映像位置
「す、すみません。お待たせしました。折角貰った水なんですが……」
ネスティスがトイレから戻ってきた。俺達の話が聞かれた様子はない。単に空になった容器を申し訳なさそうに、【黒猫】に見せてきた。
そこには水が入ってたようで……何に使用したのかはすぐに分かった。
「別に構わないわ。それも含めて渡したから。私のスキル選択を終わったから、休憩は終わり。ここからが本番よ」
「はい!! ……【黒猫】さんは大丈夫なんですか?」
ネスティスが心配したのはトイレの事だろうな。俺やネスティスが行ったわけで、【黒猫】も……
「そこは心配しなくていいから。そういうのもあって、食事をしてないの」
【黒猫】も彼女の心配を無下にせず、答える。直前で変な空気にさせるわけにもいかない。
「先にネスティスが入る。これは本部からの命令らしいわ。だから、最初だけは彼女を先に歩かせる。私の【危険察知】があるからといって、警戒は怠ったら駄目よ」
「銀の箱の起動、パーティーである俺達の確認等があるからな。そこは他の勇者の時もそうだったが」
俺も他の勇者の初探索の映像を見たが、全国に流すのもあって、最初に突入。その前に自己紹介もしていた。とはいえ、声が入るわけじゃない。
音が入る事は異界探索の攻略において良い事もあるが、悪い事もある。特にハンターの声とかが……
「ネスティスも他の勇者の初映像は見た事があるんだったよな? あんな風にしなくていいぞ。探索内容は本部が伝えるはずだ。普通に俺達を見せた後、中を進めばいい」
本部が全国に映像を流す時、探索内容を伝える時がある。今回は救助という事もあるから、下手な行動はネスティスの評判を落とす事になる。
救助よりもコア破壊を優先するにしても、映像で分かって欲しいところだ。
「境界線を過ぎるわよ。【廃坑】の入口前から証が反応するから」
【黒猫】だけじゃなく、俺やネスティスの目にも廃坑の入口が見えてくる。
「証が……動きました」
ネスティスが境界線を越えると同時に、証である銀の箱が起動し始めた。
銀の箱は空中に浮き、一メートル程離れていく。そして、正面側にレンズを出てくる。このレンズによって、映像を送るようになっているんだろう。
俺や【黒猫】の証もその形態に変化している。
「最初の起動だから、レンズは赤に点滅してるはず。それが消えたら映像が映し出されるようになるから。これは受付嬢達に聞いてるはずだな」
「はい。……消えました」
「銀の箱は常に所有者の後方に移動する。止まってる場合は振り向いて、銀の箱を見る事が出来る。進む方向が重要だから。勿論、指示で距離を変更は可能だ」
ネスティスは立ち止まっている状態だから、銀の箱と向き合える事が出来ている。
俺達を映すのであれば、一歩こちらに進む必要があるわけだ。
ネスティスは銀の箱に向けて、一礼。そして、俺達を銀の箱に一瞬だけ映し、すぐに異界である【廃坑】の中へ。
本当に余計な事は一切しなかった。




