異界圏内
「……どうかした? 彼のために足を止める必要はないわよ」
急にネスティスが足を止めた事に気付き、【黒猫】は彼女の方に振り向いた。
【黒猫】には【危険察知】のスキルがあり、何の反応も見せてない。彼女が先に行くのは、異界が進化しているのを考慮しているからだ。
「そういうわけじゃないんですけど……少し違和感があって」
ネスティスは俺の心配をしてくれたわけじゃないようだ。挙動不審とまでは言わないが、キョロキョロと周囲を見回している。
そこで止まってくれたのは俺的には助かるんだが、彼女に何が起きたのか。
「異界との距離が近くなってるから? それでも【危険察知】は何も反応してないわよ」
【黒猫】の銀の箱が起動するまでの【異界】との距離には達していない。
勇者は全ての異界に適応するという話だが、異界に入ってないのに体が反応するものなのか。
「【道化師】は彼女の違和感の正体が分かったりする?」
トイレじゃないのか? とは、流石に言えないか。異界に行く前に済ましておきたい気持ちはあるんだが……
「…………ちょっと待て。彼女の近くまで行くから」
途中までネスティスに異変はなかった。あるとすれば、彼女が止まった場所から先の事のはず。
だからといって、駆け足で行けるほど、体力が有り余ってるわけじゃない。
あの二人のスピードについて行くだけで、体力がかなり減らされたから。絶対に一時間ペースじゃない。
とはいえだ……【無法者】のメンバーの事を考えたら、少しは鍛え直さないとヤバいと実感した。息切れしているのを隠すのもやっとだ。マスクをしていて良かった。
「【道化師】様にはこの違和感が分かりますか?」
ネスティスは不安そうに俺に答えを仰いでくる。自分だけとなると、気になるのは仕方がない。
「……ふぅ……分かる。ネスティスの感覚は間違ってないぞ」
ネスティスがいる場所に到着した時点で、原因は分かった。けど、調べるフリをして、少しでも休憩時間を増やし、息を整える。
そうでもしなければ、その時間を確保するのが難しい状況になるからだ。
「すでに異界圏内に入ってるからだ」
「……何を言ってるわけ? 異界にいるなら、証が反応するはずよ。私が空気の変化に気付かないわけないでしょ」
【黒猫】がおかしいというのも当然だ。この周辺自体が異界化されていない。経験者なら、すぐに肌で感じる事が出来る。
異界はそれほどまでに異様な場所だからだ。
「そこまで達してないからだな。異界化されてるのは地下だ。進化によって、地下に広がってる可能性があるという話だった。そこから地上に広がるつもりなんだろう。探索中に異界が進化した事は経験してるからな」
異界探索を何度もしている内に、勇者なみの探知力が身についてしまった。
異界初探索で、違和感を感じ取れるネスティスが凄いわけなんだが……
【廃坑】が進化しているのは確定。しかも、急速に拡大している。コング兄弟が向かう時には、進化はすでに始まっていた。
地下という事で気付く事が出来ず、ネスティスが立っている場所へ上昇しようとしてるのかもしれない。




