凄い悲鳴
「近付いてくるわけじゃなく、離れてないか?」
ゴブリンの姿は明確になるのではなく、暗闇の中に消えていく。それは距離が離れているからだろう。
だが、襲い掛からない理由が分からない。俺一人しかおらず、一対一の形だ。コアキーパーから逃げるのとは全然違う。
違和感はそれだけじゃない。
ゴブリンが離れる際、後ろを向く事はせず、俺の方を向いたままだった。
こんな狭く、暗い道を後ろ歩きで進むなんて、ゴブリンもそこまで馬鹿ではないはず。
「……ゴブリンじゃないのか?」
俺は二つの考えが思い浮かんだ。
一つは一度考えた寄生型の異形。ゴブリンの体を乗っ取り、動きがおかしくなっている。
二つ目。ゴブリンの死体を別の異形が運んでいる。俺とゴブリンの目が合ったのは、その異形の高さもゴブリンに加わったからだ。
「運んでいるのを確認するなら、下を明るくするべきだな」
足元を照らせば、死体を運ぶ異形がいるのかを確認出来る。
勿論、前で引っ張っている可能性もある。ゴブリンが壁になって、俺の姿を隠している事もありえるからだ。
「どうする。奴の後ろをついていくか。近道を抜けた時にでも【黒猫】を呼んだ方がいいのかもしれない」
今なお、ゴブリンは俺から離れていく。攻撃を仕掛けるつもりはないらしい。
俺も足早になれば、一定の距離を保つ事が可能だ。近寄り過ぎると、相手も流石に気付くだろう。
正体を知りたい気持ちはあるが、【黒猫】達と合流時の方が安全だ。
「ぎゃあああ!!」
そう思ったのも束の間。【廃坑】内に悲鳴が響き渡る。
それは男じゃなく、女性の悲鳴だ。救助者が異形に見つかったわけじゃない。
【黒猫】かネスティスのどちらかの悲鳴。
多分だが、【黒猫】だ。あんな悲鳴をネスティスが出すイメージがない。
その悲鳴に驚いたのか。もしくは、そこに向かうつもりなのか。謎のゴブリンの移動速度が上がった。
それと同時にゴブリンの顔や手、体が動き始めただけでなく、叫びでの【威嚇】を発生された。
俺は不意を突かれ、動きを鈍らされた。相手が速度を上げただけじゃなく、【威嚇】されたとなると、追いつく事は無理だ。
予想外なのは、ゴブリンが動いた事だ。しかも、【威嚇】を使用したのに、俺へ攻撃する事なく、逃げる事を優先した。
【黒猫】とネスティスがいる場所に向かうためなのか。聞こえたのは女性の叫び声であって、異形が仲間を呼び寄せる声は聞こえてないはずだが。
ここはあの謎ゴブリンを行かせないためにも、手元にある小型ランタンを投げて、こちらに意識を向けさせるか。




