再度職人区へ
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「ふぅ……今日はフレアが休みで良かったまであるな。余計な事を言われずに済むし、ついて来る不安もない。実際はゆっくり仕事を……映像を見るだけで終わりたかったんだが」
所長の許可もあり、他の職員は先程の勇者関連だとも分かっているので、誰からの文句もなく、快く外出する事が出来た。
ここにフレアがいたら、一緒に行くと駄々を捏ねた可能性はあった。昨日も無視して、昼休憩に行ったわけだし。
更に良かったのが美人秘書アカネがいなかった事。彼女も外出していたようだ。
所長と話すのは昼になるのは聴いている。彼女は多忙で、各支部との繋がりのための仕事をしているのかもしれない。
前回のように書類を山積みにされている事もなかった。アレは罰だけじゃなく、八つ当たりもあった気がするんだが……
「爺さんは大丈夫か? いや……ネスティスの心配をした方がいいのか。両方気が強いし、空気を読まないところもあるからな」
爺さんの家に行く足取りが重い。すでに二人は対面しているのは間違いない。
その時、爺さんの機嫌はどうなのか。
俺は仕事終わりに勇者を連れて行くと話したし、油断しているというか……今の時間は朝で、まだ寝てる気がする。
睡眠を邪魔されるのは本当に嫌だからな。
不安な事はもう一つ。これは重要な事だ。
ネスティスに俺が【道化師】だとバレてない事。爺さんは口が滑りそうだし、ネスティスは怪しんでる節があり、根掘り葉掘り聞き出しそうだ。
「まぁ……バレたら、バレたらで仕方ないかもしれないが」
ネスティスと異界に同行する事が決まってしまった。そこで俺が【道化師】だと知られてもおかしくはない。
何も話さないのは無理だろうし、ネスティスなら体格もそうだし、声を出すだけでバレそうだ。
それを気にしながら動くのは、彼女だけじゃなく、全員の死に繋がりかねない。むしろ、俺が真っ先に死ぬから。
バレたくはないが、死にたくもない。それを考えるのも面倒臭くなってきた。
昼休憩でもないし、職人区には階段で向かう。
筋肉痛だが、その足で滑り台に挑戦したところで大怪我するのが目に見えている。
最後のマットに着く前に転がり落ちそうだ。
「おっ? 今日も来たのか。勇者がもの凄い勢いで走り去っていた事が関係あったりする?」
職人区の入口付近で店を持つ職人。昨日も声を掛けてきた。彼は俺が【道化師】だと知っている。
昨日、今日と来て、勇者が爺さんの家の方向に向かった事から予想したんだろう。
帰る時に勇者と一緒になる可能性を考えると、嘘を吐く理由もない。
「そうだな。……勇者は【道化師】の正体を知らないから、そこは黙って貰えると助かる」
「構わないが……すでにバレてるかもしれないぞ。彼女、ジジに追い返されてなさそうだしな。こっちに戻ってくる事もないし、機嫌が悪ければ、怒鳴り声がここまで響く事もあるから」
爺さんはネスティスを門前払いにはしてないらしい。一応、勇者が来るのは知ってたわけだしな。怒られるとしたら、俺なんだろうけど……
「分かった。それだけ分かれば十分だ」
ネスティスが爺さんの家に滞在してるなら、今までの時間、会話でもしてるはず。
そうでなければ、爺さんは俺が来るまで、勇者を外に出してそうだからな。




