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18.俺のグループ自然発生

 諒一にロストヴァージンを暴露されてから数日間、彩香は学校を休み続けた。

 その間、辰樹は毎日彼女の為に宿題連絡や伝達事項、その日の授業範囲などをまとめて伝える為に、彩香の部屋を訪れていた。

 辰樹が入室した際、彩香はベッドに潜り込んだまま、頭からシーツを被ってひと言も発しなかった。

 彩香の母は申し訳無さそうに笑っていたが、その心中はきっと穏やかではなかったに違いない。

 そして週が明けると、彩香は再び学校に姿を見せる様になった。


(あの様子なら、もう大丈夫か?)


 彩香はまるで何事も無かった様に朗らかな笑顔を浮かべていた。或いは無理して明るく振る舞っていただけなのかも知れない。

 それに対して辰樹は、敢えて何もいわなかった。彩香が諒一の口から発せられた件について何も語らないのであれば、辰樹も素知らぬふりを通すのが波風を立たせない最適解と踏んだからだ。


(何かあったら、彩ちゃんの方からいってくるだろうし……)


 自らにいい聞かせ、彩香のことは彩香自身に任せることにした辰樹。

 そして現在。

 放課後の教室で臨時の勉強会での講師役を任されている辰樹は、参加している他のクラスメイトらと笑顔を交えて互いに教え合っている彩香の様子を覗き見しながら、参加者らが中間テストで苦戦した問題についての解説を黒板に板書している。


(委員長も、大丈夫っぽいかな)


 優衣も辰樹から距離を取られた直後は幾分塞ぎ込んだ様子を見せていたが、今はその美貌に明るさを取り戻していた。

 流石に彩香程の心理的打撃を受けた訳ではなさそうだったが、辰樹がサフレ解消を告げた直後は、クラスメイトの前では明るく振る舞っていたものの、時折恐ろしく寂しそうな表情を浮かべることがあった。

 が、それでも辰樹は妥協はしなかった。

 カレシ持ちの美少女と個人的に接触を取るなど、辰樹の中ではあり得ない選択だったのである。


(俺ってちょっと考え方古いんかな……?)


 ふと、そんな風に疑問を抱くこともあったが、しかしトラブルになり得る芽は事前に摘んでおいた方が良いという発想は変わらない。

 そんな訳で辰樹は優衣に対してはあれ以降、徹底して距離を取り続けていたが、今回の勉強会にはどういう訳か彼女も水を得た魚の如き勢いで乗り込んできた。


(委員長もだけど……彩ちゃんも、何でまた急に……)


 女子の考えることはよく分からない。彼女らの精神構造は一体、どうなっているのだろうか。

 この勉強会では唐揚げやフライドチキンなどの報酬が確約されている為、辰樹もやむなく彩香や優衣と言葉を交わすことになる。

 だがそれ以上のことはしない。

 彩香とは幼馴染みから先の関係性に踏み込むつもりはないし、優衣についても彼女は飽くまでもクラスメイトのひとりであり、それを越えるやり取りは一切封じる腹積もりだった。


「ねー、佐山くーん。ここら辺、もうちょっと教えて欲しいんだけどー」


 板書を終えたところで、ギャル女子のひとりが手を挙げた。すると他のギャルふたりが、我も我もと立て続けに呼びかけてくる。


「はいはい、了解。じゃあ派手ネイル、ワンレン、ツインテの順に見ていきます」

「ホント佐山くん、うちらの名前覚える気無さ過ぎでしょー」


 派手ネイルと呼ばれたギャル女子が可笑しそうに声を弾ませた。


「いや、おめぇらまだマシだって……オレらなんて、男子ABC呼ばわりだぜ」


 同じく勉強会に参加しているクラスメイト男子のひとりが、自嘲するかの如く苦笑を滲ませた。

 これに対し辰樹は、


「そこは改善してますよ。今は眼鏡A、茶髪B、ノッポCです」


 と、御丁寧に訂正した。

 それが何故かギャル女子らには受けたらしく、彼女らは腹を抱えて笑っていた。


「佐山くんってさー、真面目な顔してオモシロイこというよねー。あたし、そういうセンス好きかも」


 ワンレンが笑い過ぎて、涙を滲ませている。

 するとそんな彼女の台詞に、何故か彩香が渋い表情を浮かべている。何か気に入らないフレーズでも含まれていたのだろうか。

 一方、優衣もほんの一瞬だけ複雑そうな顔を覗かせていた。

 しかし、このふたりがどんな反応を見せようが、辰樹は知ったことではない。彼はもう、腹の中では彼女らとの関係性を割り切っているのだから。

 そんなこんなで二時間を予定していた勉強会も終わり、それぞれが帰り支度を整える段になった。


「やー、でもホント凄いよね佐山くん。あたし今まで全然分かんなかったとこ、今日初めて分かっちゃった」


 ツインテールのギャル女子が心底嬉しそうに顔を間近に寄せてきた。

 彼女に続いてワンレンと派手ネイルも、密着させんとばかりに体を寄せてくる。


「三人とも、近過ぎます」

「えー、イイじゃん別にぃ~……ってかさ、佐山くんこの後、ヒマ? カラオケとか行かない?」


 ぐいぐい迫って来るギャル女子らに、辰樹は完全に気圧されていた。今どきの女子の距離感とは、こういうものなのか。

 ところがそこに、またもや彩香と優衣も食らいついてきた。


「あ、じゃあアタシも行きたい!」

「わたしも、行ってイイかな?」


 こうなると残りの男子三人も同じく、一緒に行きたいと連呼し始めた。


「それじゃ、今日は記念すべき佐山グループ勉強会の、第一回打ち上げってことで~!」


 派手ネイルが勝手にそんなことをいい始めた。

 しかし、辰樹が気にしたのはカラオケ云々よりも、いつの間にかしれっと佐山グループを標榜されていることだった。

 勉強会を開催している期間だけの話であれば良いのだが、そこは後日、本人の意向を確かめる必要があるだろう。

 それは兎も角、カラオケボックスなど小学生の頃に家族と一緒に行って以来だった。


「でも俺、歌える曲とか無いんスけど」

「イイじゃん別にぃ。あ、駅前のカラオケボックスね、唐揚げ美味しいんだって」


 その瞬間、辰樹の思考が一気に切り替わった。


「行きましょう」

「だよねぇ~!」


 ツインテールが嬉しそうに辰樹の太い腕に絡みついてきた。

 そんな様子を、彩香と優衣が微妙な表情で眺めていたが、辰樹は気にも留めなかった。

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