第7話
除霊先輩の訃報を聞いた翌日。
私は自宅に引きこもっていました。
雨戸とカーテンを閉めて、一日中テレビを大音量で流しています。
食事もストックしてあったカップ麺で済ませて、極力誰とも関わらないようにしています。
私はお辞儀さんの呪いを目の当たりにしました。
もはやただのストーカーでないことは明らかです。
先輩は私が憑かれていると言っていました。
たったあれだけの会話で、お辞儀さんは先輩に目を付けて殺したのでしょう。
布団にくるまってテレビに集中していると、スマホの着信音が鳴りました。
日奈子からです。
私は応じるか迷いました。
下手に話すと、お辞儀さんが彼女の危害を加えるかもしれないからです。
葛藤の末、私は着信を無視することにしました。
ところが日奈子が何度も連絡をしてきます。
たぶん私を心配しているのでしょう。
一人で恐怖に耐え続けるのも限界だったので、私は震える手で通話を開始してしまいました。
「ひ、日奈子……」
『美琴。ずっと連絡取れなかったけど大丈夫?』
「私は平気……日奈子は……?」
『今のところ何もない。それよりさ……』
日奈子が何かを説明しているのですが、音声が途切れがちで上手く聞こえません。
代わりにコツコツという音が一定のテンポで鳴っていました。
何かをぶつけているような音です。
ぎょっとした私は尋ねます。
「ねえ、日奈子」
『何?』
「今どこにいるの」
『大学だよ。除霊先輩の件で警察がいっぱい来てる。臨時休講ばっかで暇になっちゃった。マスコミもいて大騒ぎだよ』
日奈子はうんざりした調子で話していますが、私はそれどころではありません。
コツコツという音はずっと続いています。
そのテンポがだんだんと速くなっている気がしました。
私は焦りながらも懸命に伝えます。
「日奈子、すぐにそこから逃げて」
『え? どうしたの』
「あいつがそばにいるの! 早く逃げてっ!」
『ちょっとちょっと、落ち着いて。除霊先輩の件に日奈子は関係ないよ。あれがお辞儀さんの仕業だってまだ決まったわけじゃ――』
通話が唐突に切れました。
すぐに連絡を試みますが反応はありません。
私はスマホを持ったまま固まります。
「日奈子……?」
私のせいで、日奈子がお辞儀さんの標的になってしまった。
後悔と絶望が一気に押し寄せて、私は目の前が真っ暗になりました。