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イヴの子供たち 27番目の交響曲  作者: 神海みなも
第1章 呼び声

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第4話 世界の真実

 私たちはFシステムから現実世界へと戻った。西日本支部の会議室は私たちがゲームに入る前と同じように静まり返っていた。叔父さんはいつものように落ち着いた表情で私たちを迎える。しかし、彼の瞳の奥には何かを深く見据えるような光が宿っているように見えた。


 美咲がホログラムモニターにFシステム内での出来事を映し出し詳細を報告する。特にNPCの少女が設定外の言葉を発し、そして消滅したこと。さらに福岡の街に空間の歪みが広がり始めていることを重点的に伝えた。


 叔父さんは私たちの報告を静かに聞いていた。時折、顎に手をやり深く考えるような仕草を見せる。


「……なるほど。Fシステムの異常がここまで現実世界に侵食し始めているとは……」


 叔父さんの言葉はどこか達観(たっかん)しているようにも聞こえた。まるで、この事態を予期していたかのように。


「叔父さん、これって……、どういうことなんですか? あの少女の警告は……、本当に?」


 私は恐る恐る尋ねた。胸の奥でまだ恐怖が(くすぶ)っている。


 叔父さんはゆっくりと私の方を見た。その目はまるで私の心を見透かすかのようだった。


「かげり、君の感じたことは間違っていない。Fシステムはその名の通り『ファンタジーシステム』でありながら現実と虚構の境界を曖昧にする可能性を秘めている。この異常はその可能性が確実に表面化しはじめている証拠だ」


 彼の言葉は私の心をざわつかせる。


「でも、どうしてこんなことに……。誰かがFシステムをハックしているんでしょうか?」


 美咲が鋭い眼差しで叔父さんを見据える。


 彼はふっと口元に微かな笑みを浮かべた。その笑みはどこか不気味で、私には理解できないものだった。


「ハッキング……、そうかもしれないし違うかもしれない。だが、Fシステムの真の力は君たちが想像している以上に広範囲に及ぶ。そしてその力は久遠家の血を引く者でなければ制御できない」


 彼の視線が再び私に向けられた。私の左目がまたチクチクと疼き始める。まるで彼の言葉に呼応するかのように。


「ま、まさか……」


 亮太が驚きを隠せない様子で叔父さんを見る。


「じゃあ、この異常を止めるにはかげりの力が必要だってことですか!? でも、かげりの力って?」


 叔父さんは静かに頷いた。


「その通りだ。かげり、キミの『魔王の血』はFシステムの深層部にアクセスし、この異常を鎮める鍵となる。だからこそ、君を招集した」


 その言葉は私にとっては重すぎるものだった。魔王の血。その響きだけで体が震える。私はそんな途方もない力を本当に持っているのだろうか。そして、その力を使ってこの世界を救わなければならないのだろうか。


 私は思わず目を伏せた。私にそんな大それたことができるはずがない。私はただの……、そう、ただの高校生なのに。


「……でも、私には、そんな力があるなんて……」


 私は弱々しく呟いた。しかし、叔父さんの言葉は続く。


「ある。そして、君はそれを自覚し、受け入れなければならない時が来た。なぜなら、君の身にもすでにFシステムの力が深く関わっているからだ」


 叔父さんのその言葉はまるで私に追い打ちをかけるようだった。私の身にも? 何を言っているんだろう?


 叔父さんは私たちの戸惑いや不安には目もくれず、ホログラムモニターを操作し始めた。そして、映し出された映像に私は息を呑んだ。


 それは一年前に私が事故に遭った時の病院の映像だった。私は無残にも原型を留めていない車の中で意識を失って倒れていた。だが、その後の映像が私の目を釘付けにした。


 担架で運ばれていく私の体は手術室の中へと消えていく。そして、手術後医者に運ばれてきたのは巨大な水槽だけが映し出され、水中には電極がつながった脳だけが浮かんでいたのだ。


「あれ……、は……?」


 私は震える声で尋ねた。心臓が激しく警鐘を鳴らしている。


 叔父さんは冷徹なまでに冷静な声で言った。


「君の体は一年前に失われた。君が今ここにいるのはFシステムの特殊量子で再構築された体だ。君の脳はあそこに映っている水槽の中で今も生きている」


 その言葉に、私の頭は真っ白になった。体が特殊量子でできている? 水槽の中の脳? そんなSF映画のような話がまさか自分の身に起こっているなんて。


 亮太、美咲、彩花も、信じられないといった表情で私と叔父さんを交互に見ていた。彼らの頭上の青いマークが不気味なほど鮮やかに光っている。


 いや、おかしい、Fシステムの外なのにマークがでているなんて。


 ああ、そうか。だから、彼らは私に「サポート側の人間」だと説明したんだ。彼らは、最初からNPCで、最初から全部知っていたのだ。私のこの体が、本物ではないことを。


 私は目の前の現実を突きつけられ、思わずその場に膝から崩れ落ちた。

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