トレードマーク
「身体検査にもして、戦闘に意識が向き過ぎだ。異形との戦闘は危険なのは当然として、異界自体が危険だからな。空気が違えば、触れる物全てに注意した方がいい。だから、異界にある物を直接手に触れない方が良いんだ。ネスティスが素手で来てたら、手袋を渡すつもりでいたぐらいだからな」
異界が危険なのは異形の出現もあるが、異界内自体に何が起こるのかも分からない事が危険なわけだ。
普通の石が罠のスイッチになっていたり、そこらに生えている草木が毒を持っている事なんて多々ある事。
体に適していたとしても、異界に慣れるまでは、空気だけで気分が悪くなる事もある。
何事にも用心に越した事はないわけだ。
「それに【危険察知】のスキルも習得出来てないんだろ? 【黒猫】がいるとしても、全部をフォローするのは不可能だぞ」
「うっ……自分の事ばかり考えてました。【道化師】様にも迷惑を掛けるところでした。ありがとうございます!! ガントレットはこのままで大丈夫です!!」
ネスティスはガントレットの調整をあっさりと諦めた。ソロじゃなく、パーティーとしての意識を持っているのは助かる。
「……二人に迷惑を掛けていいからな。無理だけはするなよ」
暴走されるのは嫌だが、【道化師】に迷惑を掛けると思って、動きがぎこちなくなるのは駄目だからな。
フォローするのは【黒猫】で、俺が出来る事はほぼほぼないと思うけど……
「コイツの言う通りだ。【道化師】には迷惑をかけまくれば良い。アイツが何とかする。だが、何でもしていいわけじゃないぞ。最後に嬢ちゃんに渡すのはコレだ」
爺さんは話を切り替えるために、ネスティスに渡す最後の一つを袋から取り出した。
「これは……マントですか?」
「少し邪魔と思うかもしれないが、後ろからの攻撃を察知しやすくなっている。【身のこなし】も多少は良くなるはずだ。嬢ちゃんの感覚次第だが」
ネスティスが習得出来なかった【危険察知】の簡易的な効果があり、踊り子の【身のこなし】、回避率をアップ出来るらしい。
とはいえ、【身のこなし】のスキルも人それぞれ。ネスティスが上手く使いこなせるかになる。
「それとだ……他の勇者もマントを着けてるらしい。それも自分の紋章を刻んでいるんだと。嬢ちゃんもこの依頼が終わった後、そのマントに嬢ちゃんの証を刻むのもありだぞ」
爺さんはネスティスのトレードマークを作らせようとしてるみたいだな。
勇者というだけで注目を浴びるわけだが、ネスティス以外にもいるわけで、覚えて貰うためには早めに証があった方がいいのは確かだ。
勿論、爺さんが用意したマントに描かなくても、別の物でも構わない。そういう意識を持たせようとしてるんだろう。
「私の証……トレードマークをマントに描く……」
ネスティスは自分のトレードマークを妄想しているのか。何かを考えているようだ。そして……
「大丈夫です。私にトレードマークはまだ早いから」




