昼休憩からの脱出
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「うぅ……面倒臭い。皆で分担する書類整理を俺に一人でやらせるなんて。異界の映像を見る暇もないぞ」
美人秘書の用意した書類整理に追われ、気付けば昼休憩の時間に。朝にあった大量の書類も残り僅かになってる。
彼女は俺が【道化師】とは知らなくても、職業が編集者である事は知っているからな。
臨時職員とはいえ、ハンターのようにプロフィールは協会に提出する必要がある。
職業や年齢は詐称としてない。経歴にハンターの事も書いてる。とはいえ、わざわざ【無法者】のメンバーだって事は書いてない。
そこらへんは所長、ジェフが上手く誤魔化してくれたんだろう。
「レイさん、凄いです!! あれだけあった書類が丘ぐらいの高さに。このペースだと、もう少しで終わりそうですね」
フレアが俺に声を掛けてきた。彼女は裏でお茶汲みをしている。メインは受付嬢だが、職員ともあって、一通りの雑用はしなければならない。
受付嬢が交代制というのもある。一日中ハンターの相手をするには、ストレスが溜まるからという、所長の配慮だ。
「適正の職業だからな。それもあって、仕事を振ってきたと思う。とはいえ、面倒なのは間違いないぞ」
その書類の内容が異界やハンターの情報の更新等であったら、やる気も出たし、面倒とは思わなかったかもしれない。
実際は職員達が提出した誤字脱字、文章の修正。間違った本人にやらせたらいいのに。
もしくは、所長が確認がてらにする事なのか。それを編集者である俺に回してきたわけだ。
職員だけじゃなく、所長の仕事の回転も早くなったわけだけどさ。
「今から休憩に入るから、お茶は大丈夫だ。外に食べに行ってくる」
「休憩時間なのは知ってますよ。いつもはお弁当じゃないですか? おかずの一つでも摘むつもりだったのに」
「書類整理が多すぎて、ストレス発散がてらに早弁しながらの作業をしてしまったんだよ。それと……毎回横取りするのを止めろ。この時間のお茶汲みもそのためだろ」
「バレました? レイさんの弁当が美味しいんだもん。お嫁にしたい候補に入れてもいいぐらいだし」
こう見えても、俺は料理が得意だ。編集の能力は文章や映像の確認だけでなく、料理にも活かされる。食べた物の材料や調理方法も記録、記憶可能。
異界やハンターオタクまではいかないまでも、料理をするのもストレス発散になる時もある。
まぁ……料理を始めたのも止むに止まれぬ理由があったからだ。
【無法者】のメンバーで料理が出来る奴がいなかった。当番制だったが、出てくるのはゲテモノばかり。
一番マシな料理を作った俺に、メンバーは料理担当を押しつけてきたわけだ。
最初は嫌嫌だったが、奥が深い事に気付き、ハマったというのもあるんだが……
「はいはい……嫁にはならないから」
「もう!! 冗談じゃないのに。私も一緒に行っていい? どんな店に行くのか気になるし」
フレアをあしらって、休憩に入ろうとすると、ついて来るとか言い出した。気分が良い事を言って、俺に奢ってもらうつもりじゃないのか?
「フレア!! 貴女の休憩は一時間後でしょ。ゼロストさんに無茶言ったら駄目よ」
「ええ!! 先輩、一時間早めても良いじゃないですか……レイさん!?」
フレアの行動を先輩受付嬢が止めてくれた。
異界探索協会は中締めがなく、閉店まで常に開いている。職員全員が一気に休憩に行く事はなく、各自決められた休憩時間がある。
今日の休憩時間は俺が十三時で、フレアが十四時。俺以外にも何人かが休憩に入る。
フレアと他の職員が休憩時間を変更する可能性を考慮して、その前に協会から出る事に。




