだけ安堵が混じっていた
「他の仲間たちも、今この空間のどこかで幻覚と戦っているはずだ すでに、カルテー二が転送の支度を整えた 本拠地へ、再び帰還しろ」
純がやれやれと首を振る
「ったく、帰ってすぐにまた任務かよ」
滝は肩を竦める
「それが俺たちの宿命だろ?」




