第7話 新たな戦場
美咲が送ってきた座標は福岡市中央区のかつては小さな公園だった場所を示していた。しかしそこに公園の面影はなかった。
草木が生い茂り魔法の粒子がキラキラと舞っている。まるでFシステム内の森がそのまま現実世界に現れたようだった。
「ここが……」
私は息を呑んだ。目の前にはあのFシステム内の森と寸分違わぬ光景が広がっている。まさにファンタジー世界が現実を侵食している証拠だった。
連絡を受けすぐに亮太と彩花が到着する。彼らの顔には驚きと困惑の色が浮かんでいた。
「かげり、これ……、信じられねえ。本当に森になってやがる……」
亮太が呆然と呟いた。彩花も恐怖に顔を歪ませる。
「まさか、ここまで……。これじゃあ、本当に世界が崩壊しちゃうよ……」
美咲も少し遅れて現場に到着し、その光景に目を見開いている。その時、美咲の解析装置がけたたましい警告音を鳴らした。
「空間の歪みが急速に拡大しているわ! しかも、複数の反応が……」
美咲の声と同時に、森の奥から低い唸り声が響き渡った。漆黒の影がいくつも蠢いている。あの化け物たちだ。
「来るぞ!」
亮太が叫び咄嗟に剣を構えた。その瞬間、彼の手に握られたのはいつもの学校指定のバッグではなかった。Fシステム内で使っていた彼の愛剣である銀色の長剣が現実に形をなしていたのだ。剣身に陽光が反射し鋭い輝きを放つ。
「え……?」
私も、彩花も、美咲も、その光景に目を奪われた。亮太自身も自分の手の剣を見て驚きに目を見開いている。
「な、なんだこれ!? 俺の剣がなんで現実世界で使えるんだ!?」
亮太が混乱した声を上げる。しかしそれだけでは終わらなかった。彩花が慌てて回復魔法の準備をしようと手をかざすと彼女の掌から淡い緑色の光が溢れ出した。まるでFシステム内で魔法を使う時と同じように。
「嘘……、私の魔法が、現実に……!?」
彩花も自分の手のひらから放たれる光に呆然としていた。私も無意識のうちに右手に持っていたペットボトルを杖のように構え、「ファイアボール」と小さく呟いた。するとキャップの先端から、まるで本物のような小さな炎の玉がポンと現れた。
「え、えええ!?」
私は自分の魔法に一番驚いた。Fシステム内でしか使えないはずの武器や魔法が、この現実世界でも使えるようになっている。これはFシステムの侵食が私たちの認識や肉体にまで及んでいるということなのか。
「これって……、まさか、Fシステムと現実が完全にリンクしちゃったってこと!?」
亮太が興奮と困惑の入り混じった声で叫んだ。美咲も解析装置のデータを凝視しながら信じられないといった様子で呟く。
「考えられるのは、Fシステムが作り出した空間が現実と完全に融合し始めているということ。この森だけじゃない。福岡の街全体にFシステムの法則が適用されつつあるのかもしれないわ」
美咲の言葉に私は背筋が凍りついた。もしこの街のすべてがFシステムに侵食され、化け物が現れ、魔法が飛び交う世界になってしまったら。それはまさに「世界が崩壊する」ことと同じではないか。
その時、森の奥から再び低い唸り声が響き渡った。漆黒の影がいくつも蠢きこちらへと迫ってくる。その赤い目は私たちをはっきりと捉えているようだった。
「かげり……、やっと会えた……」
甘く切ない少女の声がまた私の頭の中に響く。それはあの化け物の中から聞こえてくる。だが今はその声に恐怖するよりも目の前の脅威に対処する方が先決だった。
「何なの……!? でも……っ!」
私は化け物の中から聞こえる声の正体と、その意味を知るために、そしてこの街と仲間を守るために。恐怖を押し殺して強く杖を握りしめ一歩前へと踏み出した。目の前には現実と虚構が混じり合った新たな戦場が広がっていた。




