適任
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「【黒猫】様。馬車で進めるのはここまでです。後は徒歩で【廃坑】まで向かってください」
「分かりました。明日の朝にまた来てください。二日経過しても戻らなかった時は本部に連絡を。あちらも彼女の映像で確認するとは思いますが」
御者は【黒猫】に到着した事を伝えてきた。勇者でなかったのも、手配したのが所長……ないし、【黒猫】だったからだろう。
馬車に揺れる事三時間。一度は気まずい空気が流れはしたものの、ハンターは切り替えが大事。
俺と【黒猫】は仕事として、割り切る事にした。
ネスティスも俺達が付き合ってない事で、落ち着いてくれた。それがどういう事なのかは聞く事はしなかったけど……
「ありがとうございました!! ……ここが最初の区切りなんですね」
「そうだな。分かりやすいよう、舗道には印が建てられているからな」
馬車が止まった先に、立て札がある。この先に異界がある事を知らせる物だ。
異界の境界線だけでなく、それよりも前に立て札や印がある事が多くなっている。
「荷物はどうしますか?」
御者が用意した荷物というのは食料や薬。それは勇者や俺達ではなく、救助者用の物だ。
異界に生存していたとしても、数日経過している。食料も底をついている可能性もあり、回復魔法で治療出来ない怪我も考慮されての事。
五人分ともなれば、結構な量であり、邪魔でしかないのだが……
「そこは【道化師】が適任でしょ」
【黒猫】は当たり前のように言ってくる。
俺は男だし、装備品も少なく、一番身軽ではある。
「【黒猫】さん。【道化師】様の体力を考えると、私が持ち運んだ方がいいと思います」
ネスティスは【道化師】があまり動けないのを知ってるようで、気を使ってくれたみたいだ。
体力の無さを指摘されたようで、悲しい気持ちにはなる。
とはいえ、視聴者はそんな物を背負った勇者を映像で見たくはないだろう。
「【黒猫】の言う通り、ここは俺が適任だ。体力は関係ないからな。そこは彼女の方が分かっているぞ」
「分かりたくもないけど……この距離は私のは無理だから。【無法者】のメンバーの中でも、何故か貴方のが一番だったでしょ」
「あの……一体何の事ですか?」
ネスティスも【無法者】ファンだったとしても、知らない事だろうな。
異界探索を続けていけば、分かる事ではある。
「まぁ……こういう事だな」
「……えっ!! ここは異界じゃないですよね?」
彼女が驚くのも無理はないだろうな。ハンターの証である銀の箱が、異界内でもないのに起動して、宙に浮いているんだから。
「異界外だから、映像は出てないぞ。異界を経験していくとハンターは成長するわけだが、銀の箱も進化していき、様々な機能が付け加えられていく。理由は分かってないけどな」
銀の箱はハンターの証とされていて、多く製造されてはいるが、機能が未知数過ぎる。未だに判明していない事があってもおかしくはないぐらいだ。
異界に入ると勝手に起動し、映像を残す。
持ち主が死亡すれば、協会内に戻る。
これが通常の機能。ネスティスの証がこの状態だ。




