まさかの登場
「一対一? 私が代わりに引き受けて上げるわ」
「……えっ? まさか……その声は」
風の刃が二つ、俺の後ろから放たれる。
それは二本の触手にぶつかると共に、無数の小さな刃となり、分散された。
その後には細切れの触手が大量の血飛沫を降らせ、重なる事での回復も許さない。
「お、お前は!!」
ドンドンは声の人物を見るやいなや、後退する。彼の顔は引きつり、恐怖を感じてるのが分かった。
俺も後ろを振り返る。その声が誰なのかを間違うはずがない。
ここにいるはずのない人物。
赤、赤、赤。血を浴びるのが当然とばかりに、髪、目、服の全てが真っ赤に染まっている。
あんな凶悪な魔法を使えるのはたった一人。
それも俺が【修正】した魔法が上書きされ、強化されている。
「【殺戮】!!」
「【殺戮】様!!」
「ミザリー!?」
「異形に【殺戮】と呼ばれるのは初めてなんだけど、汚い声で呼ばないで欲しいわね」
ドンドンだけでなく、ネスティスも【殺戮】の姿を見て、思わず声を出した。
【黒猫】も【殺戮】の登場に驚いている。彼女が美人秘書なら、【殺戮】の動向は知っていたはず。
「アイツは……私を様付けしてるから許してあげるわ」
【殺戮】はここにいる一人一人を確認しながら、前へと進んでいく。
彼女が現れたのは俺達が来た道とは違っていた。上からではなく、最下層。
最下層にはコアがあるだけじゃなく、工房があったと【黒猫】が言っていたが、他にも道はあり、そこからミザリーが出てきた。
「主も私達以外とパーティーを組むから、危ない目に遭うのよ。今度からはメンバーが誰もいなかったら、断らないと駄目だから」
【殺戮】の本名はミザリー=サイズ。俺の場合、【殺戮】ではなく、ミザリーと呼ばないと機嫌が悪くなる。
といっても、彼女自身は【殺戮】という二つ名を嫌ってるわけじゃなく、むしろ好んでるぐらいだ。
逆に俺はレイニーじゃなく、異界時は主と呼ばれている。俺が【道化師】と呼ばれる前からだ。二つ名を貰ったところで、そこは変わらない。
「何でミザリーが」
【廃坑】にいるのもそうだが、いつもと違う姿の俺を見分けるなんて。いや……メンバー達なら全員出来るか。
「話は後よ。まずは主に喧嘩を売った相手を殺さないと。主に歯向かうのは【無法者】に楯突くと一緒だからね」
ミザリーは俺よりも前に出て、ドンドンと一対一をするつもりだ。
「貴女は……え〜っと……【黒猫】ね。戦闘に巻き込まれないように、そこから離れないと駄目よ。主と似た姿でいるのは、大目に見るのは今回だけだから」
俺だけでなく、一緒にいるのが【黒猫】というのも分かっているようだ。
そうなってくるとミザリー、【殺戮】が来たのは所長がどうにか呼んだのか。
【殺戮】は【無法者】メンバー以外の顔や名前を覚えない。所長に関しては顔と二つ名ぐらいで、名前は覚えてないと思う。
【黒猫】も本来の姿でも全然覚えようとしなかった。今も何とか名前を出したぐらいだ。




