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第3話

 大学の食堂で焼き魚の定食を食べていると、ヘロヘロの日奈子がやってきました。

 日奈子は私の向かい側に座り、ぐったりとテーブルに突っ伏します。

 私は特に気にせず挨拶をしました。


「おはよう」


「おはよー……もう死にそう」


「味噌汁いる?」


「ありがとう。美琴、愛してる……」


 掠れた声でプロポーズしつつ、日奈子は私の味噌汁をゆっくりと飲み干しました。

 そして渋い顔で深々と息を吐き出します。

 二日酔いが相当響いているようです。

 まあ、日奈子がこんな状態なのは珍しくないため、私のリアクションも薄くなりがちでした。


 日奈子は昼食のゼリーだけ買ってくると、それをスローペースで食べ始めました。

 その間、私は今朝の駅の出来事を話しました。

 すると日奈子はスプーンをくわえたまま胡乱な顔になりました。


「お辞儀さんに会ったぁ? ただのやばいオッサンでしょ」


「そうかもしれないけど……」


「絶対勘違いだって。飲みの時にいっぱいホラー談義したから、変に意識しただけだって」


 日奈子は半笑いで私を諭してきます。

 同意しかけた私は、窓の外の光景に動きを止めました。

 閑散とした駐車場の端に、駅で見た例の男がいたのです。

 男はやはり同じポーズで小刻みにお辞儀を繰り返していました。


 私は思考停止して釘付けとなりました。


「えっ」


「どうしたん。イケメンでもいた?」


「違う。お辞儀さん。今朝に見たのと同じ人だ」


 私は食べかけの定食を置いて食堂を飛び出しました。

 大急ぎで駐車場に向かうも、そこに男の姿はありませんでした。

 追いかけてきた日奈子が周囲を見回します。


「いないじゃん」


「近くにまだいるかも。探そう」


「えー……講義に遅れそうなんだけど」


「どうせ課題やってないからいいでしょ」


「あっ、確かにそうだ」


 付近を手分けして探しましたが、男と会うことはありませんでした。

 諦めて食堂に戻ったところで、日奈子がジロッとした目で私に言います。


「お辞儀さんじゃなくて、たぶん美琴のストーカーなんじゃない?」


「えっ、なんで」


「顔が好みで大学まで追いかけてきたとかさ。それで見つかって逃げたみたいな。都市伝説より現実味があるじゃん」


「それはそうだね」


 頷きつつも、私はどこか釈然としませんでした。

 私の心情を察した日奈子は新たに提案します。


「そんな気になるなら、除霊先輩に相談してみたら?」


「除霊先輩……? 誰それ」


「知らないの。大学の有名人だよ。あたし達の一つ上の先輩で、なんか霊能力者なんだって。除霊の仕事で小銭稼ぎをしてるって聞いたよ」


「胡散臭いんだけど……」


「それなー。でも本当に気になるなら相談するのもアリだと思う」


 除霊先輩のことは初めて聞きましたが、悪くない案でした。

 お金を払うのは抵抗があるものの、相談できる人がいるのは心強いです。

 私は少し考えた後、笑って答えました。


「まあ一応、考えとくよ」


「相談する時はあたしも呼んでね。除霊先輩ってイケメンらしいから」


「ナンパするつもり? 彼氏いるでしょ」


「もう別れましたー。だから無罪でーす」


 日奈子は変顔をして笑っています。

 まだ酒が残っているのか、妙にテンションが高いです。

 その後はいつもの調子で雑談しながら昼食を済ませました。

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