諜報員 智嬉の力
司令官は作戦会議室から出ていく智嬉の背中をしばらく見つめる
「あいつなら……必ず何か掴んでくるだろう」
純は落ち着かない様子で足をバタつかせる
「なぁ司令官、本当に智嬉ひとりで大丈夫かよ……あの場所、もし敵が潜んでたら――」
「大丈夫だ。智嬉はお前とは違って、冷静で慎重だ」
「今それ言う!?!?」
「事実だ」
純は頭を抱える
滝は胸元をぎゅっと握りしめ、小さくつぶやいた
「智嬉……無事で……頼むから……」
司令官はそんな滝を横目に、淡々と端末を操作し始める
「さて。智嬉が動いた以上、こちらも次の準備に入るぞ。敵の誘導を逆手に取る。私は“罠の主”を炙り出す」
(あいつらを巻き込ませねぇために……俺が先に見る)
それは智嬉のいつも変わらない“役目”だった。
危険な道を一歩先に歩き、仲間の安全を確認する
特に滝は、動揺すれば能力が暴走する危険すらある
智嬉はしばらく前へ進むと、見えてきた
倒れている 瞳の姿
いや
(……輪郭が……おかしい)
智嬉はすぐに膝を落とし、背中を壁につけて気配を消す
生きている者特有の“体温”が、感じられない
(……やっぱりか)
智嬉は息を殺したまま、ポツリと心の中でつぶやく
(滝……お前にこれを見せたら、冷静じゃいられない ましてや、こいつが本物かどうかも)
すぐに智嬉は司令官に連絡した
「司令官、聞こえます?こちら、智嬉 瞳と思わせる人物を確認」
『聞こえている。状態を報告しろ』
智嬉は冷静に言葉を続けた
「肉体の形状は瞳に酷似。しかし、――“反応がない”。体温、呼吸、足音……どれも感じられない。輪郭が揺らいでいます。中心部は……黒く沈んで、まるで空洞みたいだ」
通信の向こうで、純と滝が息を呑む気配まで伝わってくる
司令官の声は、変わらず落ち着いていた
『……偽物と判断していいのか?』
智嬉は瞳と思わせる人物を上からじっと見つめる
高い位置から狙うように、光を拾わないその身体を観察する
伏せた姿勢のままでも、智嬉の視線は鋭く、冷静だ
(動きはない……呼吸も……熱も……やっぱり“生きてる”とは言えねぇ)
「司令官、こいつ、どうします?そちらで保管しますか?」
『……智嬉、そのまま触れずに――“観察”を続けろ。本部での保管は却下だ』
純の声が割り込んだ
『そりゃそうだろ!!そんな気色悪いもん、本部持ち込み禁止だ禁止!!俺はイヤだぞ!?』
滝も全力で首を横に振っている
『智嬉、なに考えてるんだよ!! 仮に持ち込んだとしても、そいつ、動き出したりしたら、俺が対処できるか…っ!!』
「滝、安心しろ。俺だって、こんな気持ち悪いもん、触る気なんてねぇよ」
「それに——」
智嬉はちらりと影を見る
黒い中心が、じっとこちらを覗き込むように揺れていた
「……こいつを本部に持ち込むなんて、ありえねぇ。お前が対処する必要があるぐらいなら、
最初から俺がここで叩き潰す」
純がすぐ噛みつく
『おい!!勝手に潰すなよ!!
司令官の指示待てって言っただろ!?』
「ああ、そうだな…っていうか…」
智嬉は通信を切る
目の前にうごうご奇妙な陰が現れたからだ
「お前、誰だ?新種の陰か? まあ、俺の技で一瞬にして足止めしてやるけどな?」
智嬉は即座に後退し、影の端が触れる直前でかわす
「お前、ただの影じゃねぇ。“考えて動いてる”だろ。だったら──こっちも遠慮はいらねぇよな?」
瞳の声で、低く囁いた
『……た…す……けて……』
智嬉の瞳が一瞬だけ揺れる
だがすぐに、険しい表情で言い返した
「その声で誘導できると思うなよ。
滝ならともかく――俺には効かねぇ」
智嬉はすぐさま氷拳の構えをして、司令官に通信した
「司令官!やっぱりこいつ、敵です!! 滝たちを呼んでください!!」
司令官は作戦会議室で対応した
『了解した、こちらもモニターで確認!すぐに滝たちを出動させる!!』
滝たちもすぐに頷く
「了解!!」
智嬉はニヤリと敵に向かって笑う
「へっ、やれるもんならやってみな!!根口智嬉、参上!!」




