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第4話

 午後の講義中、私はずっとスマホをいじっていました。

 お辞儀さんについて調べていたのです。

 日奈子はコンカフェの客からお辞儀さんの都市伝説を聞いたと言っていました。

 だからインターネットで探せば、元ネタが見つかると思ったのです。


 ところがそれらしき情報は一切出てきません。

 似たような怪談や都市伝説はヒットしますが、お辞儀さんとは関係なさそうです。

 結局、私は途中で調査を断念しました。


 どうやらお辞儀さんは、インターネット由来の話ではないようです。

 そうなるとコンカフェ客の創作か、かなりマイナーな伝承が元になっているのでしょう。

 コンカフェ客に直接確認するのが手っ取り早いのですが、日奈子によるとしばらく多忙で店に来ないそうです。

 連絡先も交換しておらず、こちらから接触する手段はないとのことでした。


 色々と調べたり推理したものの、私の情熱は冷めつつありました。

 駅や駐車場にいたのは、たぶんストーカーでしょう。

 実在する都市伝説とそう都合よく遭遇できるはずがありません。

 現実的に考えればすぐに分かることです。


 それなのに念入りに調べたのは、ある種の悪あがきでした。

 本物の都市伝説を経験したいという願望から、なんとなく逃避思考に耽っていたのです。

 ただタイミング悪くストーカーに目を付けられただけだというのに。

 なんでもホラーに結び付けたがるのは良くないと痛感しました。


 その日はまっすぐ家に帰りました。

 シャワー中も残念な気持ちは晴れません。

 お辞儀さんに対する期待感は、自分で思っているより高かったようです。


 私がホラーというジャンルが大好きです。

 ゾクッとする瞬間を味わい、何とも言えない気持ちに浸ることにハマっていました。


 たとえば今みたいに頭を洗っている時なんて絶好のチャンスです。

 もしこれがホラー映画なら、どこからともなく不穏な視線を感じることでしょう。

 そして、指と髪の隙間から別人の手が現れるのです。


(まあ、実際は何も起きないけど……)


 しっかりと髪を洗ってから、私は浴室を出ました。

 ドライヤーで髪を乾かしながらテレビを観ます。


 テレビもホラーでは定番のアイテムです。

 画面に映る人物が歪み、恐ろしい顔になるのです。

 それが霊が出現する予兆だったりして、視聴者に恐怖を与えてきます。


 無論、現実は安全です。

 テレビは正常にバラエティー番組を放送しています。

 異変なんて発生しません。


 眠たくなった私は布団に入りました。

 そこでまた妄想します。

 布団がゆっくりと膨らみ、中から女の霊が這い出してきます。

 そして、私を引きずり込むのです。

 ホラーではありふれた、しかし効果的な演出です。


 そんな妄想をしてみても、やはり現実の私には何も起きませんでした。

 所詮こんなものです。

 お辞儀さんなんて実在しません。

 あれはただの気持ち悪いストーカーです。

 勝手に失望しながら、その日はさっさと寝ました。

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