戦闘員たちの作戦会議
司令官室の前まで来た瞬間、
扉の向こうから、空気がピリッと張りつめているのが分かった
「……なんか嫌な空気してきたな」
純が小声で言う
「智嬉、入るぞ」
「お、おう」
ドアを開けると、
司令官はブラインドを少しだけ開けたまま、
俺たちのほうを振り返った
「来たな。……急で悪い」
その声が、いつもより僅かに重い
「司令官、重大発表って……?」
俺が訊くと、司令官はタブレットを操作し、
壁にヴェルクのシルエットを映し出した
黒い影
顔ははっきりしないのに、見ているだけで背筋が冷たくなる
「結論から言おう」
「——ヴェルクの目的は、“記憶そのものの支配”だ」
「記憶の……支配?」
純が眉をひそめる
「奴は誰か一人を倒したいわけではない。
どこかの勢力を滅ぼすことも目的ではない。——“世界中の人間の記憶を、一つの方向へ誘導する”」
「ちょ……世界規模……?」
智嬉が思わず素の声を出す
「ちょっと待ってくださいよ! 俺たち、能力者が目的じゃないんですか!?」
滝は身を乗り出して問い出す
能力者“だけ”が目的なら、ここまで回りくどい真似はしないさ」
「……じゃあ、なんで俺たちの記憶まで狙うんですか?」
司令官は、ほんの一瞬だけ目を伏せた
「これはあくまで私の推測だが——お前の“最大の弱み”を、ヴェルクは欲しがっている」
「……弱み?」
司令官は静かにうなずいた
「ヴェルクはな、お前が“光の戦士”になるために必要なものを、全部分析している逆に言えば——その光を“へし折る方法”も、探しているということだ」
純が眉を上げる
「へし折るって……おい司令官、滝が光だって言ったばっかだろ」
「だからこそ、だ」
「滝、お前は仲間を守るためなら、どんな敵にも立ち向かうだろう。——だが同時に、“仲間の記憶”に弱い」
「記憶……?」
「お前は、仲間が苦しむ姿を何より嫌う特に“自分のせいで誰かが傷つく”記憶を、極端に恐れている」
滝は司令官に言われ、図星をつかれた
「た、確かにそうです」
「滝、お前はな……仲間の痛みに対して敏感すぎるほど敏感だ。
自分が背負う必要のない罪まで、勝手に抱え込むところがある」
「……耳が痛いっすね。ほんとに」
苦笑いする滝を、純が横目で見た
「前から思ってたけどさ、お前……
“自分のミスで誰かが倒れる”ってだけで、めちゃくちゃ落ち込むもんな」
滝は純に言われると、構わず話した
「……だって、嫌じゃないですか。
自分の判断ひとつで、仲間が傷つくとか……俺、それだけは絶対に嫌なんですよ」
司令官は静かにうなずく
「その優しさこそが、お前の光だ。
——そして同時に、ヴェルクが最も揺さぶりたい“弱点”でもある」
滝はハッと顔を上げる
「つまり……」
「そうだ」
「ヴェルクは、お前に“仲間を救えなかった記憶”を見せてくる。たとえそれが嘘でも、演出でも、夢でも関係ない」
純が前に乗り出す
「最悪じゃねえか……!」
智嬉も眉間に皺を寄せる
「滝がそんなの見たら……戦えなくなるかもしれん」
「カルテー二一族のやつらのやりそうなことです!」
滝は棍棒ホルダーを握りしめ、歯を食いしばった
「カルテー二一族のやつらのやりそうなことです!記憶いじって、心から壊しにくるなんて……そんなの、ぜってぇ許せねえ!」
その声に、純が「おいおい」と止める
「でも——今回はカルテー二より性格悪いぞ。
奴は“相手が一番折れる瞬間”を、わざわざ選んでくるタイプだ」
智嬉も真顔で頷く
「滝がそんなの見たら……戦えなくなるかもしれん。 滝は特に、“仲間が傷つく夢”に弱い」
滝は目を背く
「滝。落ち着きたまえ」
司令官が制した
「ヴェルクが狙うのは、お前の“弱さ”ではない。
お前の“強さの源”だ」
滝は一瞬、理解できずに目を瞬いた
「滝は仲間がいるからこそ強い 仲間がいなければ孤独と戦う 昔からそうだろう?」
司令官は続ける
「お前は仲間のために怒り、悲しみ、迷う。
その“情の深さ”が、お前を何度も救ってきた。
だから奴は、そこを折りにくる」
滝は棍棒ホルダーをキュッと握る
「司令官…俺…俺は…っ」
純は隣で首をゴキゴキ回しながら
「まあー、ようは倒しゃいいんだがな」
智嬉は苦笑する
「そりゃそうだよ でも倒せなくて俺たち、困ってるんだ」
司令官はふむ、と顔を上げて
「情報支部のみづきと陽仁に頼むか」




