第2話 ドラゴンズ・ゲイトの闇
私はドラゴンズ・ゲイトの空間に足を踏み入れた瞬間、目を丸くした。……うそ、すごい! 石畳の街並みが広がって、遠くにはドラゴンの巣と呼ばれる山がそびえ立っている。
魔法の粒子がキラキラ舞って、木々の間を抜ける風が頬を撫でる。本物みたい……いや、本物以上かも! 私は足元の草を触ってみた。ザラザラした感触が直に感じられた。
「すげーだろ? これがドラゴンズ・ゲイトだ! 俺たちの冒険の舞台だぜ!」
亮太が興奮した声で叫びながら剣を構えてみせる。亮太は本当に元気だな、あはは。 私は一瞬顔をしかめるが、亮太の笑顔を見ると緊張が少しほぐれる。……でも、さっき感じた「何か」の気配が頭から離れない。一般人には見えない化け物…。お祖母ちゃんが戦ったって言ってたあの化け物がいるのかも。
ふと、視線を上げると、亮太の頭上に小さな青いマークが浮かんでる。……え? 私は首をかしげた。美咲と彩花の頭上にも、同じマークが表示されている。
「……ねえ、そのマーク、何?」
私はマークを指差すと亮太に聞いた。彼は一瞬眉をひそめるがすぐに笑顔を作った。
「え……? あ、あぁ、気づいたか? これはNPCとプレイヤーを区別するためのマークだよ。でも今回俺たち三人はサポートする側の人間だから特別にマークがついてるんだ」
へー、なるほど。そういうシステムなんだ。私は見上げて自分の頭上を確認するがやはりマークは出ていなかった。
街の広場に行くとNPCたちが忙しそうに歩き回っていた。彼らの頭上にも、同じ青いマークが浮かんでる。……うわ、めっちゃリアル。まるで本物の人間みたいに喋って、笑って、動いてる。
AIが管理してるって聞いてたけど、ここまでとは……。私は感心しながら彩花に引っ張られる。
「ほらほら、かげりちゃん。クエストボードはこっちよ」
彼女の温かい手に引かれながら私は小さく頷いた。
広場で、美咲がホログラムモニターを操作し始める。
「クエストを確認するわ。異常事態の手がかりになりそうなものを探す」
彼女の声、冷静だなあ。次から次へとモニターにクエストリストが表示される。私は美咲の横に立ってそっと覗き込んだ。『森の奥で魔物が暴れてる』、『行方不明の冒険者を探して』などなど。
――その中に気になるものがあった。『黒い霧の目撃情報』。……黒い霧? 私は胸が締め付けられる。お祖母ちゃんが話してた化け物の特徴だ。
普通の人間にははっきりと見えず、実体がぼんやりした黒い霧のように見えるらしい。私もあの血が流れているから はっきりと見えるはずなんだけど、どうなんだろう?
私はそんな考えを振り払うと今の状況に集中した。私は指差すと「これ…怪しいかも」と呟く。
「そうね、優先して調査しましょう。森の奥なら私の解析装置で異常を検知できるはずだから」
美咲がそう頷くとそれを見ていた亮太が剣を肩に担いでニカッと笑う。
「よし、決まりだ! 俺が先頭行くから、みんなついてこい!」
彩花が「亮太くん、美咲ちゃん、頼りにしてるね。それに、かげりちゃんも!」と二人の肩をポンと叩き、私の方へ振り向き微笑む。私は三人のやりとりを見て胸が温かくなった。
森のちょうど真ん中くらいに差し掛かったときだった。小さなゴブリンに遭遇した。亮太が叫びながら剣を振るって一撃で倒す。彩花が回復魔法をかけて、「怪我がないか確認してね」と優しく言った。
少し離れたところで美咲がデータを解析して、「このゴブリンの挙動、通常より攻撃的ね。Fシステムの異常が影響してる可能性がある」と呟く。
私は戦闘に参加せず木の陰に隠れて様子を見てた。ゲームだとわかってはいるけれど足がすくんでまだ何もできていない。一応攻撃魔法使いだけど、ゴブリンの死体から立ち上る黒い霧を見て心臓がバクバクする。
森の奥に着くと黒い霧が立ち込めるエリアがあった。美咲の解析装置が警告音を鳴らす。
「異常反応……。空間の歪みが発生してるわ、みんな気を付けて!」
亮太が剣を構え、彩花が回復魔法の準備をする。私は一歩後ろに下がって杖を構えた。その時、霧の中から低い唸り声が響いた。普通の人には見えない「何か」が、ゆっくり姿を現す。
四本足の獣っぽい漆黒の体に赤く光る目。輪郭はくっきりしておらず蠢いている。耳まで裂けた口から覗くたくさんの歯が暗闇の中で不気味に浮かんでいた。まるで影自体が生きてるみたい。お祖母ちゃんが話してた化け物そのものだ!
私はビクッと後ずさって頭の中に響く声を聞く。『かげり……。やっと会えた……』甘くて切ない少女の声。……何!? 私は両手で頭を抱える。
「だ、誰……!? 何なの、この声…!?」
「かげりちゃん、どうしたの!?」
私は叫びながらその場に座り込み、彩花が慌てて私のそばに駆け寄る。
「何か襲ってきたのか!?」
亮太は剣を構え森全体に視点を移しながら警戒する。美咲も空間の歪みが急に強くなったことに戸惑い「かげりに……反応してる?」と呟いた。
私は首を振ってその声を頭から追い出す。
「ご、ごめん、大丈夫……。ただ、変な声が聞こえて……」
三人は顔を見合わせ頷くと私の近くに来て体を支えてくれた。みんな私が隠していることに何か気付いたみたいだけど気づかないふりをしてくれている。もうそれ以上は何も聞かれなかった。
私は心の中でありがとうと言うと緊張で張り詰めていた意識がふと途切れ、その場に倒れ込んでしまった。




