第8話
インターホンの音を聞いて、床に倒れた私は目を開けました。
どうやらショックのあまり気を失っていたようです。
スマホを確認すると、時刻は深夜の二時でした。
日奈子からの着信はありません。
私には無事を祈ることしかできませんでした。
インターホンは鳴り続けています。
どれだけ待っても止まりません。
こんな時間帯にまともな人間が訪問してくるはずがありません。
相手の正体を察しつつも、私は壁のパネルを操作し、部屋の前に誰がいるのかカメラで確かめました。
画面いっぱいに人間の頭部が映っています。
近すぎて見えづらいのですが、頭を小刻みに上下させることでインターホンを押しているようです。
角度的に顔は分からないものの、それは紛れもなくお辞儀さんでした。
私は小さく悲鳴を上げてカメラ映像を切り、リビングの端まで逃げました。
布団を頭で被り、目を閉じてじっと丸くなります。
今の私にはそれくらいしかできません。
玄関に向かうという選択は実行しようとも思いませんでした。
そのうちインターホンの音が止みました。
安堵したのも束の間、今度は真後ろの雨戸がゴンゴンと鈍い音が鳴り始めます。
お辞儀さんが頭をぶつけているのでしょう。
侵入を諦めたわけではなく、むしろ過激になっていました。
私はトイレに駆け込み、緊張と恐怖から嘔吐しました。
その直後、施錠した扉の向こうから頭をぶつける音が始まります。
お辞儀さんはすぐそこまで迫っていました。
パニック寸前の私は頭を抱えて叫びました。
「もう、やめて。どっか行ってよ!」
音がぴたりと止まりました。
耳を澄ませますが、何も聞こえません。
ドアノブが回されることもありませんでした。
(怒鳴られていなくなった……?)
希望的観測を脳裏に浮かべつつも、意識はまだ油断していません。
私は物音を立てることなく、そのままひたすら待ちました。
スマホの時刻表示が朝の五時になったところで、私はようやく動き出しました。
ゆっくりと鍵を開け、慎重に扉を開きます。
扉が半ばほどで何かに引っかかって止まりました。
私は咄嗟に扉を閉めようとするも間に合わず、そこにあった光景を目の当たりにしてしまいます。
トイレの前には、頭を下げたお辞儀さんが立っていました。