表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/69

第46話 白いワンピースの少女

作戦室の空気は張りつめていた。

昼間の停電騒ぎと、そこに現れた白い影の記憶が、全員の頭からまだ消えていない。

知沙が静かに口を開く。

「先ほどの怪異ですが、一致するデータがありました。……全員、特異体データシートを確認してください。それから、しばらくは本作戦会議についても鬼頭さんが参加しますので、お願いします」

隊員たちは手元のタブレットに視線を落とす。


特異体登録番号:0011

通称:終電天使

観測信号発生日時:不明

波形強度ランク:不明

アクティブ化日時:不明

アクティブ発生場所:不明

アクティブ化現象概要:会議室内において停電と同時に、「白いワンピースを着た少女(推定14~16歳)」が無音で出現。以降、街中や周辺施設での目撃情報は散発的であり、詳細情報は存在しない。


スクリーンに映し出された映像は、不鮮明ながら確かに白いワンピースの少女らしき姿を映していた。

鬼頭が口を開く。

「……本日、この対防局本部でも確認されている。また、過去にも各地で報告されている。怪異の目撃情報については――」

「はい、私がやります。私が担当です」柚里が手を挙げる。

鬼頭が短く「……よし。説明しろ」とうなずく。


柚里は小さく咳払いをしてから、得意げな口調で語り出した。

「終電天使の噂は、かなり昔からあるの。でも、目撃例はほとんどゼロに近い。真夜中に現れる、どこか儚げで可愛らしい女の子。終電を逃して途方に暮れる天使……それが名前の由来なの」

悠人が疑問を投げる。

「ところで、なぜ登録番号が11番なんだ?」

「特別な怪異には番号が振られているの。存在が確認された順番ね。つまり、かなり初期に発見された特異体ってこと。でも実際には姿が確認されることはほとんどなくて、長年、怪異かどうかさえ怪しまれてた」

柚里はスクリーンの映像を指しながら続ける。

「白いワンピースの人影は、街の片隅やビルの屋上、電車のホームなどにふと現れる。そして、誰にも気づかれないように闇に消える。――まるで、どこかへ誘うように」

彼女が最初に囁く言葉はこんな感じ。

『わたしはどうやって帰ればいいの?』

『あなたは私を助けてくれるの?』

かわいらしい彼女の言葉に、多くの者は正義感をもって、なんとかしてあげなくちゃって思う。すると彼女は微笑み、さらに誘う。

『こっちに来て、お願い…』

気がつけば、彼女はすぐそばに立っている。触れられそうな距離――だが、次の瞬間には姿を消し、闇の向こうに再び現れる。その先に踏み出した者がたどり着くのは、光も音もない深い場所。そこで彼女は振り返り、こう告げるのだ。


『あなた・・いい人だね、ありがとう。

でも、本当にいい人かどうか確かめさせてほしい…』


その笑みとともに、手には鋭い刃。

もう逃げられない。

怪異の力で動きを封じられ、周囲には誰もいない。

――それでも、生きて帰った者がごく稀にいる。

彼らは口をそろえてこう語った。

「気づいたら、人の気配がどんどんなくなって……怖くなって逃げた。そこには屍が山のようにあった。白骨化した死体もあれば、まだ日の経っていない死体も……俺は、あやうくそこに加わるところだったんだ」


柚里の説明が終わると、鬼頭はしばし沈黙した。

やがて神妙な表情で全員を見渡し、低く告げる。

「この件に関しては、殲滅プログラムの適用は、ひとまず不要だ。とにかく、調べて追え!」

その言葉に部下たちがわずかに動揺する。

未影が、わるげのない口調で口を挟んだ。

「またぁ……ころころ言うこと変えちゃうの?怪異は殲滅、じゃなかったの?」

鬼頭の鋭い視線が未影に突き刺さる。

一瞬、その奥に感情が揺れたように見えた。

だが未影は、まるで気づいていないかのように微笑んだままだった。


鬼頭の自宅。

夜の静けさに包まれた六畳の和室に、仏壇の灯が小さく揺れている。

鬼頭は、その前に正座していた。

仏壇の奥には、娘・未來みらいの笑顔を切り取った写真。

視線はそこから離れず、時折、かすかに眉間が寄る。


――あの日から、何度こうして座っただろう。


怪異に跡形もなく飲み込まれ、行方不明となった娘。

遺骨すらない。残されたのは、この仏壇と、思い出の品ばかり。

ふと、供え物のひとつに目が止まる。

紙カップに色褪せたロゴ、ソフトクリームの空容器だ。

未來の好物。


胸の奥がざわついた。

……あの顔。あの輪郭。

見間違えるはずがない。

先日の作戦で、一瞬、視界の端をかすめた少女の姿――あれは、未來だった。

死んだはずの娘。


視線を写真に戻す。

仏壇の灯が、ガラス越しの笑顔をわずかに揺らした。

写真の中の未來が、ほんの一瞬、口元をゆるめた。

微笑んだように見えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ