センスがありません
「動きも二人なら演技をして、相手を誤魔化す。それでハンター達の目を欺く事が可能だろ?」
所長の……【影】の右腕だった【黒猫】であれば、可能なんだろう。それを一番に知ってるのは所長なわけで……
だとしても、【道化師】は……俺は違うからな。演技でハンターの目を欺いてたわけじゃない。
本気であの動きだから。異形やメンバーの攻撃を避けるのも必死の中での更に必死だから。
「誤魔化すのも何も……あの動きは演技じゃないからな。それが出来るなら、【卑怯】のように華麗に動くわ。編集者の職業を舐めるなよ」
編集者という職業は本当に動けない。努力しても限界はある。【無法者】のメンバーの動きの足元にも及ばない。
今の勇者以下だとしてもおかしくない。多分そうだと思う。
「今なお能力を隠したいようだな。とはいえ、ゼロストには同行してもらうぞ。そうでなければ、臨時職員をクビにしなければならなくなる。俺だから、お前を雇う事が出来たんだ。他の支部で協会の職員になるのは無理だからな」
「くっ!! それは卑怯……じゃないか。居心地の良い場所を奪おうとするなんて」
仕事とはいえ、異界とハンターの映像が見放題。しかも、お金も貰える。
勿論、ハンターであれば、異界の映像を見る事は可能だが、色々と手順が必要になる。時間制限もあれば、見たいハンターを選べない時もある。
職員が異界の情報を一番得やすいまである。オタクとしては、仕事を辞めたくない。
「映像関連なしで、書類仕事だけを任せるのありだぞ」
他の職員がいる手前、急に辞めさせる事が出来なくても、書類仕事だけを振る事も出来るわけだ。
美人秘書的に、そう言われてる可能性もあるか。それは映像見たさに仕方なくやってるわけで……
「分かった。分かりましたよ。やればいいんでしょ!! 今回だけだからな。他のハンターには【道化師】だとバレないようにしてくれよ。【黒猫】は仕方ないだろうけど」
互いに知ってはいるものの、正体までは知らない。似たような立場だから、誰かにバラすような事はしないだろう。
「それで……変装するにしても、その準備はしてくれているのか? 急だったから、俺が考えないと」
「そこはすぐに手配した。お前達の装備は重装備ではなく、軽装備。それも鎧系ではないからな。俺が考えたのはこれだ」
所長は変装用の服の絵を提示してくる。時間もない事から複数の中から選ぶのではなく、所長自身が考えた物らしい。
「うわ……センスが無さ過ぎだ。これだったら、自分で探すわ。丁度、勇者を追い掛けるため、職人区に行かないと駄目になったんだよ。その許可が欲しいところでもあったから」
【道化師】の姿はマスクあり。魔法使いや神官、盗賊のような軽装備。協会の職員のスーツに似てるまである。ある意味で目立つ服になってしまってた。
だから、職員の中に【道化師】がいると疑ったハンターもいたぐらいだ。
それを今回、所長は本当の道化師、ピエロの服を用意しようとしていた。
しかも、【道化師】だとバレないため、いつものマスクは使えない。その代わり、付け鼻とカツラの用意をするつもりだったらしい。
見るからに怪しく、逆にイメージとしての【道化師】と思われてしまうぞ。
「ちなみに……【黒猫】も拒否したんじゃないか?」
「……よく分かったな。滅茶苦茶怒られたぞ」
「それはそうだろ。色違いなだけで、恥ずかしい姿だから」
黒タイツが、白タイツに変わっただけ。【黒猫】から【白猫】へ。
下手したら、黒タイツ姿も本当は嫌だった可能性もあるのでは?




