限界突破
「……ヤバい。【黒猫】!! ネスティスを連れて、こっちに来い。そっちは完全に巻き込まれるぞ」
俺は大声で【黒猫】へ叫んだ。
【殺戮】が杖を持つという事は本気を出すという事だ。しかも、詠唱を短縮しない事もかなりヤバい。
杖は詠唱短縮や威力を上げるために使うわけだが、それを威力増強だけに回している。
しかも、杖なしでも詠唱短縮可能な【ファイアボール】を一から唱えるという事は、更に威力を上げているわけだ。
「普通の【ファイアボール】とは比較にならない。彼女のアレは限界突破している。前に見た時は、杖なしでもヤバかったぐらいだ」
【ファイアボール】をマスターすれば、固定化される。【修正】すれば、別の【ファイアボール】になる。
これは間違いなかったんだが、ある時から変化が起きた。
二種類目の【ファイアボール】を【殺戮】がマスターした時だ。
最初の……本来の【ファイアボール】の威力が上昇していた。
マスターすれば変化する事はないはずが、別の【ファイアボール】を使い続ける事で蓄積して、限界突破したと考えている。
それを更に書き換えた【ファイアボール】をマスターした時も同じ事が起き、【殺戮】の【ファイアボール】は上級魔法にまで匹敵する程になっていた。
「紅く」
【殺戮】は牙……杖を掲げると、手のひらサイズの紅い玉が生まれる。
「熱く」
紅い玉が膨れあがり、自身と同じ大きさに。その玉からヒビが入り、火が溢れて出てくる。
「燃えたぎる」
紅い玉が破裂して、完全な炎になる。その大きさはドンドンを凌ぐ程に。
「炎の玉よ」
炎が再度球体に形を取っただけでなく、更に大きく。背後に竜の顔が出現して、口の中に。
それが杖の効果。火属性の威力を上げるための物。竜は幻に過ぎない。
「こんな魔法……どうしようもない。詠唱を完成したとすればだ」
ドンドンは【殺戮】の【ファイアボール】に恐怖し、格闘家のプライドを捨ててまで、妨害に入るつもりだ。
【真空三段突き】ではなく、体当たり。AP消費もあるだろうが、スキルを使用して間がないのもある。
それだけじゃなく、巨体による体当たりは圧があり、回避しようと体が反応してしまう……俺の場合は。
【殺戮】はそんな威圧をものともしない。
彼女の詠唱は後一文のみ。
「うおっ!! 前に進まない……だと」
ドンドンは【殺戮】の行動に釘付けになり、ネスティスや俺の行動に意識がいかなかった。
加えて、一対一という言葉が、ドンドンの頭にあったからだろう。
ネスティスは【アイスブレス】を放ち、百足の体が移動をしやすくする液体が、ドンドンの体を想像以上に凍らせたわけだ。




