ストーカー予備軍
「師匠!! いますか。緊急事態なので、相談に乗って欲しいです」
協会が開店したと同時に、聞き覚えのある声が、俺のいるバックヤードまで響き渡る。
「ゼロストさん。勇者……ネスティス様がお呼びになっているのですが……これはOKなんですか?」
早速、受付嬢が俺を呼びにやってくる。
相談相手を師匠と呼ぶ時点で、誰なのかは検討がついていた。それは俺だけじゃなく、受付嬢も誰を呼んでいるのか分かってるのが証拠だ。
勇者ネスティス。今日にでも勇者の元へ本部からの依頼が届くらしかったが、それにしても早すぎないか? 相談内容は予想出来てはいるけど……逆に違った方が驚く。
「はぁ……本当は却下したいけど、今回に関しては分かってたから。取り敢えず、所長が来ているなら、呼んで来てください」
「分かりました。自分が呼んできます」
今日の相談室の担当に俺の名前はない。それにも関わらず、呼んでいいのかの疑問が受付嬢にはあった。
受付嬢は俺と一緒にネスティスの元に戻り、他の職員が所長を呼びに行く。
「師匠!! 良かった。ここにいなかったら、家の場所を職員に聞いて、訪ねるところでした。師匠がいる時は、相談室の名前があってほしいです」
「いやいや……家に来るのは怖すぎるだろ。相談も俺を選ぶのはネスティス、君ぐらいだから。人気のない相手を常に入れておくわけがないぞ」
ネスティスはホッとした顔をしながらも、怖い事を口にする。下手したら、ストーカーになりかねない。受付嬢も無闇に住所を教えないだろうが……
「それで……緊急事態というのは何だ? 盗賊ギルド関連ではなさそうだが」
本部からの依頼だと予想はしているが、先に知っているのもおかしい気がする。
「えっ!? 何で分かるんですか」
「制服……盗賊ギルド用の学生服を着てないだろ? そのギルドに通ってる時は、その服をいつも着ていた。それなのに今回は私服のようだからな」
前回は魔法ギルドの制服を着ていて、今回は盗賊ギルドの制服かと思いきや、そうじゃなかった。
各ギルドのそれぞれの制服も一応は把握はしている。決して、制服オタクというわけじゃない。
基本的にギルドの制服の違いは色。装飾品の違いもある。帽子やマントの形。手袋があるのかもそうだ。
「あっ!? えっと……これは……一番動きやすい服で。制服だと気にしなくて良かったのに……」
ネスティスは急いで来たせいなのか、自分がどんな服を着ているのかを意識してなかったようで、私服を見られるのを恥ずかしがっている。
「まぁ……気持ちは分かる。俺も家では着てる事が多いから」
彼女が着ている私服はジャージと呼ばれる服。服は軽く、運動に適しており、通気性も良い。色も種類も豊富にある。
ネスティスが着ているのは赤色のジャージだ。
これも異界の素材で開発された装備であるが、一般にも普及した人気商品でもある。とはいえ、オシャレというわけじゃない。
「ジャージは良いですよね!! 師匠もジャージ好きで嬉しいです!!」
「今はジャージの話じゃなくて、緊急事態じゃなかったのか?」
彼女とジャージ談義をするつもりで話を振ったわけじゃなく、元通りに修正させないと。
「そうでした!! 師匠には許可を貰いたくて」
ネスティスはジャージ話でキラキラしていた顔から、真剣な顔に戻した。
「許可?」
「はい!! 異界協会本部から依頼書が届いて、異界に行かなければならなくなったんです。それを拒否する事は出来ないみたいで……でも!! 師匠からは【危険察知】系のスキルを手に入れてからだと」




