後で分かる
「はぁ……ネスティスを追うにしても、結局は先に所長に連絡しないと駄目だからな」
美人秘書が激怒している理由。タイミング的に勇者関連、それに俺も含まれている気がする。
その状態で何も言わずに職場放棄はヤバい。美人秘書の八つ当たりがこっちに来るのが目に見えている。
「この状況でノックするのも、胃がキリキリするんだけど……」
所長だけなら、ノックしないで所長室のドアを開けていたかもしれない。
だが、美人秘書がいる中で無断で入るのは自殺行為だ。激怒状態なのは分かっているのなら、尚の事。常人なら、彼女の視線で殺されてもおかしくないのでは? それほどの威力はあると思う。
「……ゼロストです。先程の件で来ました」
「中に入ってくれ」
「……失礼します」
ここで所長にタメ口でも言おうものなら、美人秘書の説教から始まってしまう。彼女がいる間、言葉遣いに気をつけなければ。
俺はドアを開けて、所長室の中へ。
美人秘書は俺が入ってくるのと同時に、部屋から出るために振り返る。
その顔は明らかに不機嫌。俺を睨んで来なかったのが救いだ。
「アカネ。君もこの場にいて、ゼロスト共に話を」
「嫌です!! 話の続きは彼がいなくなってからです。分かりますよね!?」
彼女は完璧に拒否。俺と一緒に話をするのが嫌なのか!? こんな状態の美人秘書をこの場に残すのは俺としても反対だぞ!! 【道化師】だとバレたくないし。
「はぁ……仕方ない。昼に機嫌を治して、また来てくれ」
「分かりました。勿論、私の休憩時間にしてください」
美人秘書はそう言い残して、所長室から去っていく。
昼の休憩時間に合わせるというのは、所長にご飯でも奢らせるつもりなのか。機嫌がそれで治るなら、所長も喜んで昼食を奢るだろうな。
異界探索協会イズン支部で一番怖いのは彼女だからな。所長すらも圧倒する時があるし。
「……彼女は何故あんなに怒ってたんですか?」
聞くのもどうかと思ったけど、無視するのもおかしい気がする。所長も溜め息を吐いているぐらいだ。
「……後で分かる」
後で分かる。その時点で俺が関係してるじゃないか!? 何が起きるのかも怖いが、それを今聞き出して、ネスティスと爺さんの二人を相手に耐えられるのか。いや、耐えられない!!
「それはそれで嫌なんだが……精神的体力は残しておきたいから。俺が聞きたいのは、今回の勇者の件についてだ!! 勝手に【道化師】を勇者のパーティーに入れるなよ」
途中で声が大きくなった事に気付き、【道化師】に関してはトーンを低くした。
「本部からの指示かとも思ったが、それは流石にないだろ? 俺……【道化師】だけじゃなく、【黒猫】も含めてだ。自分で言うのもなんだけど……実力は置いておいて、一応は有名人だとは思うんだが」
ネスティスが【道化師】や【黒猫】と組んだ場合、目立つのはどちらになるか。
もしくは、【道化師】なんかと行動した事によって、勇者の悪評が広まらないか。
彼女の目標が【無法者】のメンバーだから、本人は気にはしないんだろうけど……




